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尾﨑和郎『ゾラ 人と思想73』あらすじと感想~ゾラの生涯や特徴、ドレフュス事件についても知れるおすすめ伝記!

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尾﨑和郎『ゾラ 人と思想73』概要と感想~ゾラの生涯や特徴、ドレフュス事件についても知れるおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは1983年に清水書院より発行された尾﨑和郎著『ゾラ 人と思想73』です。私が読んだのは2015年新装版第一刷です。

早速この本について見ていきましょう。


エミール=ゾラは『ルーゴン・マッカール双書』を書いたフランスの偉大な小説家である。『ナナ』や『居酒屋』を発表していた頃,彼は露骨で,卑猥であるとして非難されたが,その作品の底にはヒューマンな同胞愛が脈打っている。彼は社会的弱者に深い共感を持った社会派の小説家である。しかし,ゾラを小説家としてのみ評価することは適切ではない。彼は何よりも優れたジャーナリストであり,ドレフュス事件を世界史的事件として浮上させ得たのも,その優れたジャーナリスト的才能によってである。

Amazon商品紹介ページより

当ブログではこれまでゾラについて様々な記事をご紹介してきました。

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ゾラは私の大好きな作家です。

マネエミール・ゾラの肖像》 1868年 Wikipediaより

私は彼の代表作『居酒屋』をきっかけに彼の小説にどはまりしてしまいました。

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そしてそこからゾラの長編小説群「ルーゴン・マッカール叢書」を全て読んでいくことになりました。

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この全20巻に及ぶ「ルーゴン・マッカール叢書」はどれも面白く、これをほぼ毎年1冊ペースで発表し続けていたゾラには驚くしかありません。

そんな驚くべき作家ゾラの素晴らしい伝記が今回ご紹介する尾﨑和郎『ゾラ 人と思想73』になります。

この本は200ページほどのコンパクトな分量の中にゾラの生涯とその特徴が非常にわかりやすく説かれています。

ゾラの生きてきた境遇や文学の特徴を知るならこの本が最適だと思います。この本を読めばゾラが小説を通して何を言おうとしていたか、ゾラは私たちにどんなメッセージを投げかけようとしていたのかが非常にクリアになります。

そしてありがたいのが、ゾラとも関わりの深いあの有名なドレフュス事件についても丁寧な解説がなされている点です。

ドレフュス事件といえば19世紀末から20世紀初頭にかけてのフランス史上最大級のスキャンダルとなった冤罪事件です。この事件の真相究明にゾラは深く関わっていたのでありました。

そしてこのドレフュス事件を題材にした映画『オフィサー・アンド・スパイ』が2022年に公開されることになりました。

ゾラはこの冤罪事件で「私は弾劾する!」という有名な新聞記事を発表しました。ゾラは真相究明のために奔走したのですが、冤罪を認めない国家や国民から激しい攻撃を浴び亡命を余儀なくされます。ゾラはそうなることも覚悟で真実を求め戦い続けたのです。

この伝記ではそんなゾラの姿を知ることができます。この映画と合わせて見ることでゾラのことをより知れるのではないかと私は思います。

最後にこの本の「むすび」の文を紹介します。現代を生きる私たちにとってゾラがどんな意味を持っているのかを語る素晴らしい文章ですので全文引用します。

ゾラが生きた一九世紀後半は、科学技術の進歩と経済成長とによって、この上なく物質的に繁栄した時代であった。しかし、この繁栄の裏には腐敗や悲惨が渦巻いていた。

ひるがえって現代日本の社会を眺めるとき、われわれの周囲にもまた、物質的繁栄の姿がくりひろげられている。美しく建ちならぶ高層ビル、超スピードの新幹線、縦横に伸びる高速道路、コンピューターが支配する清潔な工場、そして、豊富な消費物資があふれる、きらびやかなデパートやスーパー。それは高度の文明と繁栄の象徴である。われわれにとっての唯一の善は、物質的に豊かになることであり、われわれのすべての努力はそれに向けられている。しかし、物質的な享楽のみを追求しているあいだに、人心の荒廃と腐敗がすさまじい勢いで進行し、今や日本社会は救いがたい状況である。

政財界の汚職事件であるパナマ事件とロッキード事件、自然と人心を荒廃させたパリ市大改造と日本列島大改造など、いくつかの犯罪や現象が表面的に類似しているからといって、ニ〇世紀後半の日本社会と一〇〇年前のフランス社会とをかるがるしく同一視することはつつしまなければならないが、ニつの社会は本質的に酷似しているように思われる。一口にいって、二つの社会の共通点は、急速な物質的繁栄と、それがもたらす腐敗と荒廃である。そして、いずれの社会も末世の様相を呈しているということである。

ゾラは彼の社会をつぶさに観察し、かつ描きながら、それな救済しがたい末世とみなし、一挙に焼きつくすべきであると考えたが、現代の日本もまた、ゾラの夢想したような、焼きつくし、無に帰せしめ、白紙還元してゼロからやりなおすべき社会かもしれない。ゾラが告発したのは、決して一〇〇年前の異国の社会ではなく、現代日本の社会であるとさえいえるであろう。「ルーゴン・マッカール双書」の物語はまさしく現代日本のそれである。それゆえにこそ、彼の作品は今もなお強烈な迫力をもってわれわれの心をとらえるのである。

清水書院、尾﨑和郎『ゾラ 人と思想73』2015年新装版第一刷P204-205

『「ルーゴン・マッカール双書」の物語はまさしく現代日本のそれである。それゆえにこそ、彼の作品は今もなお強烈な迫力をもってわれわれの心をとらえるのである。

まさしくこれです。

私もゾラの作品を読んでいて痛烈に感じたのは、「これは他人ごとじゃない。私達の問題なんだ」ということでした。

これは読めばわかります。

ゾラほど現代社会の仕組みを冷静に描き出した人物はいないのではないかと私は思っています。

この伝記はそんなゾラの生涯と特徴をわかりやすく解説してくれる素晴らしい一冊です。ゾラファンとしてこの本は強く強く推したいです。ゾラファンにとっても大きな意味のある本ですし、ゾラのことを知らない方にもぜひこの本はおすすめしたいです。こんな人がいたんだときっと驚くと思います。そしてゾラの作品を読みたくなることでしょう。

何度も言いますが、この作品は非常におすすめな伝記です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「尾﨑和郎『ゾラ 人と思想73』ゾラの生涯や特徴、ドレフュス事件についても知れるおすすめ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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