MENU

「第五部 ジャン・ヴァルジャン」あらすじと感想~感動のクライマックス!ドストエフスキーがレミゼを好きでいてくれてよかった!!

レ・ミゼラブル第5部
目次

ユゴー『レ・ミゼラブル㈤ 第五部 ジャン・ヴァルジャン』の概要とあらすじ

『レ・ミゼラブル』は1862年に発表されたヴィクトル・ユゴーの代表作です。

あわせて読みたい
ユゴー『レ・ミゼラブル』あらすじと感想~ミュージカルでも有名なフランス文学の最高傑作! 『レ・ミゼラブル』は分量も多く、原作はほとんど読まれていない作品ではあるのですが、基本的には難しい読み物ではなく、わかりやすすぎるほど善玉悪玉がはっきりしていて、なおかつ物語そのものもすこぶる面白い作品です。 しかも単に「面白過ぎる」だけではありません。この作品にはユゴーのありったけが詰まっています。つまり、ものすごく深い作品でもあります。私もこの作品のことを学ぶにつれその奥深さには驚愕するしかありませんでした。 ぜひミュージカルファンの方にも原作をおすすめしたいです

今回私が読んだのは新潮社版、佐藤朔訳の『レ・ミゼラブル』です。

今回は5巻ある『レ・ミゼラブル』の5巻目を紹介していきます。

早速裏表紙のあらすじを見ていきます。

第五部「ジャン・ヴァルジャン」。1832年6月5目、パリの共和主義者はいっせいに蜂起し、市街戦を展開する。その中には傷ついたマリユスや彼を助けるジャンの姿もみられた。やがてコゼットとマリユスは結婚し、ジャンはマリユスに自分の素姓を語り、離れて暮すことになるが、コゼットがいなくなるとジャンは心身ともに衰え、二人がかけつけた時にはすでに死の床にあった……

Amazon商品紹介ページより

いよいよ、『レ・ミゼラブル』もクライマックスです。

第4巻から引き続き、舞台はバリケード戦。

戦いは最終局面を迎え、悲劇的な結末を迎えます。

さて、最後の戦いが行われる前、ジャン・ヴァルジャンはコゼットの恋人、マリユスを救うためバリケードの中へと潜入します。

愛するコゼットを失うかもしれないという苦しみから、マリユスがバリケード戦で死んでしまうことを望んでいたジャン・ヴァルジャンでしたが、やはり彼は善良なる男でした。彼はマリユスを死なせないためにも、バリケードへ赴くのです。

バリケードへ潜入したジャン・ヴァルジャン。

共和主義者たちに迎え入れられ、敵の攻撃から彼らを守ったジャン・ヴァルジャンはすぐに信頼を得ることになります。

そしてここで思わぬ男と再会することになるのです。

それが宿敵、ジャヴェールでした。

ジェヴェールはスパイとしてこのバリケード内に潜り込んでいましたが、素性がばれ拘束されていました。

ジャン・ヴァルジャンは彼の処刑を任せてもらうことを願い出ます。

信頼を得ていたジャン・ヴァルジャンはそれが認められ、ジャヴェールと共にその場を離れていきます。

ジャヴェールは殺されることを覚悟します。彼が死ねばジャン・ヴァルジャンは永遠に自由になり、もはや追って来る者もいなくなるからです。

しかしジャン・ヴァルジャンは彼を殺すどころかナイフで縄を断ち切り、彼を自由の身にします。そしてあろうことか、自分の住所さえ教え、「もし私がここから出られたら、そこにいる」と伝えてしまいます。

