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荒松雄『多重都市デリー』概要と感想~イスラームの街としてのデリーやかつての牧歌的な雰囲気を知るのにおすすめ!
今回ご紹介するのは1993年に中央公論社より発行された荒松雄著『多重都市デリー』です。
早速この本について見ていきましょう。
中世いらいインド歴代王朝の首都であり、権力の盛衰・興亡の一大拠点であったデリー。「七つの都市デリー」「十五の町デリー」と言われてきたように、そこには各時代における城砦都市や首都の地域的な移動といった事実のほか、民族と宗教の問題、植民地支配時代の「東洋と西洋」の問題をはじめ、多重・多層的な複雑な性格が見られる。本書はデリーが発展し、停滞し、再興されて行く歴史の中に多重都市の特徴と由縁を見る。
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この本はインドの首都デリーの歴史と20世紀中頃から後半にかけてのデリーの変化について知れる作品です。
この作品について著者は「序章」で次のように述べています。
結局、本書の内容を二部に分け、第Ⅱ部で「歴史」について記し、第Ⅰ部は私自身の「回想」に当てることにした。このことは、単にこの都市の通史を辿るだけでなく、これまでの私自身の旅行や滞在経験の一端を記すことにより、実際にデリーへ行っていない、あるいは最近のデリーしか見ていない多くの読者に、まずはこの町の環境や昔の雰囲気をも感じ取ってもらいたいと思ってのことだ。私自身にとってのデリーは、単なる研究対象でもなければ、外国人研究者として外側から眺めてきた都市でもなかった。おこがましく、少し気障な言い方になるが、七十余年間住み続けてきた東京に次ぐ、「わが町」の思いがする場所なのだ。だから、執筆に当たっても、他人事では済ませられないといういささか複雑な気持ちにも駆られるのである。(中略)
初めてデリーを訪ねたのは一九五二年(昭和二十七年)の十月、すでに四十年以上も前のことなる。その二年後に、偶然にも私はその町に二年近く住むこととなった。当時を回想すると実に今昔の感に堪えない。敗戦後の東京世田谷に住み、毎日のように新宿を通っていた私にとっても、当時の「新宿駅西口」界隈の状況を思い起こすのは容易なことではない。同じように、四十年前のデリーは今とはまったく違う点も多かったし、現代のデリーに住む若者たちにそれを説明するのは至難の業である。おこがましい言い方だが、この四十年の間に、外国人ながらも私は、デリーの都市としての変容の一端を多少とも体験することができたと思っている。
中央公論社、荒松雄『多重都市デリー』P4-8
上でも述べましたように、この本ではかつてのデリーと90年頃のインドの変化を知ることができます。著者が「毎日通った新宿駅界隈の変化ですら思い起こすのは容易ではない」と述べていたのは印象的でした。たしかにそうですよね。私の住む函館ですら40年前とは全く違う姿になっていると思います。そこにインドの大都市デリーです。その変化たるやものすごいものがあることでしょう。
この本ではそんなデリーの変化を写真つきで見ていくことができます。著者の実体験と絡めて語られるデリーの姿はものすごく刺激的です。旅行記でもあり生活体験記でもある本書です。これは面白いです。
その中でも特に印象的だったのが、かつてのデリーには畑や野原の中にぽつんとイスラーム王朝の巨大遺跡が立っていたということでした。
その箇所を読んでいて私はかつて読んだ『サンピエトロが立つかぎり 私のローマ案内』という本を連想しました。
この本では「かつてのローマでは牧歌的な風景の中に巨大な遺跡が点在していた」ことが書かれていました。
植物が生い茂るローマ。そんなロマン溢れる姿がそこにあったのだそう。もはや私達には絶対に観ることができない景色がそこにはあったのです。
著者の荒松雄氏も本書で述べていましたが、そのローマとデリーがまさに重なるのだということに私はぐっと来ました。
急成長を遂げるインドの変化を知れるのは非常に興味深かったです。
そしてこの本を読んで感じたのが「デリーがイスラームの街だった」ということです。私はインドと言えばヒンドゥー教のイメージが強かったのですが、デリーに関しては特にイスラームと密接なつながりがあって今に繋がっているのだなということを感じました。僧侶の私からすると「仏教発祥の地インド」ですが、そうしたイメージと実際のインドとの乖離はかなり大きなものなのだろうということを強く感じることになりました。
実際にデリーに訪れたら自分が何を感じるのだろうかとても楽しみになりました。
インドへ行かれる予定のある方にもぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「荒松雄『多重都市デリー』~イスラームの街としてのデリーやかつての牧歌的な雰囲気を知るのにおすすめ!」でした。
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多重都市デリー: 民族、宗教と政治権力 (中公新書 1160)
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