ハーレムの黒人教会での衝撃~ゴスペルと牧師さんの説法に度肝を抜かれる アメリカ編⑤

アメリカ アメリカ編

ハーレムの黒人教会での衝撃~ゴスペルと牧師さんの説法に度肝を抜かれる 僧侶上田隆弘の世界一周記―アメリカ編⑤

こちらが本日のツアーでお邪魔させて頂く「Memorial Baptist Church」というプロテスタントのバプティスト派の教会。

これまでぼくが巡ってきた国はローマやスペインをはじめとして、ほとんどがカトリックが根付いている国だった。

それに対してアメリカはプロテスタントが盛んな国。

これまでとは違った宗教文化が見られることだろうと期待が高まる。

教会内部に入ってすぐに気が付く。

やはりカトリック教会とは雰囲気が異なる。

厳かな雰囲気というよりはオープンで明るい雰囲気。

そして一番の違いは正面に巨大な十字架があること。

そしてカトリックの教会のように立派な祭壇やイエスの像、聖人像の姿が見当たらないということだ。

プラハの聖ミクラーシュ教会の祭壇
多数の聖人像で飾られた厳かな空間が印象的なカトリック教会の典型

カトリックとプロテスタントの教義上の違いがここに明確に表れている。

教会と聖人の力によって人々に救いを与えるカトリックと、「聖書のみ」を理想に掲げるプロテスタント。

「聖人像や立派な祭壇は必要ない。必要なのは個々が聖書を拠り所とすることなのだ」というルターの思想がそこには秘められている。

教会内部の構造からもその違いが読み取れて非常に興味深い。

※ここから先、全て許可を得て撮影しています

さあいよいよゴスペルのスタート。

いかにも歌が上手そうな女性たちがステージ上で歌い始める。

まさしくイメージ通りのゴスペルといったところだろうか。

身体の奥に直接響いてくるような、そんな歌声とメロディー。

パワーが違う。

会場の盛り上がり方も半端ではなかった。

皆立ち上がり、手を高く掲げ体を揺らし大合唱をしていた。

その一体感たるや鳥肌が立つほどであった。

ゴスペルが一段落すると、美しい音楽が流れ、それに合わせて紫色の衣装を着たダンサーがステージ中央に現れる。

信仰を表現しているのだろうか、滑らかながらも時に激しく動き回るダンスを披露していく。

ゴスペルからダンスへのこの流れは一つのエンターテインメントを思わせるような、そんな印象をぼくは受けた。

ここに参加した人が皆一体感を感じ、そしてそれぞれの歌と踊りに入り込む。

そういう濃密な時間をこの教会で信徒同士で分かち合っているのだろうか。

さてさて、ここまでゴスペルの体験をここまでお話ししてきたのであるが、そもそもゴスペルとは一体何なのだろうか。

今回のツアーのガイドをして下さった松尾公子さんのお話しを参考にしてここから述べていきたい。

まず松尾さんはどのような方かいうと、上のリンク先で紹介されているプロフィールをそのまま引用させて頂くと、

「NYハーレムの黒人コミュニティにどっぷり浸かって17年の音楽プロモーター、ディレクター、NYコーディネイター。黒人教会でゴスペルを17年歌っています。Harlem Japanese Gospel Choir代表 (2010年アメリカのゴスペル大会史上日本人初出場で初優勝、2014年アメリカ最大のエンタメ「スーパーボウル」出演)、アメリカの黒人コミュニティより、日本人女性初「ウーマン・オブ・エクセレンス&マン・オブ・ビジョン」受賞など、”日本人初”を次々切り開くパイオニア)。ブラックカルチャーについて、ゴスペルについて、ハーレムについて、なんでもお任せ下さい。」

というものすごい経歴の方であることがわかる。

(松尾さんのブログはこちら→https://profile.ameba.jp/ameba/harlemusic

実際にお会いしてお話を聞いてみると、ものすごくわかりやすくそしてディープな情報まで教えて下さるので本当に楽しく充実した時間を過ごさせて頂いた。

その松尾さんのお話しによると、ゴスペルとは「ゴッド スペル」のことで神の言葉、福音を意味するのが本来の意味だそう。

神を賛美し、神の言葉を味わうことが最大の目的であって、日本人がイメージするような、歌の上手い人が歌うというようなものではないし、明るく楽しく皆で歌うというものだけがゴスペルというわけでもない。

