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鹿島茂『馬車が買いたい!』あらすじと感想~青年たちのフレンチ・ドリームと19世紀パリの生活を知るならこの1冊!

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鹿島茂『馬車が買いたい!』概要と感想~青年たちのフレンチ・ドリームと19世紀パリの生活を知るならこの1冊!

今回ご紹介するのは1990年に白水社より発行された鹿島茂著『馬車が買いたい!』です。

早速この本について見ていきましょう。

十九世紀フランス小説の中で、青雲の志を抱いてパリへやってきた青年たち―『ゴリオ爺さん』のラスチニャック、『幻滅』のリュシアン・ド・リュバンプレ、『赤と黒』のジュリアン・ソレルといった面々には、共通した願望があった。「馬車が買いたい!」

馬車は、小説の中にとどまらず、実際に当時の青年たちが夢見たステイタスシンボルであり、日々の生活から恋愛や出世にまで関わる、切実な問題でもあった。著者は小説の主人公たちを例に、十九世紀パリの衣食住や交通、各種娯楽の実情を、豊富な資料を駆使して生活者の視点から解き明かす。彼らの食費や家賃で実際にどの程度の生活ができたのか。下宿生活をするには、どのくらい仕送りをもらう必要があったのか。馬車の値段はいくらで、維持するにはどれほどの年収が必要なのか。具体的な数字や描写、貨幣価値の説明によって、当時の世相や人々の意識構造がリアルに浮かび上がってくる。

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この本ではバルザックの『ゴリオ爺さん』『幻滅』、スタンダールの『赤と黒』の主人公たちを手がかりに、地方から華の都パリに上京し成功を望む若者が見たパリを解説していきます。『レ・ミゼラブル』のマリユスもこの本では登場します。

この本は地方からパリに上ってくる馬車の解説からスタートします。地方から都に出てくるには移動手段が必要です。当時は鉄道もありませんので馬車です。そして彼らにはお金がないので乗合馬車でやってくることになります。一言で馬車と言っても様々なランクがあります。貧乏な青年である彼らが乗れるのはどんな馬車か。こうした所から鹿島氏は詳しい解説をしてくれます。ただ単に「こういうものがあってこうこうこうなのです」という事実の羅列ではなく、そこにある背景や「なぜ」をふんだんに語ってくれるのでものすごく面白いです。

この本では移動手段の説明から始まり、パリへの入場の手続き、宿探し、毎日の食事をどうするかを物語風に解説していきます。

そしてそこからダンディーになるためにどう彼らが動いていくのか、またタイトルのようになぜ「馬車が買いたい!」と彼らが心の底から思うようになるのかという話に繋がっていきます。

前回の記事「なぜフランス人男性はモテるのかーパリの伊達男「ダンディー」の存在から考えてみた」ではパリの伊達男「ダンディー」についてお話ししていきましたが、この本ではダンディーになるまでのいわば下積み時代の生活を知ることができます。私たちはパリといえば華やかな世界を想像してしまいがちですが、その華やかさはほとんどの人には縁のないものでした。上流階級が豪勢な営みをしているすぐそばでパリの普通の人々の「普通の生活」が営まれていたのです。もちろん、貧困層も然りです。

これまで紹介してきた『レ・ミゼラブル』のマリユスや、貧しかったころのジャン・バルジャンの話も出てきます。彼がパンを盗まざるをえないようなパリの貧困層の生活や食事事情などもこの本では語られていきます。

優雅な「おフランス」の姿だけでなく、普通の人々の生活を知れる貴重な1冊となっています。

成り上がりを目指す当時の若者たちの様子をつぶさに知ることができるこの本はとにかく面白いです。非常におすすめです。

以上、「鹿島茂『馬車が買いたい!』青年たちのフレンチ・ドリームと19世紀パリの生活を知るならこの1冊!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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