ジャヴェールは自分は彼に復讐されるもの、殺されるものだと思っていました。

しかし彼は復讐どころか、自分を逃がし、さらには自分を捕まえてくれとさえ言うではありませんか。

ジャヴェールはパニックに陥ります。

これまでジャヴェールはいつもジャン・ヴァルジャンのことを「お前」と呼んでいました。

しかし去り際に彼は無意識に「君には悩まされる」と漏らし、もはや「お前」呼ばわりはできなくなっていたのでした。

これはジャヴェールにとってはありえない心境の変化でした。このことについてはまた後にお話しします。

さて、バリケードの戦いはいよいよ終結に向かいます。

警察側の激しい攻撃によってバリケードは突破され、共和主義者たちは勇敢に抵抗するもついに最後の時を迎えます。

マリユスも負傷し意識を失います。

ジャン・ヴァルジャンはそんな彼を背負い、なんとか脱出を図ります。ここにいたら皆殺しにされてしまうからです。

彼はぎりぎりのところで下水道への道を発見し、そこに逃げ込みます。

パリの下水道はあまりに巨大かつ複雑に入り組んでいて、ユゴーはそれを「巨獣のはらわた」と表現しています。

ジャン・ヴァルジャンはマリユスを背負い、「巨獣のはらわた」をさまよい、脱出を目指します。この真っ暗闇の下水道の冒険も手に汗握る張り詰めたシーンです。ジャン・ヴァルジャンの不屈の精神と、英雄のごとき肉体の力強さが感じられます。

ここでもまた劇的な出会いがあり、テナルディエとのまさかの邂逅や、なんとか脱出したかと思いきやまたもやジャヴェールと対面するという目まぐるしい展開。

ここでジャン・ヴァルジャンとジャヴェールとの最後の戦いが繰り広げられます。

とは言っても、言葉を交わすだけですがジャヴェールにとって自分の存在意義が揺らぐほど、いや全てが崩壊するほどの衝撃を彼に与えることになります。

ジャン・ヴァルジャンとマリユスは無事に帰還し、コゼットとマリユスは後に結婚することになります。

これでめでたしめでたしと思いきや、ジャン・ヴァルジャンは自分が徒刑囚であったこと、脱獄をしたことをマリユスに伝え、身を引き、コゼットを失った苦しみにもがき苦しむことになります。

ジャン・ヴァルジャンは自分の過去が2人の重荷になることを恐れたのです。

マリユスはジャン・ヴァルジャンのことをほとんど知りません。彼がバリケードから自分を救ってくれたことすら知りません。

マリユスはジャン・ヴァルジャンをただの怪しい老人としか考えていなかったのです。

この誤解がどう解けるのか。そしてジャン・ヴァルジャンは最後にどうなってしまうのか。物語はそうしてフィナーレを迎えていくのです。

感想―ドストエフスキー的見地から

いよいよ長く続いた『レ・ミゼラブル』もフィナーレを迎えます。

この巻の見どころはまず何と言ってもバリケードの最後の攻防です。

若者たちが彼らの信じる正義のために命を賭して戦う姿は心を打つものがあります。

そしてそこから負傷したマリユスを背負ってパリの下水道を踏破するジャン・ヴァルジャン。

何が起こるかわからない暗闇の地下迷宮を追手が迫りながらも逃げ続けるシーンは尋常ではない臨場感、緊張感でした。

また、私の中での最高のシーンはジャヴェールがジャン・ヴァルジャンをもはや「お前」呼ばわりできなくなってしまったシーンです。

ジャヴェールの中で何か決定的な変化が起こった。

それはジャン・ヴァルジャンが第一巻でミリエル司教と出会って人生ががらっと変わった場面を彷彿させます。

ジャヴェールはこれまでの人生を支えてきた原理が崩壊するのを感じます。

自分が信じていた法の絶対性が揺らぎ、罪人であるジャン・ヴァルジャンの偉大なる善の力に恐れおののくジャヴェール。

彼はその葛藤に絶望し自ら命を絶ちます。

ジャヴェールの内心の戦いがユゴーによって丹念に描かれます。これは5巻にわたってジャン・ヴァルジャンとジャヴェールの戦いを見届け続けた私たちにとっても非常に重大な問題です。

善良なるジャン・ヴァルジャンを捕えようとする、血も涙もない悪玉として描かれていたジャヴェールという男ははたして何者だったのか。

ジャヴェールを通してユゴーは何を言いたかったのか。

私はジャヴェールこそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公だと思っています。善と悪に引き裂かれ、そして自らの信念に殉じていたがゆえに破滅するその心。これはドストエフスキーにも通ずる問題のように思います。

ジャヴェールについては以下の記事「ジャヴェールこそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公である!愛すべき悪役ジャヴェールを考える」で改めてお話ししていきますのでぜひこちらの記事もご覧ください。

