ひのまどか『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』日本の音楽に絶大な影響を与えた民族音楽研究家の驚異の生涯

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ひのまどか『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』日本の音楽に絶大な影響を与えた民族音楽研究家の驚異の生涯

今回ご紹介するのは2022年にヤマハミュージックエンターテインメントホールディングスより発行されたひのまどか著『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』です。

ひのまどかさんといえば、これまで当ブログでも紹介してきた「作曲家の物語シリーズ」の著者であります。

私がこのシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどかさんの『スメタナ―音楽はチェコ人の命!』がきっかけでした。

クラシック音楽に疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみたい」と思い、こうして 「作曲家の物語シリーズ」 を手に取ることにしたのでありました。

この「作曲家の物語シリーズ」については以下のように述べられています。

児童書では初めての音楽家による全巻現地取材

読みながら生の音楽に触れたくなる本。現地取材をした人でなければ書けない重みが伝わってくる。しばらくは、これを越える音楽家の伝記は出てこないのではなかろうか。最近の子ども向き伝記出版では出色である等々……子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています。


リブリオ出版、ひのまどか『ブラームス―「人はみな草のごとく」』 1999年第10刷版

一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する、読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。

ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっていて、まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。

ただ、残念ながらこれら「作曲家の物語シリーズ」は現在絶版となっております。

ですがご安心を。

現在、ヤマハミュージックエンターテインメントホールディングスさんがこの「作曲家の物語シリーズ」を「音楽家の伝記 はじめに読む一冊」シリーズとして増補改訂を加えて再出版して下さっています!

今回の『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』と同時に発売された『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 バルトーク』はまさにこの復刊となります。

絶版となってしまったひのまどかさんの名作がこうして蘇ったのは本当にありがたいです。

では、前置きが長くなってしまいましたが、『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』を見ていきましょう。

【音楽家の伝記シリーズ】
10歳から読めて、大人にも本物の感動を。
歴史上の偉大な音楽家たちの生涯を、物語のように読みやすく。

10歳から読めるクラシック音楽入門書。音楽が試聴できるQRコード付き!

[シリーズの特徴]
●小学校5年生以上で習う漢字には、すべてルビをふっています。
●本の中に出てくる楽器の音を、その場で試聴できるQRコード付き。
●音楽家の関連地図、人生年表などの付属資料も充実。
●図版も多数掲載。

人間に音楽は必要か? 彼は答えを求めて世界じゅうをかけめぐった
シリーズ初の日本人伝記が登場! 音楽研究の世界で重要な成果を残し、マルチな才能を生かして「民族音楽ブーム」の火付け役ともなった稀代の音楽学者・小泉文夫。彼のけた外れの活動は日本社会にも大きな影響を与えました。新しい世代に贈る一冊。

“バリ島で小泉が痛感したのは、経済力だけで国の力や人々の幸福度を判断するのは大きなまちがいで、豊かな文化こそが人を幸せにする、ということだった。
島民の生活は、文明が発達した国から見ればまずしい。しかし父親の膝に座って、父親がたたくガムランに目をかがやかせている男の子の姿に、小泉は真の幸せを見た。”(本文より)

Amazon商品紹介ページより

待望のひのまどかさんの新作。

私もわくわくして待ち望んでいたのですが、やはりひのまどかさんの伝記は最高です。

読み始めてすぐにひのまどかさんの絶妙な語り口に魅せられてしまいました。

魅力あふれる主人公小泉文夫さん、そしてそんな彼が世界中を股に掛けて繰り広げる音楽探究の冒険。彼が目にした世界や時代背景、文化、音楽の面白さがまるで映画を観ているかのように目の前に現れてきます。

ひのまどかさんの伝記の特徴は、その音楽家の生涯だけでなく、時代背景や文化も丁寧に解説してくれる点にあります。そしてそれがとにかく面白い!偉人達がどのような世界を生き、そこからどのような影響を受けて偉人となっていったのかということを知れるのは本当に貴重な学びになると思います。

そして今作で特に印象に残ったのは小泉文夫さんが音楽研究のために留学したインドでのお話でした。

私は僧侶ということでやはりインドにはかなり興味があります。ですがまだ行ったことはなく、コロナ禍が収まればできるだけ早く訪れたいなと思っていました。

そんなインドでひたすら音楽研究に励む小泉文夫さんの姿にはやはり心打たれるものがありました。

そして広い視野を持ち、世界各国の様々な音楽、文化を学ぶ尋常ではない探究心。そしてそれをわかりやすく、楽しく伝える教育者としての能力。

こんなにすごい人が日本にいたんだととにかく驚きました。

恥ずかしながら私はこの作品を読むまで小泉文夫さんについてはほとんど知りませんでした。ですがこの本を読み、小泉文夫さんがいかに日本の音楽に大きな影響を与えたのかがよくわかりました。もし小泉さんがいなければ日本の音楽をめぐる環境は全く違うものになっていたかもしれません。人間にとって音楽とは何なのか、音楽の楽しさ、素晴らしさはどこにあるのかを探究し、それを音楽となかなか接する機会のない方にもわかりやすく伝えた小泉文夫さんの功績は計り知れないものがあると思います。

