MENU

高橋保行『ロシア精神の源』あらすじと感想~ロシア宗教史の入門としておすすめの解説書

高橋保行
目次

高橋保行『ロシア精神の源』概要と感想~ロシア宗教史の入門としておすすめの解説書

本日は中公新書出版の高橋保行『ロシア精神の源』をご紹介します。

著者の高橋保行は1948年に東京で生まれ、1972年にニューヨーク聖ウラジミル神科大学院を卒業、1974年に日本ハリストス正教会の司祭に叙任され、ロシア正教に関する多数の著作を執筆しています 。

前回、前々回に引き続き高橋保行氏の著作を取り上げていますが、氏の著作はわかりやすく、なおかつ深いところまで私たちを連れていってくれますのでとてもおすすめです。

さて、本書の特徴はと言いますと、ロシア宗教史とロシア人の精神の源をロシアの歴史と絡めて述べているところにあります。

みなさんはロシアの歴史はどのような流れをたどって来たのかと聞かれてすぐに答えが思い浮かびますでしょうか?

おそらくこれに答えられる方はほとんどおられないのではないでしょうか。

私もドストエフスキーを学ぶまではまったくわかっていませんでした。

いつ国としての形が出来上がり、どのような流れで今のロシアがあるのかというとなかなかに難しい問題です。

日本人にとって、近くにあるのに謎な国。それがロシアなのではないでしょうか。

ここでAmazon商品紹介ページの本紹介を引用します。

一九一七年の革命によって誕生した無神論政府は帝政ロシアの精神的基盤である正教に激しい迫害を加えた。馴染深い玉葱形の聖堂、イコンが破壊されたのはこの時である。しかしキエフ朝以来千年の歴史をもつ精神文化を破壊し尽すことはできず、正教の伝統は連綿と生き続ける。本書は、聖職にある著者が、ロシア精神の歴史をビザンチン、ヨーロッパとの深い関わりの中で捉え、政治・経済に向かいがちなロシアへの理解に新しい視座を拓く。

Amazon商品紹介ページより

これまでも何度かお話ししてきましたように、ソ連は宗教を弾圧しました。その結果ロシア正教が被ったダメージは計り知れないものになりました。

また、ここで著者が述べますように、ロシアというと、共産主義や政治経済、軍事の文脈で語られがちでなかなかロシア人の精神というところまで目が向きません。

たしかに北海道民である私にとっても、ロシアは北方領土の問題やクリミア問題など、恐い国というイメージしかありませんでした。

この本ではその謎の国ロシアの精神史を建国の歴史と一緒に学ぶことができます。

ロシアとは一体何なのか、これまでとは違った切り口で見るとてもよい機会となります。

ロシア宗教史を学びたい方にはうってつけの入門書です。

以上、「高橋保行『ロシア精神の源』~ロシア宗教史の入門としておすすめの解説書」でした。

ドストエフスキーデータベースはこちら
ドストエフスキー年表と作品一覧~ドストエフスキーの生涯をざっくりと
おすすめドストエフスキー伝記一覧~伝記を読めばドストエフスキーのことが好きになります。
おすすめドストエフスキー解説書一覧~これを読めばドストエフスキー作品がもっと面白くなる!
ドストエフスキーとキリスト教のおすすめ解説書一覧~ドストエフスキーに興味のある方にぜひ知って頂きたいことが満載です

Amazon商品ページはこちら↓

ロシア精神の源: よみがえる聖なるロシア (中公新書 952)
ロシア精神の源: よみがえる聖なるロシア (中公新書 952)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
S・チェトヴェーリコフ『オープチナ修道院』あらすじと感想~『カラマーゾフの兄弟』ゾシマ長老はここか... 『オープチナ修道院』ではこの修道院の歴史や高名な長老達の思想や生涯を知ることが出来ます。写真や絵も豊富なので、この修道院がどのような場所なのかをイメージするには非常に便利な本となっています。 『カラマーゾフの兄弟』、特にゾシマ長老と主人公アリョーシャの関係性をより深く知りたいという方にはぜひともお勧めしたい1冊です。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
高橋保行『神と悪魔 ギリシャ正教の人間観』あらすじと感想~ロシア正教の人間観や救いをわかりやすく解説 『カラマーゾフの兄弟』をさらに深く読み込みたいという時にはこの著作は特におすすめです。ドストエフスキーが人間の救いをどこに見出していたのかを探る大きな手掛かりになることでしょう。

