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木村汎『プーチン 人間的考察』あらすじと感想~プーチン大統領とはいかなる人物か、その経歴や特徴を知るのにおすすめの大著

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木村汎『プーチン 人間的考察』概要と感想~プーチン大統領とはいかなる人物か、その経歴や特徴を知るのにおすすめの大著

今回ご紹介するのは2015年に藤原書店より発行された木村汎著『プーチン 人間的考察』です。

早速この本について見ていきましょう。

十五年前、プーチンがエリツィン元大統領によって後継者に指名されたとき、人々は次の問いを提起したものだった。“Mr. Putin, Who?(プーチンって、一体、誰)”? 以来、われわれが提起する問いは、基本的には変わっていない。いや、事実上十五年間におよぶ統治ですっかり実力をつけたプーチン大統領にたいする世間の関心は、増大する一方と評してよい。全世界はロシア大統領が発する片言隻句に注目し、その一挙手一投足に刮目し、よって彼の心中にあるものを推し量ろうと懸命になる。


そのような指導者、ウラジーミル・ウラジーミロビッチ・プーチンとは、一体どのような人物なのか? 彼は何をたくらみ、何を仕出かそうとしているのか。現代の国際政治にいささかでも関心を抱く者すべてにとって、プーチノロジー(プーチン学)は避けて通ることのできない設問。こういって、過言でなかろう。本書は、この問いにたいするささやかな挑戦の試みである。

著者について

●木村汎(きむら・ひろし)
1936年生まれ。京都大学法学部卒。米コロンビア大学Ph.D.取得。北海道大学スラブ研究センター教授、国際日本文化研究センター教授を経て、現在、北海道大学および国際日本文化研究センター名誉教授、拓殖大学客員教授。専攻はソ連/ロシア研究。
主な著書として、『ソ連とロシア人』(蒼洋社)、『ソ連式交渉術』(講談社)、『総決算 ゴルバチョフ外交』(弘文堂)、『ボリス・エリツィン』(丸善ライブラリー)、『プーチン主義とは何か』(角川oneテーマ21)、『遠い隣国』(世界思想社)、『新版 日露国境交渉史』(角川選書)、『プーチンのエネルギー戦略』(北星堂)、『現代ロシア国家論――プーチン型外交』(中央公論叢書)『メドベージェフvsプーチン――ロシアの近代化は可能か』(藤原書店)など編著書多数。

Amazon商品紹介ページより

この作品はロシアの専門家木村汎氏によって書かれた『プーチン三部作』の第一作目になります。

『プーチン三部作』(『人間的考察』、『内省的考察』、『外交的考察』)はそれぞれの作品すべてが600ページ超というすさまじい大ボリュームで、プーチンとはいかなる人物かを知るのに非常におすすめな作品となっています。

今回ご紹介している『プーチン 人間的考察』はプーチンとはいかなる人物かに特化した作品です。

こちらの目次を見て頂ければわかりますように、この作品はものすごく細かくプーチン大統領の経歴や特徴を見ていきます。

■「プーチンって、一体誰?」――この問いにたいする答えは最初から見出されるはずがなかったともいいえよう。なぜならば、プーチンとは、「可塑性に富んだ鋳型のテンプレート」であることを、意図的に目指している人物にほかならないからである。

■もしそうだとすれば、そのような表向き用の顔ではなく、彼の本当の顔を捉えるためには、一体どうすればよいのだろうか?

■プーチノクラシーの主要な特性に適合したアプローチを採用すべしというのが、私の考え方である。プーチノクラシーの際立った特徴は、それがインフォーマルに形成されたプーチン・チームによって運営されている点にある。そのチームは、プーチンが己の血縁、地縁、学閥、職歴、趣味、別荘……等々を通じて形成してきた人脈からなる。そして、そのようなインフォーマルな人的ネットワークの総元締め(「ゴッドファーザー」)が、プーチンその人にほかならない。

■地域や職場でプーチンは、たとえばどのような人々と出遭い、交際し、かれらの影響を受けて、己の人生観や政治的信条を形成していったのか? また、一体どのような「状況」に遭遇し、彼はそれらに対処しようとしたのか? その軌跡を追体験することによってはじめて、謎に包まれた「ブラック・ボックス」、プーチンの実像に、われわれは一歩なりとも近づくことが可能になるだろう。
(「序章」より)

藤原書店、木村汎『プーチン 人間的考察』裏表紙より

木村汎氏がここで述べるように、プーチン大統領は謎多き人物です。

この作品では彼の幼少期からKGB時代、ペテルブルク、モスクワでの官僚時代、大統領時代とじっくりとその道筋を見ていきます。ニュースではなかなか知ることのないプーチン大統領の姿を知ることができます。

また、プーチン大統領の政治のキーポイントとなる彼のメンタリティーについての分析も非常に興味深いです。

この本が出版されたのは2015年ということで、今回のロシア・ウクライナ戦争についての直接の言及はもちろんありませんが、それに繋がるであろうプーチン大統領のメンタリティーとは何かということをこの本で考えることができます。

プーチン大統領関連やロシア関連の本はおどろおどろしいタイトルの本も多く、「これは陰謀論系の本なのだろうか」と迷ってしまうことがあるのが正直なところですが、この本はそのような本ではありません。

大部の本ですが意外と文字のサイズも大きく、著者の語りも非常に読みやすいのですいすい読んでいくことができます。

プーチン大統領とはいかなる人物かということを学ぶのにぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「木村汎『プーチン 人間的考察』プーチン大統領とはいかなる人物か、その経歴や特徴を知るのにおすすめの大著」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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