MENU

(29)ベルニーニ『マリア・ラッジの墓』~サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会の独特な大理石彫刻

目次

【ローマ旅行記】(29)ベルニーニ『マリア・ラッジの墓』~サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会の独特な大理石彫刻

今回ご紹介するのは以前の記事「(27)ベルニーニ『聖女テレサの法悦』~バロック美術の最高傑作!コルナーロ礼拝堂の驚異のイリュージョン!」で紹介した『聖女テレサの法悦』と同時期にベルニーニが手掛けた『マリア・ラッジの墓』を紹介する。

あわせて読みたい
(27)ベルニーニ『聖テレジアの法悦』~バロック美術の最高傑作!コルナーロ礼拝堂の驚異のイリュージ... 官能的とすらいえるほどの恍惚境が表現された衝撃的な彫刻です。 実際に現場で観てみた私も衝撃を受けました。この彫刻がバロックの最高傑作と言われるのがよくわかります。 私はローマ滞在中何度もこの教会を訪れました。何度観ても感嘆してしまいます。電気もライトもない時代にこれほど完璧に光を操ったというのは衝撃的としか言いようがありません。ベルニーニ恐るべしです。

「彫刻」と言うにはあまりに独特な姿の『マリア・ラッジの墓』。

例のごとく石鍋真澄の解説を見ていこう。

ベルニーニはこの時期に、もう一つの独創的な作品を生み出した。サンタ・マリア・ソプラノ・ミネルヴァにあるマリア・ラッジの墓がそれである。彼はこの墓を設計するのに、通常の墓に用いられる建築的構造を拒否し、柱にまずたれ幕パラペタスマをつけ、その幕の上でマリア・ラッジを表わしたメダイヨンをプットーが支え持つという趣向を用いた。

マリア・ラッジは臨終の床で十字のしるしを求め、「主イエスよ、私の魂をお受け下さい」といって、三度イエスの名をロにして静かに息をひきとった、と伝記は伝えている。べルニーニはこの臨終の修道女を表わそうとしたと考えられ、メダイヨンに描かれた彼女は胸に手をあてて、最後の言葉をロにしているかのようだ。

そしてあたかも彼女の幻視ヴィジョンであるかのように十字架が現われ、それがたれ幕パラペタスマを柱につなぎ止めている。このたれ幕パラペタスマが風にたなびいているのは、死が人を吹き去ることを象徴したものと解釈されている。

この作品も弟子の手で仕上げられたものだが、その水準は非常に高い。ことに大理石の布に黄色の石を用いてふちをとり、メダイヨンとプットーには鍍金をほどこしたブロンズを用いるという、べルニーニ一流の技法の混用と色彩主義は驚くべき成功をおさめている。そして石で表現されたたなびく布の質感は、素材を自分のアイディアに従わせようとする、彼の異常なまでの執念を感じさせる。小さいが独創性に富む、忘れがたい墓だ。

この作品はつい最近まで、その銘文から一六四三年に制作されたと考えられてきた。だがごく最近の研究によって、一六四七年から五三年の間の作であることが判明している。その超越的・神秘的「着想コンチェット」と表現の点から見ても、このより遅い年代が妥当であろう。
※一部改行した

吉川弘文館、石鍋真澄『ベルニーニ バロック芸術の巨星』P123-124
サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会 Wikipediaより

『マリア・ラッジの墓』があるサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会はパンテオンからすぐ近くの場所にある。私もパンテオンとセットでこの教会を見学した。

だが、私が訪れた2023年11月末では残念ながら教会内が工事中ということで正面からは入堂できず、裏手から入ることに。

一応教会内には入れたのだがその大部分は工事のため立ち入り禁止。だがありがたいことに、この写真の右側の位置に『マリア・ラッジの墓』を見ることができた。間近で見ることはできなかったがその姿を拝めただけ幸運だった。

それにしても独特。これが本当に石でできた彫刻なのかと驚く。色もそうだが波打つような質感には開いた口が塞がらない。大理石で波打つ衣を表現するというその発想力!人間の彫刻において衣の質感を追求するというのはよくあることだ。しかし布そのものを主役にして作品を作ってしまおうという大胆さには脱帽だ。色の組み合わせもベルニーニらしさを感じる。

「この作品も弟子の手で仕上げられたものだが、その水準は非常に高い。ことに大理石の布に黄色の石を用いてふちをとり、メダイヨンとプットーには鍍金をほどこしたブロンズを用いるという、べルニーニ一流の技法の混用と色彩主義は驚くべき成功をおさめている。そして石で表現されたたなびく布の質感は、素材を自分のアイディアに従わせようとする、彼の異常なまでの執念を感じさせる。小さいが独創性に富む、忘れがたい墓だ。」

たしかに直接的には弟子が制作したものではあるが設計やその指揮はベルニーニによるもの。彼の才能が生きた素晴らしい作品であると私も思う。

ちなみにサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会の目の前にあるこの『象のオベリスク』もベルニーニの設計によるもの。1667年頃、時の教皇アレクサンドル七世の依頼で作られたものだ。

オベリスクを象に乗っけてしまうというユーモアに富んだ作品であるが、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会のシンプルすぎる外観と絶妙にマッチしているように私は思う。こういう思わずほっこりしてしまう茶目っ気もベルニーニの魅力ではないだろうか。