これまでひのまどかさんは『作曲家の物語シリーズ』を執筆されていましたが、ここであえて作曲家ではなく「音楽家」である小泉文夫さんを主人公に作品を書かれたというのは非常に大きな意味があったのではないかと思ってしまいました。

最後に巻末のあとがきより、ひのまどかさんと小泉文夫さんの出会いについて書かれている箇所をご紹介します。これがまたいいんです。小泉さんのお人柄も感じられる素晴らしい箇所ですので少し長くなりますが引用していきます。

最後に、わたし自身の小泉文夫、三枝子夫人との思い出を述べておきたい。

わたしは六歳からヴァイオリンを習い、音大に進んで卒業後はヴァイオリニストとして活動していた。しかしいつもばく然と「自分がやっているクラシック音楽は世の中の人にとって必要なのだろうか。役に立っているのだろうか。大方の人は無関心か敬遠しているのではないか」と感じていた。

四十年くらい前の日本は、クラシックの音楽会もいまほど盛況ではなく、一般の方がコンサートに行く機会は少なかった。そのせいもあるが、とにかく生活に根づいていなかったのはたしかだ。そのころはテレビやラジオのクラシック番組ができ始めていたが、構成台本を書く〝音楽家〟がいなかったので、わたしは少しずつ書く方に転向しようと思った。

とはいえ、音楽について書くためには勉強し直さなくてはならない。それならば評判になっていた小泉文夫教授の講義を受けたいと思って、図々しくも直接お願いした。当時先生は四十代半ばの働きざかりで、世界じゅうを飛びまわりながら芸大の講義やゼミの指導を精力的にこなしていらした。先生はわたしの願いにあっさりと、
「あなたはここの卒業生なんだから、面倒な手続きをしないで教室に来ていいですよ」
と言ってくださった。いわば〝モグリ〟を容認してくださったのである。

そのときわたしが自分の無知不勉強を恥じて「わたしはこれまでヴァイオリンしか弾いてこなかったので、ほかのことを何も知らないんです」と言ったのに対する先生の答えは忘れられない。

「だれでも最初は何も知りません」

これはわたしにだけではなく、だれに対してもそうだった。民族音楽のことをまったく知らない人が無知な質問をしても、決してばかにしたりせず、わかりやすく、必要なことだけを、おだやかに説明されていた。

わたしは最初の講義から、目の前に地球規模の音楽地図が広がる思いがして、おどろきと、「目からウロコ」の連続だった。それから十年間、あまりにおもしろくてやめられず小泉教室に通い詰め、芸大がガムランを購入したときにはその練習にもくわわり、ラジオの音楽番組の構成台本を書き始めてからは先生にいく度かご出演を願い、さまざまな企画の相談にも乗っていただいた。

そこから学んだ音楽の背景にある歴史、宗教、風土、社会を知ることの重要さが身にしみついて、のちにクラシックの作曲家の伝記を書く際の指針にもなった。

あっというまの十年が過ぎ、突然訪れたのが先生の死だった。こんなにも早く亡くなられなかったら、わたしはずっと先生の講義に通い続けていただろう。(中略)

この伝記では、地球のすみずみにまでおよんだ小泉文夫のフィールドワーク、出会った民族や音楽や楽器、その結果をまとめたぼう大な研究、数多の社会的活動の、ほんの一部、大げさではなく百分の一くらいしか収められなかった。それほどけた外れの才能と行動力を持った人であり、まぎれもない天才だった。これほど学問的にも人間的にもすばらしい学者がいたことを、日本じゅうの人に、特に若い人たちにぜひ知っておいてもらいたい。

ヤマハミュージックエンターテインメントホールディングス、ひのまどか『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』P289-293

ひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」の原点が小泉文夫さんにあったということを知り、私は胸が熱くなりました・・・

私はこれまでたくさんのひのまどかさんの伝記を読んできましたが、そのどれもがまさしく「目の前に地球規模の音楽地図が広がる思いがして、おどろきと、「目からウロコ」の連続」でした。ひのまどかさんの「伝記シリーズ」を通して、私も小泉文夫さんの薫陶を受け続けているということになるのかもしれません。

世界の民族音楽を愛し、研究した小泉文夫さんの生涯はとてつもないスケールの物語でした。この作品と同時に発売されたバルトークもまさしく世界の民族音楽を研究した偉大な作曲家です。この2人の伝記が同時に発売されたというのは非常に画期的だと思います。ヤマハミュージックエンターテインメントホールディングスさんには感謝感謝です。ぜひぜひ2冊セットで読むことをおすすめします。

ひのまどかさんの新作『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』、素晴らしいの一言です!最高です!

子供の教育だけでなく、大人が読んでも感動間違いなしの名著です。読んでいて何度鳥肌が立ったことか・・・!

ぜひぜひ、手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「ひのまどか『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 小泉文夫』日本の音楽に絶大な影響を与えた民族音楽研究家の驚異の生涯」でした。

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