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エンパイアステートビルとニューヨークの摩天楼~トトロの魔法と人間の魔法 アメリカ編②

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エンパイアステートビルとニューヨークの摩天楼~トトロの魔法と人間の魔法 僧侶上田隆弘の世界一周記―アメリカ編②

次の日も朝から行動開始。

一つ目の目的地はエンパイアステートビル。

営業開始は8時から。ぼくはその時間に合わせて行くことにした。

さすがに空いている。混雑を避けることに成功したようだ。

エンパイアステートビルは1931年に完成した102階建てのビル。

戦前の1931年の段階でこんなとてつもなく巨大な建物を建設してしまうというのはよくよく考えてみたらものすごいことなのではないかと改めて感じてしまう。

また、エンパイアステートビルはキングコングでも有名だ。

ニューヨークの象徴としてこのビルはアメリカ人に非常に愛されている。

展望台は86階にある。

地上からの高さは320m。この高さからぐるっとニューヨークの摩天楼を眺めることができるのだ。

さすがに外は少し混雑するも流れはよく、ストレスなく進むことができた。

ニューヨークの摩天楼を見下ろす。

さすがは320mもの高さを誇る展望台。

地上からでは首が痛くなるくらい体を反らさないと見ることができなかった高層ビルを今度はいとも簡単に眼下に見下ろすことができる。

道路によってきれいに区画整理された土地の中にびっしりと隙間なく立つ巨大なビル。

地面から空に向かってせり上がってくるような迫力を感じる。

そしてぼんやりとその景色を眺めているうちに、ふとトトロのワンシーンがぼくの頭の中をよぎった。

『となりのトトロ』より © 1988 Studio Ghibli 以下同

トトロの力でどんぐりの木がどんどん成長し、より高く、より太く、あっという間に堂々たる大樹へと変貌していくあのシーンだ。

「ん~~っ・・・ぱっ」というなぜか記憶に残るトトロのおまじないの声。

どんぐりの実を植えただけのまだ何もない畑からひょこんとたくさんの芽が出てくるシーンはなんとも言えない感動と驚きがある。

残念ながらトトロの魔法は現実には存在しないが、ニューヨークの摩天楼は科学技術と人間の野心という人工的な魔法で地面からにょきっと生えてきたのではないかと想像してしまう。

もしこれがトトロのような無邪気な魔法のおかげだったらなんと平和で和やかなことだっただろう。

人間の魔法はもっとどす黒い混沌としたものだ。

人間の欲望をこれでもかと刺激し、そしてその欲望を肥やしとしてさらに成長していく。

人工的な魔法は油断のできない危険なものをはらんでいる。

だが、そうは言っても魔法には人を惹き付けずにはいられない何かがある。

トトロの魔法であれ、科学技術と人間の野心という人工的な魔法であれ、ぼくたちが抗いようもなく惹かれてしまうのは事実なのだ。

この摩天楼がそんな意図もなくただ商業的に作られていったにせよ、ぼくはこの摩天楼にそんな魔法を感じずにはいられなかったのである。

はっきりとは見つけることができなかったが、魅力的な何かがそこにはあったのだ。

ぼくはふと思った。

人間の、魔法に対する憧れ、大きなもの、背の高いものを作りたいという願望、人工物で世界を覆いつくしたいという願望の表れがこの摩天楼なのではないだろうかと。

人間の力、いや魔法で自然界を思うがままにしたいという夢がそのままこの姿に表れているのではないだろうかと。

そんなことを考えながらぼくはエンパイアステートビルからの景色を眺めていたのであった。

みなさんもどうだろうか。

そう言われてみれば、見れば見るほどこの摩天楼が地面からひとりでに生えてきたかのように見えてはこないだろうか。まるでトトロの魔法のように。

そして視線を変えてみると、向こう側にはウォール街が見える。

ぼくはその金融の中心地を眺めながら思った。

911はあそこに飛行機が突っ込んだのだなと。

たくさんの人が亡くなり、アメリカは戦争へと突き進んで行った。

そして今、その時よりももっと高い貿易センタービルが何事もなかったかのようにそびえ立っている。

・・・あのテロは一体何だったのだろう。

何が起きて、何が変わってしまったのだろう。

その後クルーズ船に乗り、今度は海からウォール街を眺める。

やはり新しい貿易センタービルの高さは群を抜いている。

テカテカしたビルの外観も何か独特な存在感を主張しているかのようだ。

クルーズではその後自由の女神も見ることができた。

やはりニューヨークといえばこれだろう。

ベタすぎるかもしれないがやはりこれを生で見るとニューヨークに来たのだという実感が高まる。

摩天楼を歩く

今回の記事では摩天楼についてお話ししてきた。

唐突にトトロが出てきて戸惑われた方もおられたかもしれない。

だが、ぼくはあの摩天楼を見てトトロのあのシーンを連想せずにはいられなかった。

そしてひとりでにあっという間に成長していく植物のイメージがまさにここニューヨークにぴったりなような気がしたのだ。

個々の人間の意思とは別に、お金が、システムが、自動的にビジネスを動かしていく。

もちろんそこには人が介在している。だがそれは単なる歯車に過ぎない。

資本主義はひとりでに成長し、ひとりでに動いていくのだ。

その資本主義の中心、アメリカのニューヨーク。

ぼくは経済学の専門ではないのであまり深くはお話しすることはできないが、宗教と資本主義は切っても切れない関係だ。

これは非常に根の深い問題だ。ぼく自身これから長い時間をかけて勉強していきたいと思う。

次の記事では911メモリアルミュージアムについてお話ししていきたい。

続く

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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