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高桑史子『スリランカ海村の民族史』あらすじと感想~海に生きる人々の生活を政治経済、内戦、津波被害の観点から見ていく参考書

スリランカ海村
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高桑史子『スリランカ海村の民族史 開発・内戦・津波と人々の生活』概要と感想~海に生きる人々の生活を政治経済、内戦、津波被害の観点から見ていく参考書

今回ご紹介するのは2008年に明石書店より発行された高桑史子著『スリランカ海村の民族史 開発・内戦・津波と人々の生活』でした。

早速この本について見ていきましょう。

漁村ではなく「海村」という用語を使い、スリランカの人々の営みを多角的に捉える。漁業だけでなくヤシ殻ロープ製作などにも従事する女性たちを中心に、開発の波が押し寄せる中、内戦に巻き込まれ、インド洋大津波の被害にあいながらも、飄飄と生きる人々を描く。

明石書店商品紹介ページより

前回の記事で紹介した中村尚司『スリランカ水利研究序説』ではスリランカの灌漑農業について見ていきましたが、本作『スリランカ海村の民族史 開発・内戦・津波と人々の生活』では海に生きる人々の生活を見ていくことになります。

農村や都会に生きる人々とはまた違うスリランカの生活を本書で知ることになりました。

本書について著者は序論で次のように述べています。

本書の目的は、国家の開発政策に取り込まれていったスリランカの海村の変化を論じることである。起伏のある海岸砂丘が発達し、大小さまざまな形態の砂嘴、砂州や潟湖(ラグーン)が形成されているスリランカの海岸には、かつては砂丘の背後にある沼沢地や潟湖・河川の河口部にマングローブが茂り、バンダナスなどの木々が繁茂していた。しかし、このような光景は過去のものとなって久しい。植民地時代から海岸林は伐採され、西岸から南岸にかけてはココヤシ園が開かれていた。また人口増加にともなって、多くの住宅が海岸近くに建てられるようになり、とくに1970年代以降は観光開発とともにホテルやゲストハウスなどの観光施設も建てられるようになった。モンスーンの風や波を防いでくれる海岸林の背後に住んでいた人々の生活も、大きく変わっていった。

海村に住む人々の生活を変貌させた大きな要因は、海村を行政的に「漁村」として、水産業振興政策の対象としたこと、そして観光施設による浜の囲い込み、それに1983年以降から続いている内戦である。2004年12月26日にインドネシア・スマトラ島北西部沖合を震源とする大地震によってインド洋沿岸地域を襲ったインド洋地震津波は海村を壊滅状態にしたが、その被災から復興の過程においても、海村はさらに大きな変化を余儀なくされている。本書は開発・内戦・津波というスリランカ海村を大きく変える要因となった事象を考慮しながら、人々の海との係わり方が国家の政策によってどのように変わったか、そして変貌する社会の中で海村の女性がどのような役割を担っているかを明らかにしていく。さらに仏教を国家発展の基礎に据える政治理念を背景に、国民の約7割を占めるシンハラ人が仏教に傾倒する過程で、漁業を通して「殺生」と係わってきた海域住民の漁業活動や社会に対する意識がどのように変容しているかも明らかにしていく。(中略)

本書の当初の意図は、要約すると開発政策に取り込まれていった海村の動態的民族誌の記述であった。実際、筆者が調査を開始してからの20年間に海村は徐々に変化を遂げていった。訪問のたびに増える動力漁船の数、整備が進む漁港、そしてより生活に密着したところでは、電気が引かれている家庭が増え、また水道管が自宅の庭にまでひかれ、女性や子供は毎日の水くみの苦労から解放されるようになった。本書は、スリランカ海村の生活は、さまざまな問題を内在させたまま徐々に変化を遂げつつある、というような一文で終わったかもしれない。

しかし、この仮定は2004年12月26日におこった津波によって根底から覆された。この予期せぬ大災害はスリランカの海村の生活を大きく変えてしまった。北西岸を除いて海域の大半が津波被害を受けたスリランカは、多数の死者・負傷者に加えて、家やさまざまな施設が破壊され、多くの漁船が損壊を受け、漁港のほとんどが使用不可能になった。津波は内戦の停戦合意締結後に、避難先から帰郷した人々が、新たな生活復興と漁業再開に向けて一歩を歩み始めた頃に国土を襲ったのである。

そこで本書では、災害からの復興に向けた社会の動態的把握という視点も盛り込むことになる。2005年になってからの内戦の再燃で、和平協定締結以前の過酷な生活に逆戻りしてしまった地域があるが、非戦闘地帯では少しずつではあるものの、新たな生活再建が行われつつある。そのこともふまえて、災害からの復興の過程での海村家族の変化にも着目する。これは、近年あらたな研究が行われている災害と文化との関係を論じる災害人類学とも係わる問題意識である。

明石書店、高桑史子『スリランカ海村の民族史 開発・内戦・津波と人々の生活』P13-16

この文章を読んで頂けますとわかりますように、この本では単に海村の人々の生活を見ていくだけでなく、政治経済、内戦、宗教、津波被害など大きな観点とも関連づけて語られていきます。

特に、スリランカの仏教を学んでいる私にとっては海村における宗教の問題は非常に強い関心がありましたのでこれはありがたい参考書となりました。

教義や歴史書を読むだけでは見えてこない生活レベルの信仰を考える上でもこの本はとても刺激的です。

そして津波被害とそこからの復興や問題点なども考えさせられるのも大きいです。ビーチリゾートとしても有名なスリランカですが本書を読めば今まで想像もしていなかった海村の存在を知ることになります。私も函館という港町に住んでいるので、海と共に生きることは全く他人事ではありません。日本の多くの方にもその感覚は通じるものがあると思います。

本書は普段考えることのない新たな視点をくれる素晴らしい作品です。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「高桑史子『スリランカ海村の民族史』~海に生きる人々の生活を政治経済、内戦、津波被害の観点から見ていく参考書」でした。

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スリランカ海村の民族誌

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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