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辻昶『ヴィクトル・ユゴーの生涯』あらすじと感想~フランスの偉人ユゴーのおすすめ伝記!

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辻昶『ヴィクトル・ユゴーの生涯』概要と感想~ユゴーのおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは1979年に潮出版社より発行された辻昶著『ヴィクトル・ユゴーの生涯』です。

早速この本について見ていきましょう。

七月革命、二月革命、パリ・コミューヌ等激動に満ちた19世紀をダイナミックに生きた〈人間ユゴー〉の評伝。作品に説かれた人類愛から、華々しい女性関係までの思想と行動を鋭く追及した力作。

ユゴーはナポレオン三世のクーデターに遇い、イギリス海峡の孤島に亡命し、以後十九年におよぶ孤独な亡命生活を創作に明けくれして過ごしたが、その姿を私は深い感動なしに思い起こすことはできない。ナポレオン三世が被追放者に対して発した特赦令を拒否して、「自由が祖国にもどると、私もフランスにもどるであろう」と述べたユゴー、多くの人々がコミューヌの参加者に対して敵意を抱いた中で、彼等を弁護したユゴー……本書はある意味では、ユゴーの〈良心〉に対する慎ましやかな賛辞である。

潮出版社、辻昶『ヴィクトル・ユゴーの生涯』帯より
ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)Wikipediaより

この作品はフランスの偉大なる文豪ヴィクトル・ユゴーの伝記です。著者の辻とおる氏はユゴーの『レ・ミゼラブル』『九十三年』などの翻訳を手掛けたフランス文学者です。

著者はこの本について冒頭で次のように述べています。

あまりにその名が喧伝されているためにかえって顧みられない作家がときに存在する。ヴィクトル・ユゴー(一八〇二―八五)は、日本では、そのような作家の一人であると言ってもよいだろう。わが国でもユゴーの代表作『レ・ミゼラブル』(一八六二)には、明治時代の黒岩涙香による翻訳『噫無情』をはじめとして現在も数種類の翻訳が流布している。

しかし、ユゴーについてそれ以上の知識を深めようとする努力がなされていないというのが、現在の日本の実情ではないだろうか?

フランス文学の専門家はさておき、一般の読者のユゴーについての知識はせいぜい、もう一つの彼の小説『ノートル=ダム・ド・パリ』(一八三一)までではないだろうか?

私はかねてからこのことを非常に残念に思い、ユゴーについてまとまった研究を発表するのを念願としてきた。もとより、このような小冊子でユゴーの全貌を記すことができたなどと主張するつもりは毛頭ない。これは〈人間ユゴー〉についてのきわめてささやかなエッセイにすぎないが、読者諸兄がこの詩人に対して興味をお寄せになる一助ともなれば、筆者は満足である。
※一部改行しました

潮出版社、辻昶『ヴィクトル・ユゴーの生涯』P7

著者がここで述べるように、ユゴーその人についてもっと多くの人に知ってほしいという思いがこの本からはひしひしと伝わってきます。

そしてこの伝記は過去の様々なユゴー伝や資料を参照し、ユゴーの魅力や特徴を初学者の方にもわかりやすく解説してくれます。特に以前当ブログでも紹介したアンドレ・モロワ著『ヴィクトール・ユゴー《詩と愛と革命》』はこの作品でも何度も出てきます。

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この作品はユゴー伝の中でも高い評価を得ている作品で、実はこの本の翻訳を担当しているのも辻昶氏になります。

アンドレ・モロワの『ヴィクトール・ユゴー《詩と愛と革命》』はかなり赤裸々にユゴーを描いており、読めばびっくりするようなことがどんどん出てきます。正直ちょっと引いてしまうくらいのユゴーを知ることになります。

詳しくは上の記事を読んで頂きたいのですが、「矛盾をはらんだ巨人」ユゴーの赤裸々な実態を知れるのがアンドレ・モロワの伝記になります。

そうした伝記を引用しつつも辻氏の伝記はバランスの取れた記述が印象的です。モロワの伝記はあまりにどぎついです。ユゴーってこんな人だったのか!と衝撃を受けるほどです。それに対しこの伝記はとてもマイルドな構成となっています。(それでもユゴーのプライベートには驚くと思いますが)

ユゴーの波乱万丈の生涯を単行本1冊にぎゅぎゅっとまとめたこの作品は非常に貴重なものだと思います。読みやすさも抜群ですのでぜひおすすめしたいです。

以上、「辻昶『ヴィクトル・ユゴーの生涯』概要と感想~フランスの偉人ユゴーのおすすめ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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