続く

Amazon商品ページはこちら↓

サン・ピエトロが立つかぎり: 私のローマ案内

サン・ピエトロが立つかぎり: 私のローマ案内

ベルニーニ: バロック美術の巨星 (歴史文化セレクション)

ベルニーニ: バロック美術の巨星 (歴史文化セレクション)

※以下の写真は私のベルニーニメモです。参考にして頂ければ幸いです。

※【ローマ旅行記】の記事一覧はこちらのカテゴリーページ

※ローマやイタリアを知るためのおすすめ書籍はこちらのカテゴリーページへどうぞ
「ローマ帝国の興亡とバチカン、ローマカトリック」
「イタリアルネサンスと知の革命」

次の記事はこちら

あわせて読みたい
(30)新たなパトロン教皇アレクサンデル七世の登場!ベルニーニ第二の黄金期を支えた建築教皇の存在! 教皇イノケンティウス十世が亡くなり、その後を継いだアレクサンデル七世というのがこれまたスケールの大きな人物でした。この人物の登場によりベルニーニは第二の黄金期を迎えることになります。 これから先の記事ではキジ礼拝堂やサンピエトロ広場、サンピエトロ大聖堂の『カテドラ・ペトリ』と『スカラ・レジア』、サン・タンドレア・アル・クイリナーレなどベルニーニの傑作を紹介していきます。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
(28)ローマ・ナヴォーナ広場の『四大河の噴水』~ベルニーニ、失脚からの完全復活!敵対していた教皇... 今回の記事では堅物なイノケンティウス十世の即位によって不遇の身となったベルニーニが完全復活を果たすきっかけとなったナヴォーナの広場の『四大河の噴水』をご紹介していきます。 現在でもローマ市民や観光客の憩いの場となっているナヴォ-ナ広場。この広場で一際目を引く噴水もベルニーニの優れた発想力の賜物でした。この噴水の素晴らしさと魅力をお伝えします。

関連記事

あわせて読みたい
(8)ミケランジェロ・ベルニーニも絶賛したパンテオン!ローマ建築最高峰の美がここに! あのミケランジェロとベルニーニが褒め称えたパンテオン。 古代ローマ建築の頂点パンテオンはルネサンスにも絶大な影響を与えていました。 ローマ帝国の叡智の結晶たるパンテオン。西暦125年頃からずっとこの姿を保っているというのは驚異的としか言いようがありません。あのコロッセオですらもはや廃墟のような姿です。それに対してここは完全に現役のままです。ローマ帝国の技術力には唖然とするしかありません。
あわせて読みたい
(27)ベルニーニ『聖テレジアの法悦』~バロック美術の最高傑作!コルナーロ礼拝堂の驚異のイリュージ... 官能的とすらいえるほどの恍惚境が表現された衝撃的な彫刻です。 実際に現場で観てみた私も衝撃を受けました。この彫刻がバロックの最高傑作と言われるのがよくわかります。 私はローマ滞在中何度もこの教会を訪れました。何度観ても感嘆してしまいます。電気もライトもない時代にこれほど完璧に光を操ったというのは衝撃的としか言いようがありません。ベルニーニ恐るべしです。
あわせて読みたい
(17)ベルニーニ『プロセルピナの略奪』~驚異の肉感!信じられない超絶技巧に驚愕!ボルゲーゼ美術館... ベルニーニは単に独創的なだけではありません。それを実現する超絶技巧があったからこそその独創性が生かされています。発想だけでは足りないのです。それだけでは単なる空想で終わってしまいます。確かな技術、いや圧倒的な技術という裏付けがあるからこその独創性なのだということを実感しました。
あわせて読みたい
(18)ベルニーニ『アポロとダフネ』~初期の最高傑作!芸術の奇跡と称えられたボルゲーゼ美術館の至宝! 私はこの彫刻が展示されている部屋に入った時、思わず「天才だ・・・!」と漏らさずにはいられませんでした。『プロセルピナ』もたしかにものすごい作品でしたがこれはさらに異次元の領域に達しています。「芸術の奇跡」と称えられたのも心の底からよくわかりました。 天才というのはこういうことかと感嘆せずにはいられません。言葉を失ってしまいました。それほど圧倒的な作品です。
あわせて読みたい
(22)ベルニーニ『聖ロンギヌス』~サン・ピエトロ大聖堂の巨大彫刻。ベルニーニのイリュージョンが炸... サン・ピエトロ大聖堂にある『ロンギヌス』はバルダッキーノやその先に見えるカテドラ・ペトリのちょうど反対側の向きにあります。そのため多くの人がこの像を見逃して帰ってしまうかさっと流して終わってしまいます。ですがそれはあまりにもったいないです。ぜひこの像にも時間を割くことをおすすめします。 ベルニーニの魔術がこれでもかと炸裂した傑作です。細部にまで彼得意の超絶技巧が施された必見の彫刻です!
あわせて読みたい
ミケランジェロとベルニーニが設計したサン・ピエトロ大聖堂の美の秘密を解説 イタリア・バチカン編⑥ この記事ではサン・ピエトロ大聖堂の建築とミケランジェロ、ベルニーニという二人の天才についてお話ししていきます。 ミケランジェロが建築家としてサンピエトロ大聖堂を設計していたという驚きの事実や、それを引き継いだベルニーニがいかに人々を魅了する芸術を生み出していったかを紹介していきます。皆さんもきっと彼らの天才ぶりに驚くと思います。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次