関連記事

あわせて読みたい
ドストエフスキーおすすめ作品7選!ロシア文学の面白さが詰まった珠玉の名作をご紹介! ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など文学界では知らぬ者のない名作を残した圧倒的巨人です。彼は人間心理の深層をえぐり出し、重厚で混沌とした世界を私達の前に開いてみせます。そして彼の独特な語り口とあくの強い個性的な人物達が織りなす物語には何とも言えない黒魔術的な魅力があります。私もその黒魔術に魅せられた一人です。 この記事ではそんなドストエフスキーのおすすめ作品や参考書を紹介していきます。またどの翻訳がおすすめか、何から読み始めるべきかなどのお役立ち情報もお話ししていきます。
あわせて読みたい
高橋保行『迫害下のロシア教会―無神論国家における正教の70年』あらすじと感想~ソ連時代のキリスト教は... ソ連が崩壊した今だからこそ知ることができるソ連とロシア正教の関わり。 そのことを学べるこの本は非常に貴重な一冊です。 ドストエフスキーを知る上でもこの本は非常に大きな意味がある作品だと思います。
あわせて読みたい
「なぜ僧侶の私がドストエフスキーや世界文学を?」記事一覧~親鸞とドストエフスキーの驚くべき共通点 親鸞とドストエフスキー。 平安末期から鎌倉時代に生きた僧侶と、片や19世紀ロシアを代表する文豪。 全く関係のなさそうな2人ですが実は重大なつながりがあるとしたらいかがでしょうか。 このまとめ記事ではそうした私とドストエフスキーの出会いと、なぜ僧侶である私がドストエフスキーを学ばなければならないのかを紹介しています。
あわせて読みたい
高橋保行『ギリシャ正教』あらすじと感想~ドストエフスキーとロシア正教を学ぶならこの1冊!おすすめ... そもそもロシア正教とは何なのか。 カトリックやプロテスタントと何が違うのか。 それらがこの著書に詳しく書かれています。 ドストエフスキーに関してもかなりの分量を割いて解説されています。
あわせて読みたい
セルゲーイ・ボルシャコーフ『ロシアの神秘家たち』あらすじと感想~ロシアの偉大なる修道士たちの歴史 この本の特徴はロシアの偉大なる修道士の生涯と思想をひとりひとり丁寧に紹介しているところにあります。 特に18世紀に名を馳せた聖ティーホンについて書かれた章は重要です。聖ティーホンの思想は後の修道僧や長老に大きな影響を与え、ドストエフスキーも彼の思想や生涯に感銘を受け、その印象は『カラマーゾフの兄弟』や『悪霊』の執筆に反映されています。
あわせて読みたい
ベーリュスチン『十九世紀ロシア農村司祭の生活』あらすじと感想~19世紀ロシア正教の姿を嘆く農村司... この本はとにかく強烈です。ロシアの農村の教会がここまでひどい状況にあったのかと目を疑いたくなってきます。 この本を読むことでいかにオプチーナ修道院が重要な場所であるか、ドストエフスキーにとってキリスト教というのはどういうものなのかということがより見えてくるような気がしました。
あわせて読みたい
P・フォーキン「ドストエフスキーの「信仰告白」からみた『カラマーゾフの兄弟』」岩波書店『思想』2020... 著者のF・フォーキン氏は1965年、カリーニングラードに生まれ、カリーニングラード大学を卒業し現在はロシア国立文学博物館研究員であると同時にモスクワ・ドストエフスキー博物館の主任を務めています。 この論文の特徴はドストエフスキー最後の作品『カラマーゾフの兄弟』をドストエフスキーの信仰告白であると捉えている点にあります。
あわせて読みたい
フスト・ゴンサレス『キリスト教史』あらすじと感想~キリスト教の歴史の大枠を学ぶのにおすすめの参考書! この本は読み物としてとても面白いです。キリスト教史の教科書というと、固くて難しい本をイメージしてしまいがちですが、本書は一味も二味も違います。
あわせて読みたい
