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V・セベスチェン『レーニン 権力と愛』あらすじと感想~ロシア革命とはどのような革命だったのかを知るのにおすすめの伝記!

目次

ヴィクター・セベスチェン『レーニン 権力と愛』概要と感想~ロシア革命とはどのような革命だったのかを知るのにおすすめの伝記!

今回ご紹介するのは2017年に白水社より発行されたヴィクター・セベスチェン著、三浦元博、横山司訳の『レーニン 権力と愛』です。

先に申し上げておきますが、この本はものすごく面白いです。ロシア革命やレーニンに関心がなくても、人類の歴史や人間そのものを知るのに最高の参考書です。

では早速この本について見ていきましょう。

《人物模様と逸話を通して革命家の素顔を活写》

最新史料から見える「人間レーニン」とは? 妻や愛人、同志や敵、人物模様と逸話を通して、革命の舞台裏と意外な素顔に迫る傑作評伝!

ウラジーミル・レーニンは、史上初の社会主義革命であるロシア革命を成功に導き、多大な影響力を及ぼした革命家だ。レーニンは、後継者と目されたトロツキーやスターリンほか、革命同志の誰にも信を置いていなかったという。レーニンとはどのような人物だったのか? 本書は、書簡などの新史料を駆使して、その人間像と真髄に迫る決定版。
1870年、地元きっての名士の家庭に生まれたレーニンは、恵まれた環境で成長する。兄アレクサンドルへの憧憬、その兄の処刑を契機とする帝政への憤怒、欧州各地での反体制地下運動の組織、国外を転々する亡命生活、第一次世界大戦の勃発、封印列車での帰国と権力掌握など……激動のロシアと国際情勢を絡めながら、レーニンの波瀾に満ちた活躍が読みやすく、精彩に叙述される。
全編の通奏低音に、レーニンと妻ナージャ、愛人イネッサとの三人の生活があり、同志的関係で結ばれ、三者ともに心を許し合っていた。本書は、人間模様と逸話を通して、その人生と時代を活写する傑作評伝。作家は『東欧革命1989』(白水社)のジャーナリスト。

Amazon商品紹介ページより
ウラジーミル・レーニン(1870-1924)Wikipediaより

レーニンという人物はロシア革命の立役者であり、その後のソ連世界の道筋を決定づけた人物です。上の本紹介を読むだけでもレーニンがいかに巨大な人物であるかが伝わるかと思います。

この本はそんなレーニンに密着してその生涯や人柄を探っていきます。

本書の構成について。本書は一個の人間としてのレーニンに的を絞った歴史読み物になっている。膨大な分量ながらストーリーの展開は軽快だ。多くのレーニン伝が、ロシア革命前後の政治・経済の文脈の中にレーニンを位置づけるという正統的手法を使っているのに対し、本書はレーニンを取り巻く日常の範囲内での出来事や人物模様を描くことに力点を置いている。「密着ポートレート」とでも訳せそうな副題が示すとおり、さまざまなエピソードを通して素顔のレーニンを描き出そうとしている。ロシア革命の鳥瞰図を期待すると物足りないかもしれないが、著者の意図はあくまで人間像を描き出すことにある。

五四項に分かれた各項では、レーニンの人生行路が時系列的に展開していく。幼年時代の裕福な生活と兄アレクサンドルへの憧憬。その兄の処刑をきっかけとする帝政への憎悪の芽生え。社会主義運動への関与と、ヨーロッパ各地を転々とする生活。第一次世界大戦の勃発と封印列車での帰国と権力掌握。国際情勢を絡めながらも、レーニンの身辺の出来事に焦点を合わせ、関係者の声を集めて叙述が進んでいく。

著者が全編の通奏低音にしているのは、妻クループスカヤと愛人イネッサ・アルマンドとの三人の共棲だ。レーニンの「遺言」に見られるように、スターリンばかりかトロツキーも含め、革命同志のだれにも信を置いていなかったレーニンも、この二人の女性にだけは心を許していたらしい。クループスカヤとイネッサは同志的信頼関係で結ばれ、実際、イネッサの死後は娘を引き取っているものの、時には一抹の寂しさを吐露するクループスカヤ。イネッサとの関係を断とうとしてもなかなか断てないレーニン。生身のレーニンを描き出そうとするなら、三人の関係はもっともな着眼点だろう。

とはいえ、独裁者レーニンを生んだのは、ロシアの政治環境であり、彼が建設した国家と後継指導者たちの専制的性格は、今日のロシアにも生き続けている。その象徴が冒頭で触れたレーニン廟だ。その今日的メッセージは「ロシアは過去に常にそうであったように今も、圧倒的で情け容赦ない独裁的な指導者、ロシア語のヴォシチ、つまりボスを必要としているという観念、歴史的な連続性を示すことにある」と著者は指摘する。

また、レーニンは「彼よりも一世紀後の評論家が言う『ポスト真実の政治』の生みの親なのだ」とも。いささかジャーナリスティックな視点ではあるが、複雑な問題を単純化してみせ(「パン、平和、土地」)、反対派を「人民の敵」に仕立て上げ、国内外に「敵」をつくり、危機感をあおり、これと戦う強い指導者としての幻影を作り上げて世論を操る。そんな例は、日本を含めいたる所に見出すことができる。著者はレーニンにその原型を見ている。
※一部改行しました

白水社、ヴィクター・セベスチェン著、三浦元博、横山司訳『レーニン 権力と愛』P353-355

タイトルにあります「権力と愛」はここから来ています。ロシア革命という権力奪取、そしてレーニンが愛した2人の女性。この2つを軸にレーニンを密着取材していきます。

この本ではソ連によって神格化されたレーニン像とは違った姿のレーニンを知ることができます。

そして何より、この伝記はとにかく面白いです!なぜロシアで革命は起こったのか、どうやってレーニンは権力を掌握していったのかということがとてもわかりやすく、刺激的に描かれています。筆者の語りがあまりに見事で小説のように読めてしまいます。

この本はとにかくおすすめです。

というわけで次の記事からこの本で気になった箇所を紹介していきます。

以上、「『レーニン 権力と愛』レーニンのおすすめ伝記!レーニンはいかにして権力を掌握したのか」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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