あわせて読みたい
ジャヴェールこそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公である!愛すべき悪役ジャヴェールを考える 私にとって、『レ・ミゼラブル』で最も印象に残った人物がこのジャヴェールです。 このキャラクターの持つ強烈な個性がなんとも愛おしい。 たしかに悪役なのですがなぜか憎みきれない。 そんな魅力がこの男にはあります。 この記事ではそんな「もう一人の主人公」ジャヴェールについてお話ししていきます。

『レ・ミゼラブル』の中で私が最も印象に残った人物こそこのジャヴェールです。登場するシーン自体はそこまで多くはありませんが、第5巻はもう彼の輝きが別格でした。

さあ、『レ・ミゼラブル』をすべて読み終えました。

最高に美味しいものを心ゆくまで味わった幸福な満腹感とでも言いましょうか、とにかく心地よい満足感です。

これまでずっと戦い続けてきたジャン・ヴァルジャンに「お疲れ様」とねぎらいたくなる気持ちでいっぱいになります。

この物語には救いがあります。読んでいて元気が出ます。

たしかにこの作品は『レ・ミゼラブル』のタイトル通り、「悲惨な人々」がたくさん描かれます。ファンチーヌはその最たる例です。

しかし、そんなみじめな人びとを生み出すこの世においてジャン・ヴァルジャンのような人間が戦い続けている。ミリエル司教のような高潔で善良な人間がいる。そしてかれらの善なる力が次の世代に引き継がれていく。

こうした人間の持つ崇高な善なる力、理想がこの作品では描かれています。

この作品をドストエフスキーが好きでいてくれてよかった!

ドストエフスキーは人間のどす黒さを描く暗い作家というイメージが世の中では根強いです。

ですがそんな彼が愛してやまない作品がこの光あふれる『レ・ミゼラブル』なのです。

この事実はドストエフスキー作品と対面する時にも必ず何かしら影響を与えてくれるものだと私は思っています。

以上、『「第五部 ジャン・ヴァルジャン」あらすじと感想~感動のクライマックス!ドストエフスキーがレミゼを好きでいてくれてよかった!!』でした。

Amazon商品ページはこちら↓

レ・ミゼラブル(五)(新潮文庫)
レ・ミゼラブル(五)(新潮文庫)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』あらすじと感想~ユゴーの原作との比較 ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』解説とキャスト、あらすじ 原作の『レ・ミゼラブル』を読み終わった私は早速その勢いのままにミュージカル映画版の『レ・ミゼラブル...

前の記事はこちら

あわせて読みたい
「第四部 プリュメ通りの牧歌とサン・ドニ通りの叙事詩」あらすじと感想~大迫力のバリケード戦!物語... 第4巻からクライマックスに向けて一気に物語は動いていきます。 第4巻、第5巻と続くバリケード戦の迫力は圧倒的です。まるでハリウッド映画のようです。映像ではなく言葉でこれを表現できるというのは驚くべきことだと思います。 読んでいて本当に物語の世界観に没入させられます。こういう読書体験は一度体験すると病みつきにさせられてしまうほどです。 さて、いよいよ次で最終巻。ジャン・ヴァルジャンの物語もフィナーレを迎えます。