フーデリ『ドストエフスキイの遺産』あらすじと感想~ソ連時代に迫害されたキリスト者による魂のドスト... 本書は内容も読みやすく、伝記のようにドストエフスキーの生涯に沿って作品を論じています。作品理解を深めるという意味でも非常に懇切丁寧でわかりやすいです。 ロシア正教の宗教者としてのドストエフスキー像を知るにはこの上ない一冊です。
あわせて読みたい
吉村善夫『ドストエフスキイ 近代精神克服の記録』あらすじと感想~ドストエフスキーとキリスト教を学... 吉村氏は聖書こそドストエフスキーの思想を捉える最高の鍵とし、ドストエフスキー作品を「聖書の精神を現代に表す解説書」として捉えています。
あわせて読みたい
『ロシア正教古儀式派の歴史と文化』~ドストエフスキーは無神論者で革命家?ドストエフスキーへの誤解... この記事では「ドストエフスキーは無神論者であり、革命思想を持った皇帝暗殺主義者だった」という説について考えていきます。 これは日本でもよく聞かれる話なのですが、これはソ連時代、ソ連のイデオロギー下で発表された論説が基になっていることが多いです。 この記事ではなぜそのようなことになっていったのかもお話ししていきます。
あわせて読みたい
アンリ・トロワイヤ『ドストエフスキー伝』あらすじと感想~最もおすすめなドストエフスキー伝記の王道 アンリ・トロワイヤの伝記の特徴は物語的な語り口にあります。 読み進めている内にいつの間にかドストエフスキーに感情移入してしまい、最晩年のドストエフスキー栄光の瞬間には涙が出そうになりました。もはや感動的な物語小説を読んでいるかのような感覚です。 苦労人ドストエフスキーの人生がまるで映画を見ているかのように目の前を流れていきます。 非常におすすめなドストエフスキー伝記です。
あわせて読みたい
アンナ・ドストエフスカヤ『回想のドストエフスキー』あらすじと感想~妻から見た文豪の姿とは。これを... 私はこの本を読んでドストエフスキーを心の底から好きになりました。 ギャンブル中毒になりすってんてんになるダメ人間ドストエフスキー。生活のために苦しみながらも執筆を続けるドストエフスキー、愛妻家、子煩悩のドストエフスキーなど、意外な素顔がたくさん見られる素晴らしい伝記です。ぜひ読んでみて下さい。きっとドストエフスキーのことが好きになります!
あわせて読みたい
スラブ派・西欧派とは?ドストエフスキーとツルゲーネフの立場の違い―これがわかればロシア文学もすっき... ドストエフスキーやツルゲーネフ、トルストイの作品や解説を読んでいてよく出てくるのがタイトルにもあるスラブ派・西欧派という言葉。 当時のロシア文学は純粋な娯楽や芸術としてだけではなく、国や人間のあり方について激論を交わす場として存在していました。 彼らにとっては文学とは自分の生き方、そして世の中のあり方を問う人生を賭けた勝負の場だったのです。 その尋常ではない熱量、覚悟が今なお世界中でロシア文学が愛されている理由の一つなのではないかと私は考えています。
あわせて読みたい
謎の国ロシアの歴史を年表を用いてざっくり解説! 正直、ドストエフスキーを学ぶまで私はほとんどロシアのことを知りませんでした。 「極寒の薄暗いどんよりした恐い国」 そんなイメージが頭にあるだけでした。 いつ頃からロシアという国が成立し、どんな歴史を経て今に至っているかなど全く想像すらできなかったのです。いや、興味関心もなかったというのが正直なところかもしれません。 謎の国ロシア。 ですが、いざ調べてみると実はこの国の歴史は非常に面白いことがわかってきました。
あわせて読みたい
サンクトペテルブルクを作った男ピョートル大帝―ロシア版明治維新を断行した規格外の皇帝に迫る ロシアの広大な土地を統御するにはそれほどスケールの大きな人物でなければ成り立たない。 並の人物では到底成しえないことを彼らは軽々とやってのけます。 ドストエフスキーやトルストイが活躍するロシアはこうした規格外の皇帝たちが作りあげたものなのです。 ロシアの近代化を成し遂げ、サンクトペテルブルクを作った男ピョートル大帝も非常に興味深い人物でした。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次