ゴスペルは単なる歌ではなく、神の賛美という明確な宗教的な営みがそこには含まれているのだ。

そしてゴスペル鑑賞ツアーはゴスペルが終わるお昼の12時頃に現地で解散となる。

通常のツアー客はここで解散し、各自で観光や昼食をとりに行くのだがぼくはあえてここで解散せず教会に残ることにした。

というのもゴスペルは日曜礼拝のスケジュールの中の一部であって、昼からは教会のミサと牧師さんによる説教が行われるからだ。

ぼくは宗教の勉強でここまで来たのだ。ならばぜひともミサと説教を聞いてみたい。

そんな思いでぼくはここに残ることにしたのだ。

説教の始まりは男性による歌からスタート。

これまたうまい。そして歌が終わると黒人の牧師さんが説教壇へと進んでゆく。

牧師さんの見た目はかなり大柄で迫力がある。

だが説法が始まるととても優しそうな顔で聴衆に語りかけていた。

迫力ある風貌と優しそうな笑顔のギャップがとても印象的だった。

英語をうまく聞き取れなかったので説法で何を言っているのか正確にはわからなかったが、たくさんのジョークを言っているのは雰囲気からわかった。

信徒さんもそのジョークに対して大盛り上がり。会場の雰囲気は非常に陽気で和やかなものだった。

だが、ぼくが本当の意味で度肝を抜かれたのはここから先の話であった。

突然牧師さんのテンションが上がりだす。

言葉のキレや迫力、そして身振り手振りが大きくなりだす。

その勢いは留まることを知らず、ほとんど叫んでいるかのようなものへと変わっていくのであった。

そしてその説教はリズムを帯び始め、まるでラップをしているかのような調子へと変わっていく。

信徒たちも立ち上がり、手を振り上げ、会場は熱気に包まれていく。

一体何だこれは!?何が起きているのだ!?

ぼくは目の前の光景が信じられなかった!

説教でこんなことがありえるのか!お寺ではまったく想像もつかなかったような光景が目の前で現実に繰り広げられている!

驚きはこれでは済まされなかった。

なんと、牧師さんのラップに合わせてピアノの伴奏が入って来たではないか!

一体どうなっているのだ!ぼくはすっかり呆気にとられてしまった。

そしてピアノどころではない、この後すぐにドラムまで参戦してきたのである。

牧師さんはラップは最高潮の熱気に達し、信徒さんの熱気もそれに劣らず強烈なものだった。

ぼくはそのあまりの光景にとてつもないショックを受けてしまった。

ぼくはあまりのショックに目の前の光景をただ茫然と見守ることしかできなくなってしまったのだった。そのため、これより後の映像は残っていない・・・

ぼくはお寺に生活し、お寺のことを学ぶためこれまでたくさんの説教を聞いてきた。

お寺でされる説教で、こんなスタイルでされるものなど想像できただろうか。ぼくは完全にカルチャーショックを受けてしまった。

牧師さん側、お坊さんが独自なスタイルで教えを人々に伝えようとするというのはまだ理解はできる。

しかし、信徒さん側がここまで熱狂し、叫び、踊り、手を振り上げ、抱き合い、動き回り、傍から見ればカオスな状況で説法を聴くということは日本ではまったく想像することもできなかったことだった。

ガイドの松尾さんともその後この時の衝撃をお話しした際、興味深いお話しを聞かせて頂いた。

「ミサの最中、聖書の言葉にぴったりはまると、泣き出したり踊りだしたり震えだしたりする人がいます。これをホーリーゴーストが降りてきたという風に言います。

中には失神する人もいますから必ず看護師さんもここには待機しています。

今日はこれでもみんなおとなしい方でしたよ」

手を振り上げたり急に泣き叫びだしたり動き出したり・・・今日ぼくが見たそれだけでも度肝を抜かれるものだったのにこれでおとなしい方だったとは・・・

その事実にさらにショックは大きくなる。

「ここの信者さんは毎週の始まりが日曜のミサです。

辛いことがあれば神様に「苦しいーっ!!」って叫んで神様に委ね、嬉しいことがあれば「ありがとーっ!!」って叫び感謝して生きるパワーをもらう。

それが私たちが信者として教会に通うということです。

ゴスペルはその一つなのです。

黒人は嬉しい、辛い、悲しいを直接表現したがります。

それを表現するためにも音楽が極めて重要です。黒人教会では音楽が最重要なのです。

それがうまくできなければその教会には人が来なくなりますね。」

なるほど・・・この説法のスタイルは黒人文化と深いつながりがあるということなのか・・・

日本にいると黒人の方と接する機会はかなり限られる。

ましてや生活を共にし、その文化や考え方を知る機会に恵まれることはほとんどないだろう。

日本人と黒人の文化の違いは真逆に近いほど異なる。

感情表現もまるで違うし、歌や踊りに込められた意味もまったく異なる。

日本人と黒人では同じ世界を生きていても、見えている世界はまるで違うものになっていることだろう。

すべての価値判断基準が異なるのだ。何が良くて何が悪い、何を好み何を嫌うのか、それらひとつひとつが世界の見方を形作っていく。

日本人として生きてきたぼくには、黒人文化はあまりにカルチャーショックなものだった。

日本とアメリカの違いを全身で感じることができた今回の体験であった。

続く

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