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マリア・ロサ・メノカル『寛容の文化』概要と感想~ムスリム・ユダヤ教・キリスト教徒の中世スペイン
今回ご紹介するのは2005年に名古屋大学出版会より出版されたマリア・ロサ・メノカル著、足立孝訳『寛容の文化』です。
前回の記事ではスペインでは多宗教が共存していたことをお話しました。他宗教は絶対に共存できないというわけではありません。同じスペインにおいても共存がうまくいっていた時代もあったのです。今回はそのことについて語っている本をご紹介したいと思います。
早速本紹介を見ていきましょう。
「世界の宝飾」と呼ばれた輝ける土地の記憶――。700年以上にわたる三宗教の共存のただなかで形成された「寛容の文化」を、美しいタペストリーを織り上げるかのごとく再構成し、地中海・ヨーロッパ世界の歴史と文化の新たな相貌を浮かび上がらせる。それが今日の世界に示唆するものは、われわれの心をゆさぶらずにはおかないであろう。
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この本はスペイン南部のアンダルシア地方を中心に花開いたイスラーム王国の繁栄と他宗教の共存、そして国の衰退の歴史をまとめた本です。
スペインと言えばもちろんヨーロッパの国です。ヨーロッパといえばキリスト教のイメージがあるかもしれませんが、ここスペインでは8世紀前半にはすでにイスラーム化が進み、10世紀頃にはその最盛期を迎えその繁栄ぶりは他のヨーロッパ地域とは比べ物にならないほどのものでした。以前当ブログでもこのことを紹介しましたのでその記事より引用します。
その繁栄ぶりがいかに大きなものであるかというと、10世紀当時の全盛期ではコルドバ市内に600のモスク、300の公衆浴場、50の病院、17の高等教育施設、そして何十万冊もの蔵書を持つ20の図書館が存在していたほどだそうだ。
これがどれほどものすごいことだったのか、当時のヨーロッパの状況を見てみれば一目瞭然だ。
当時のヨーロッパではコンスタンチノーブル(現イスタンブール)を除けば人口3万人以上の街はほとんどなく、ましてや上に挙げた公共施設などほぼ存在していなかったというありさまだったという。
ヨーロッパ暗黒時代とスペインイスラム世界の繁栄ぶりの差はここに極まれりと言えるだろう。
レコンキスタとは~スペインの歴史に欠かせぬキリスト教徒とイスラム教徒の因縁の戦い スペイン編⑤より
上の文にあるように圧倒的な繁栄がそこにはありました。そしてその中心となったのがスペイン南部のコルドバという都市です。
そしてコルドバと言えばメスキータ。アルハンブラ宮殿と並ぶイスラーム建築の最高峰とされる巨大なモスクです。私は2019年にここを訪れました。このモスクは最大45000人のムスリムを収容できるほどの広さがあったそうです。人口3万人以上いる街がヨーロッパにほとんどなかった時代に、45000人を収容できるモスクを作っていたというのは衝撃ですよね。
このモスクの内部には円柱の森と呼ばれる特徴的なアーチ型の柱がびっしり。
赤と黄色の模様が一際印象的なアーチ構造。
このアーチの構造はローマ帝国の遺産をイスラーム文化に取り込み融合させた結果生まれたものだそうです。
圧倒的な文化の力をまざまざと見せつけられました。この建物とコルドバの歴史については以下の記事で紹介していますのでぜひご覧ください。
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コルドバと言えばメスキータ。アルハンブラ宮殿と並ぶイスラーム建築の最高峰とされる巨大なモスクです。
内部には円柱の森と呼ばれる特徴的なアーチ型の柱がびっしり。
メスキータ自体は785年に建設が始まり、その後何度も増改築がされて現在の姿になっています。
この建物が興味深いのは13世紀にレコンキスタによってコルドバがキリスト教徒に占領された際、建物がそっくりキリスト教の教会へと転用されてしまったところにあります。
そして16世紀には大規模な改装があり、モスクの中に巨大なカテドラルが作られるという異例の事態となったのでした。
繁栄を極めたコルドバでしたが11世紀には衰退の道を辿り始め、スペイン全土は小国同士による戦国時代のようになっていきます。そして1492年、グラナダを最後にスペインからイスラム王国は消え去ることになります。
このグラナダという街も非常に文化的に優れたものを残しています。その代表が有名なアルハンブラ宮殿です。
アルハンブラ宮殿
夕暮れのアルハンブラ宮殿
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この記事ではそんな見事なアルハンブラの姿をお話ししていきます。
さて、この本ではスペインにおけるイスラームとユダヤ教、キリスト教の歴史を概観していきます。スペインが辿った興味深い宗教間の歴史をこの本では知ることができます。
この本の中で私が特に興味深く読んだのはスペインにおける他宗教の共存の終焉と『ドン・キホーテ』の関係について書かれた箇所でした。
セルバンテスによって『ドン・キホーテ』が発表されたのは1605年のこと。
1492年にグラナダが陥落し、カトリック勢力がスペイン全土を統一してからおよそ100年少し。
この間に異端審問は全盛を極め、ユダヤ人やイスラム教徒は迫害を受けました。
この迫害に対しセルバンデスは作中で驚くほど巧みにそれを風刺し、皮肉っています。これは普通に読んでいたらまず気付かないレベルです。当時の歴史を知り、さらに解説を受けなければまず通り過ぎてしまうでしょう。
私自身、この本を読んで改めて『ドン・キホーテ』がいかにすごいかを再発見しました。
この本の最大の見どころは本の終盤に書かれたこの『ドン・キホーテ』とスペインの歴史とのつながりと言っても過言ではないくらい私には驚きの事実でした。
読み物としてはこの本はちょっと読みにくい部分が多く、入門書としては少し厳しいかもしれません。しかし、スペインの宗教間の歴史や『ドン・キホーテ』をもっと知りたい人にはぜひおすすめしたい一冊となっています。
以上、「マリア・ロサ・メノカル『寛容の文化』ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒が共存した中世スペイン」でした。
続く
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寛容の文化―ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒の中世スペイン―
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この本はドン・キホーテが活躍したスペインの時代背景を知るのにおすすめの作品です。文章も読みやすく、図版も多数掲載されているので気軽に読み進めることができます。
これはぜひおすすめしたい作品です。
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