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岩根圀和『ドン・キホーテのスペイン社会史 黄金時代の生活と文化』概要と感想~ドン・キホーテの時代背景を知るのにおすすめの参考書!
今回ご紹介するのは2020年に彩流社より発行された岩根圀和著『ドン・キホーテのスペイン社会史 黄金時代の生活と文化』です。
早速この本について見ていきましょう。
謎に包まれた偽作も生まれた世界的ベストセラーの背景!本書は『ドン・キホーテ』誕生の歴史的背景とエピソード、当時(十六・十七世紀)のスペインの人びとが何を考え、何を食べ、どのような暮らしをしていたのかを綴る。図版多数!
Amazon商品紹介ページより
この本は2020年という、かなり最近発売されたドン・キホーテ参考書です。
そして出版社は彩流社さん。この出版社さんはもはや当ブログでもお馴染みとなりました。
彩流社さんのラインナップは正直かなりマニアックです。ですがその本のクオリティーは素晴らしいもの揃いで私も絶大な信頼を置いています。
私がこの出版社さんを知るきっかけとなったのは島田桂子著『ディケンズ文学の闇と光』という本がきっかけでした。
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この本は名著中の名著です。本当に素晴らしいです。
読んでいて驚いてしまいました。
ディケンズといえばイギリスの文豪。ロシアで言うならドストエフスキーやトルストイのような存在です。
そのような作家の解説書となると読みにくかったり難しくなってしまいがちですが、この本は一味違います。
これほどわかりやすく、かつ深い考察までされている本はなかなかお目にかかれるものではありません。
この本の圧倒的な素晴らしさに私は感動してしまいました。この本をきっかけに私は彩流社さんに注目するようになっていきました。
他にも篠野志郎著『アルメニア巡礼 12の賑やかな迷宮』というアルメニアの廃墟のような教会建築を巡るエッセイ集など、突き抜けてマニアックな本などもたくさん出ています。この本がまた名作でした。
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『アルメニア巡礼 12の賑やかな迷宮』はソ連崩壊後取り残された旧共産圏の姿を知る上でこの上ない作品なのではないかと私は思います。日本ではありえないインフラ事情がどんどん出てきます。あまりに異世界過ぎてかなりショックを受けました。先程はホテルの話を引用しましたが、他にも驚きの内容がどんどん出てきます。
信じられないほどマニアックでディープな作品なのですが、人間の奥底に迫っていくような迫力があります。よくぞこのような本を出版してくださいましたと私は感謝の念しかありません。
さて、そんな彩流社さんから出版された『ドン・キホーテのスペイン社会史 黄金時代の生活と文化』ですがこれも素晴らしい作品でした。ドン・キホーテファンにぜひおすすめしたい1冊となっています。
「まえがき」ではこの本について著者は次のように述べています。
聖書についで最後まで読まれないべストセラーと揶揄されるセルバンテスの『ドン・キホーテ』だが、その主人公ドン・キホーテが騎士道小説を読み過ぎたあげく自分を遍歴の騎士になぞらえて村を出て行ったのはつとに知られている。そして風車の巨人に突撃してあえなく地面に転がる顛末は知らぬ者とてない世界的に有名な場面である。もともと善良な田舎貴族の頭を狂わせるもとになった書物が幾つもあったが、なかでも影響を受けたのはスペイン騎士道小説の嚆矢『アマディス・デ・ガウラ』(モンタルボ作)であった。アーサー王伝説を先取りして当代随一の傑作と称賛された騎士道物である。以後、ドン・キホーテはことごとくアマディスの武勲を真似ては次々と失敗を重ねて笑いを呼ぶことになる。いわゆるパロディーである。
本書は『ドン・キホーテ』を手がかりに十六・十七世紀のスペインのひとびとが何を考え、何を食べ、どのように暮らしていたのか、その一端を伝えるのが目的である。前半では『ドン・キホーテ』に影響を与えたといわれる『アマディス・デ・ガウラ』、『エスプランディアンの武勲』、セルバンデスを怒らせたというアベリャネーダの『贋作ドン・キホーテ』をめぐる考察を行った。後半は動力機車の活躍や水問題、そして当時のひとびとの生活習慣のありさまなどを中心に述べた。
