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【ローマ旅行記】(30)新たなパトロン教皇アレクサンデル七世の登場!ベルニーニ第二の黄金期を支えた建築教皇の存在!
これまでの記事でベルニーニの最強のパトロンだったウルバヌス八世が1844年に亡くなり、堅物のイノケンティウス十世の即位でベルニーニが失脚するも、そこから『聖女テレサの法悦』や『四大河の噴水』などの傑作で見事な復活を遂げたことを見てきた。
そしてそのイノケンティウス十世も亡くなり、その後を継いだアレクサンデル七世というのがこれまたスケールの大きな人物であった。この人物の登場によりベルニーニは第二の黄金期を迎えることになる。
イノケンティウス十世の死に伴う教皇選挙は予想されたとおり難航した。三四人という多数派を率いるバルべリーニに対して、メディチが反対派をなし、それにイノケンティウス系の枢機卿たちが浮動票グループとなって、互いに拮抗し合ったからである。それでも一月二二日にはカラッファ枢機卿が四二票を得て、あと三票というところまで進んだ。ところがカラッファ枢機卿は二月一五日に急死してしまう。またバルべリーニ派の推すサケッティ枢機卿案も幾度か試みられたが、そのつどメディチ派と親スペイン派の反対で不調に終った。
こうして一月半にわたる教皇選挙の末、シエナのキジ家出身のファビオ・キジが教皇に選出され、アレクサンデル七世となった。彼はケルンの大使の時に評判をとり、それがもとでイノケンティウス十世に呼ばれて秘書に用いられ、枢機卿にまで出世した人物である。教皇は彼を後継者にするよう、他の枢機卿たちに働きかけたといわれる。しかしながら、ウルバヌス八世と並んでべルニーニの最大の後援者となるアレクサンデル七世もまた、妥協と、ある意味では偶然の力によって教皇の座についたのであった。
「新しい教皇が誕生したその幸福な日に騎士が教皇に召された時、陽はまだ沈んでいなかった」とドメニコは記している。アレクサンデル七世は、ケルンに赴任する前にウルバヌス八世周辺の文人・芸術家らと親しく交っていたから、べルニーニとは旧知の間柄だった。ケルンから戻った彼は教皇庁でべルニーニに会うと、さっそくサンタ・マリア・デル・ポポロにある自家の礼拝堂の整備を依頼している。この仕事は彼が教皇に即位するとすぐに進められ、べルニーニはここに二つの傑作を制作するのだが、これはべルニーニが天職とした彫刻の仕事であった。
しかし教皇は、その一二年間の治世のうちに、べルニーニに多くの建築の仕事を命ずることになる。若い時には詩を書いたこともあるアレクサンデル七世は、学問・芸術に深い理解を示したが、それ以上に「大建設の教皇」と異名をとったほど、ローマの都市改造に熱心であった。
彼自身の筆になるローマ市内のオべリスクや噴水、あるいは彫刻などの修復や移動に関する覚書が残っていることからも、それをうかがうことができる。無論、経済情勢の悪化やぺストの流行による、アレクサンデル七世時代のローマの凋落はおおうべくもなかった。けれども建設・美術活動の点では、再び黄金時代が到来したかの観があった。教皇はローマの都市改造という野心的願望を全幅の信頼をおくべルニーニに託し、べルニーニもすでに五十も半ばに達しながら、驚くべきエネルギーでもってその一大プロジェクトを遂行してゆくのである。
※一部改行した
吉川弘文館、石鍋真澄『ベルニーニ バロック芸術の巨星』P127-128
アレクサンデル七世(在位1655-1667)Wikipediaより
このアレクサンデル七世の在位期間がベルニーニの第二の黄金時代だった。これから先の記事では上に出てきたキジ礼拝堂やサンピエトロ広場、サンピエトロ大聖堂の『カテドラ・ペトリ』と『スカラ・レジア』、サン・タンドレア・アル・クイリナーレなどベルニーニの傑作を紹介していきたい。
キジ礼拝堂
サンピエトロ広場
『カテドラ・ペトリ』
『スカラ・レジア』
サン・タンドレア・アル・クイリナーレ
サン・タンドレア・アル・クイリナーレ内部
アレクサンデル七世の在位中はたしかにベルニーニをはじめとしたバロック芸術の最期の煌めきであった。だがこの頃にはローマの国力はさらに衰え、アレクサンデル七世の死去と共に芸術に費やされる資金は一気に減らされることになる。ローマバロックの繁栄を見ることができるのはこの期間が最後なのである。
続く
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