オーウェル『一九八四年』あらすじと感想~全体主義・監視社会の仕組みとはー私たちの今が問われる恐るべき作品
オーウェル『一九八四年』あらすじと感想~全体主義・監視社会の仕組みとはー私たちの今が問われる恐るべき作品
今回ご紹介するのは1949年にジョージ・オーウェルによって発表された『一九八四年』です。
私が読んだのは早川書房、高橋和久訳の『一九八四年』2016年第27刷版です。
早速この本について見ていきましょう。
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“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。解説/トマス・ピンチョン。
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『一九八四年』は言わずと知れたディストピア小説の最高峰です。
私がこの作品を初めて読んだのは10年ほど前の学生時代でした。まだ20歳そこそこで世界のこともあまりわかっていなかった当時の私でしたが、この本の恐ろしさに強烈な印象を受けたのを覚えています。
今回久々に『一九八四年』を読み直したわけですが、今度の『一九八四年』は前回とは全く違った恐怖を感じることになりました。
と言うのも、私は最近、ソ連やナチス、独ソ戦の歴史を学び、全体主義の恐怖をこれでもかと感じていたからです。
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できることならばすべての記事を紹介したいところですがそれもできません。
ただ、ソ連やナチスの歴史の学んだ上で『一九八四年』を読んですぐに気づいたのは、『一九八四年』が単に未来のディストピアを予言して描いたものではなく、当時現実に起こっていたことを驚くべき正確さでもって描いていたということでした。
もちろん、テクノロジーの問題がありますので全てが全て現実通りというわけではありません。しかしビック・ブラザー率いる党の理念や行動原理はまさにソ連の全体主義とそっくりであることを感じます。
この小説の中で出てくる有名な「二重思考」も実際にそれに近い状況がかつてのソ連にもありました。以下の記事でそうした実例をいくつか紹介しています。私はジイドの『ソヴィエト旅行記』を読んで『一九八四年』を連想せざるをえませんでした。
『一九八四年』は党の体制に疑問を抱く主人公ウィンストンを軸に物語が進行していきます。どうしても党のあり方に順応できない彼は異端者です。本人も「自分がすでに死んでいる」存在であることを感じています。
そんな異端者ウィンストンの目を通して読者の私たちもその社会の異様さを見ていくことになります。
オーウェルが巧みだなと思うのはウィンストンを孤独な異端者にすることで、読者である私たちも同じ異端者の目でその世界を見ることができる点です。ウィンストン以外の人間は彼らが生きる世界をおかしいとは思っていません。彼らはビック・ブラザーの教えを忠実に守り、もはやそれに対し全く疑問を持たないように教育され、それが完全に身に沁みついているのです。もしそんな彼らの目を軸にウィンストンを眺めていったなら全く違った雰囲気の作品になったと思います。(それはそれで恐ろしいものが出来上がったでしょうが・・・)
また、この小説の優れたところは全体主義のメカニズムを詳細に解説していく点にあると思います。いかにして国民の意識をコントロールするか、異端者をあぶり出すか、そうしたプロセスが詳細に語られます。
また、何より恐ろしいのは異端者たるウィンストンをただ捕まえて殺そうとするのではなく、彼の精神を完全に書き換え、善良なるビック・ブラザーの徒に作り変えてしまおうとする党のあり方です。執行官のオブライエンが淡々とウィンストンを追い詰め、改造していくシーンは戦慄ものです。
異端者がある日突然消えることはソ連時代には日常茶飯事でした。この作品ではそれを「蒸発する」と表現していますが、ウィンストンの改造は蒸発のさらなる先を示しています。
この作品は単に未来のディストピアを想像して書かれたものではありません。実際にソ連やナチスの全体主義で行われていたことが描かれています。
ですがよくよく考えてみましょう。この作品は私たちにとっての未来の姿なのでしょうか、過去の姿なのでしょうか。
私はこの作品は私たちの現在の姿でもありうると感じました。
それはソ連の歴史を学んでいた時にも強く感じたことでもあります。
国民の精神をどのように誘導し、権力に都合のいいように動かしていくか。全体主義体制はあらゆる手段を用いてそれをコントロールしようとします。
それは注意して見ていかないと気付くことができないレベルで徐々に徐々に私たちに浸潤してきます。
『一九八四年』の世界においても、最初からビック・ブラザーが全てを掌握していたのではないのです。しかし、いつしか国民が自分から進んでビック・ブラザーに忠誠を誓い、互いに監視し合うようになってしまったのです。そうなってしまっては一個人が疑問を持ってもウィンストンのように簡単に捕らえられ、蒸発、あるいは改造されてしまいます。
『一九八四年』はどの時代においても「今」を問うてくる作品です。
「今」、私たちはどのような世界に生きているでしょうか。
私はコロナ禍が始まった頃からこのことに対し特に恐怖を感じています。
皆さんはどう思いますか?『一九八四年』を読んだ方には特に聞いてみたいです。私は『一九八四年』をフィクションだからと見過ごすことができません。歴史を振り返って見れば、この小説は単なる未来のディストピアで済ませられるものではないのです。いつ私たちの前にビック・ブラザーが現れてもおかしくないのです。
そして恐いのは、ビック・ブラザーがビック・ブラザーとわからないように現れてくるということも大いにありえるということなのです。それこそ知らぬ間に管理社会が完成することがありうるのです。
『一九八四年』は非常に恐ろしい作品です。ですがこれほど重要な作品もなかなかありません。現代の必読書の一つであると私は思います。ぜひ、読んで頂きたい作品です。
以上、「オーウェル『一九八四年』あらすじと感想~全体主義・監視社会の仕組みとはー私たちの今が問われる恐るべき作品」でした。
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