ドン・キホーテのスペインと言っても広い。アルハンブラ宮殿の現存するアンダルシア地方から世界の巡礼地を誇るサンティアゴ大聖堂のガリシア、果てはいまだ起重機に固まれて建築中のサグラダ・ファミリアがそびえるカタルーニャ、それに緑豊かなバスク地方も入れてそれぞれに歴史があり文化があり言語も人種も異なる。中央のカスティーリャ地方だけにしても貴族から農民、商人、職人の暮らしは千差万別、これを網羅することは不可能である。
知ったかぶりは厳に慎まなければならない。生半可に海外生活を囓った者がたかだか半径数メートルの経験を過度に一般化してはならないのである。ましてや遠く「スペイン黄金時代」の事柄であってみれば不明な点が多く、手に入る限りの文献にあたってみたが力の及ばない部分が多いのは是非もない。もっとも、ほとんど入手困難な資料も覗くことができたので専門家の鑑賞に耐える部分もあると信じる。また出来るだけ多くの図版を入れることにしたので理解の助けになると思う。とりあえず、ドン・キホーテの「鞍袋」から何が出てくるか楽しみにしていただきたい。
彩流社、岩根圀和『ドン・キホーテのスペイン社会史 黄金時代の生活と文化』P3-4
上の引用や目次にありますようにこの本では『ドン・キホーテ』をより知るために様々な観点から時代背景を見ていきます。
その中でも私が最もありがたいなと思ったのは『アマディス・デ・ガウラ』とドン・キホーテについての解説が詳しくなされている点です。
『アマディス・デ・ガウラ』はドン・キホーテが憧れた騎士で、この本を徹底的にパロディ化したのがセルバンデスの『ドン・キホーテ』という作品になります。つまり、この『アマディス・デ・ガウラ』を知ればもっともっと楽しめるということになるのです。現代のお笑いネタでも、元ネタを知らずにパロディを見たとしてもなかなか笑えないですよね。それと同じです。
そしてこの『アマディス・デ・ガウラ』は同じく彩流社より今作の著者岩根圀和氏が翻訳して出版されています。
この作品を解説書として読み、そこから『アマディス・デ・ガウラ』に入っていくのがベストな流れかなと思います。
そしてこの本の後半で書かれるスペインの水事情もとても興味深いものがありました。
水を汲み上げるためにどれほどの技術や苦労が必要だったのかということに驚きました。水が豊かな日本とはまるで違う世界をこの本で感じることができます。
この本はドン・キホーテが活躍したスペインの時代背景を知るのにおすすめの作品です。文章も読みやすく、図版も多数掲載されているので気軽に読み進めることができます。
これはぜひおすすめしたい作品です。
以上、「岩根圀和『ドン・キホーテのスペイン社会史 黄金時代の生活と文化』ドン・キホーテの時代背景を知るのにおすすめの参考書!」でした。
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ドン・キホーテのスペイン社会史
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実際私もこの本を読んでみたのでありますが、ドン・キホーテがはまるのもむべなるかなの名作です。作中で司祭が「この種の書物では唯一最良の物」というのもわかる気がしました。
「ほぉほぉ、ドン・キホーテはこの話を真似してあんなことをしていたのか」とニヤニヤしながら一気に読み込んでしまいました。パロディから入って元ネタを見るという楽しみを私はこの本で満喫しました。
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そんな漠然と読んでもまず気付くことができない『ドン・キホーテ』の面白さをこの本ではこれでもかと解説してくれます。
この本を読めばまず間違いないです。私は自信を持っておすすめします。それほど面白い入門書となっています。
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