関連記事

あわせて読みたい
ドストエフスキーも愛した『レ・ミゼラブル』 レミゼとドストエフスキーの深い関係 ドストエフスキーは10代の頃からユゴーを愛読していました。 ロシアの上流階級や文化人はフランス語を話すのが当たり前でしたので、ドストエフスキーも原文でユゴーの作品に親しんでいました。 その時に読まれていた日本でもメジャーな作品は『ノートル=ダム・ド・パリ』や『死刑囚最後の日』などの小説です。 そんな大好きな作家ユゴーの話題の新作『レ・ミゼラブル』が1862年にブリュッセルとパリで発売されます。 ちょうどその時にヨーロッパに来ていたドストエフスキーがその作品を見つけた時の喜びはいかほどだったでしょうか!
あわせて読みたい
ジャヴェール(ジャベール)はなぜ死んだのか。『レ・ミゼラブル』原作からその真相を探る。 前回の記事「ジャヴェールこそレミゼのもう一人の主人公である!愛すべき悪役ジャヴェールを考える」ではジャヴェール(ジャベール)こそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公であるということをお話ししました。 そして今回の記事ではそのジャヴェールがなぜ自ら死を選んだのかということを、レミゼの原作にたずねていきます。
あわせて読みたい
「第一部 ファンチーヌ」あらすじと感想~偉大なる主人公ジャン・ヴァルジャンとは! わずか一片のパンを盗んだために、19年間の監獄生活を送ることになった男、ジャン・ヴァルジャン。 ジャン・ヴァルジャンという名を聞けば、おそらくほとんどの人が「あぁ!聞いたことある!」となるのではないでしょうか。この人ほど有名な主人公は世界中見渡してもなかなかいないかもしれません。 そのジャン・ヴァルジャンの過去や彼の心の支えとは何なのかということがこの第一部「ファンチーヌ」で明らかにされます。 ということで早速この本を読み始めてみると、驚きの展開が待っています。
あわせて読みたい
「第二部 コゼット」あらすじと感想~薄幸の美少女コゼットとジャン・ヴァルジャンの出会い 第2巻は物語の展開がドラマチックで、なおかつ息もつかせぬ緊張感があります。 ここまで読み進めることができたらもう止まることはできません。 きっとここからは挫折することなく一気に読んでいくことができるでしょう。 いよいよ盛り上がって参りました。『レ・ミゼラブル』、非常に面白いです。
あわせて読みたい
「第三部 マリユス」あらすじと感想~物語のキーパーソン、マリユスの登場 この巻では青年マリユスの生い立ちや彼の人柄がほぼ丸々1冊をかけて描かれることになります。 第3巻の最後にはテナルディエ一家とジャン・ヴァルジャン、そしてジャヴェールとの手に汗握る対決のシーンがあります。ここも見逃せません。 壁の穴からその顛末をのぞくマリユスの目を通して私たち読者もそのシーンを目撃することになります。 このシーンも本当に素晴らしいです。驚くべき臨場感! こんなシーンを言葉のみで表現するユゴーの力にはただただ脱帽するしかありません。
あわせて読みたい
ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』あらすじと感想~ディズニー映画『ノートルダムの鐘』の原作 『レ・ミゼラブル』がドストエフスキーにとって非常に思い入れのある作品であるということはお話ししましたが、まさか『ノートル=ダム・ド・パリ』も彼とここまで深い関係があるとは驚きでした。 やはり彼にとっても『ノートル=ダム・ド・パリ』はそれほど面白い作品であるということなのでしょう。 最後はまさかと思うほどの悲劇的な終わり方を迎えてしまい、ずーん…としてしまいますが心に与える衝撃というのはものすごいものがあります。私にとってもとても印象に残った作品となりました。
あわせて読みたい
長編小説と読書の3つのメリット~今こそ名作を読もう!『レ・ミゼラブル』を読んで感じたこと 皆さんは長編小説と言えばどのようなイメージが浮かんできますか? 古典。難しい。長い。つまらない。読むのが大変・・・などなど、あまりいいイメージが湧いてこないかもしれません。 特に一昔前の有名な作家の古典となると、それは余計強まるのではないでしょうか。 ですが今回レミゼを読み終わってみて、長編小説ならではのいいところがたくさんあることを改めて感じました。 この記事では普段敬遠されがちな長編小説のメリットと効能を考えていきたいと思います。
あわせて読みたい
『レ・ミゼラブル』おすすめ解説本一覧~レミゼをもっと楽しみたい方へ 原作もミュージカルもとにかく面白い!そして知れば知るほどレミゼを好きになっていく。それを感じた日々でした。 ここで紹介した本はどれもレミゼファンにおすすめしたい素晴らしい参考書です。
あわせて読みたい
『レ・ミゼラブル』解説記事一覧~キャラクターや時代背景などレミゼをもっと知りたい方へおすすめ! この記事ではこれまで紹介してきた「レミゼをもっと楽しむためのお役立ち記事」をまとめています。 私はレミゼが大好きです。ぜひその素晴らしさが広まることを願っています。
レ・ミゼラブル第5部

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次