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鹿島茂『文学的パリガイド』あらすじと感想~フランス文学ファンにおすすめのパリガイドブック!これを読めばパリに行きたくなる!

目次

鹿島茂『文学的パリガイド』概要と感想~フランス文学ファンにおすすめのパリガイドブック!

今回ご紹介するのは2009年に中央公論新社より発行された鹿島茂著『文学的パリガイド』です。

早速この本について見ていきましょう。

シャン=ゼリゼあるいはプルースト、パレ=ロワイヤルあるいはバルザック、モンパルナスあるいはボーヴォワール…24の名所・旧跡と24人の文学者をつないで描く、パリの文学的トポグラフィ。文学のエピソードから新しいパリが見つかる、鹿島流パリの歩き方。

Amazon商品紹介ページより

この本は当ブログでもお馴染み、フランス文学者鹿島茂氏によるパリガイドになります。

そしてこの作品の特徴は何と言っても、パリの文学ゆかりの地を鹿島先生の名解説と共に見ていくことができる点にあります。

こちらの目次にありますようにパリの名所がずらりです。そのひとつひとつを文学と絡めてお話しして下さるこの本はフランス文学ファンにはたまらない作品となっています。

巻末の文庫版あとがきではこの本について鹿島氏は次のように述べています。

一時は「一ユーロ=百七十円」まで上昇したユーロ高も、サブプライムローン問題をきっかけにした世界同時不況以来、百三十円を挟んだ展開になっています。

フランスに旅するには良い時代になってきたといえるでしょう。パリでいろいろと買い物をする喜びが戻ってきたようです。パリには、日本人の購買欲を刺激する多くのモノがあふれていますので、うれしい限りです。

しかし、最近のパリ好きと話をしていると、オールド・ジェネレーションとしては、フランス文学に対する関心のなさに少し驚かざるをえません。もう少しフランス文学に親しんでいたら、パリの楽しみ方も倍加、いや三倍増するのではないかと残念に思います。

たとえば、有名なブティックのすぐ隣にある観光スポットは、作家の誰々によってこんなふうに描かれているという知識が頭に入っていれば、パリ見物もたんなる買い物ツアーに終わることなく、一段階グレードアップするのではないでしょうか?

おまけに、日本では、たとえフランス語ができなくとも、フランス文学の傑作の多くがすでに翻訳されています。新刊として入手可能な本の他にも、現在ではインターネットの古本屋サイトで検索すれば、たいていの本は手にいれることができます。フランス文学を介してのパリ散歩は、その気になりさえすれば、だれにでも可能なのです。

パリを愛する人に、フランス文学も楽しんでほしいと願っている「フランス文学者」にとっては、この古本へのアクセスの容易化は歓迎すべき事柄です。

本書は、このように、フランス文学とパリを二重に楽しんでみたいと思う人のために作られた「同時的な入門書」ですが、このたび中公文庫に入ることとなり、こちらもアクセスがより容易な存在として復活することができました。

パリ旅行に行かれる際、普通のガイド・ブックのほかに、本書も加えていただけたら幸いです。

中央公論新社、鹿島茂『文学的パリガイド』P254-255

「たとえば、有名なブティックのすぐ隣にある観光スポットは、作家の誰々によってこんなふうに描かれているという知識が頭に入っていれば、パリ見物もたんなる買い物ツアーに終わることなく、一段階グレードアップするのではないでしょうか?」

たしかにただ単に目の前の美しい街並みを見て終わるより、その背後にある歴史や文化が見えてくればその印象は全く違ってきますよね。そして単に視覚的な記憶よりもこうした情念的な記憶と結びついた思い出の方が強烈に残るのは皆さんも経験したことがあると思います。

この本はそんなパリ体験をより濃いものにしてくれる最高のガイドブックです。

個人的には「オペラ座とガストン・ルルー」の章が一番印象に残っています。あの『オペラ座の怪人』のモチーフになったパリのオペラ座にはどんな秘密があるのか、これは非常に興味深いものがありました。

きっと、読者それぞれにぐっとくる章が必ずあると思います。これを読めばパリに行きたくなること間違いなしです。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「鹿島茂『文学的パリガイド』~フランス文学ファンにおすすめのパリガイドブック!これを読めばパリに行きたくなる!」でした。

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文学的パリガイド (中公文庫 か 56-9)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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