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ローラ・J・スナイダー『フェルメールと天才科学者』あらすじと感想~顕微鏡で有名なレーウェンフックとの驚きの関係とは

目次

ローラ・J・スナイダー『フェルメールと天才科学者 17世紀オランダの「光と視覚」の革命』概要と感想~おすすめ名著!微生物の発見で有名なレーウェンフックとの驚きの関係とは

今回ご紹介するのは2019年に原書房より発行されたローラ・J・スナイダー著、黒木章人訳の『フェルメールと天才科学者 17世紀オランダの「光と視覚」の革命』です。

早速この本について見ていきましょう。

「17世紀デルフトに生まれた二人の天才が、それからの芸術と科学の未来を決定的に変えてしまうほどの大発見をした。その驚異的な時代へ、いつのまにかわたしたちは引きこまれてしまう。なんて素敵な本なんだ! 」
――オリバー・サックス



「フェルメールと科学者レーウェンフックの生涯を克明に描きながら、本書は人類の偉大なる発見の瞬間について物語っている。芸術家と科学者がともに新しい光学機器を使い、自然界を研究した時代について、綿密な調査に裏付けされた、まるで小説のように楽しめる歴史ノンフィクション! 」
――ウォルター・リートケー(メトロポリタン美術館 学芸員)



「不可視の世界」に挑んだ科学者と画家たち
1674年、オランダの小さな町デルフト。素人科学者アントニ・フン・レーウェンフックは自作の顕微鏡を使い、人類で初めて微生物を発見した。そのとき、広場を挟んだ向かいに住む画家フェルメールは、新しい光学機器カメラ・オブスクラを覗きこみ、光の効果をキャンバスに再現しようとしていた――

17世紀、望遠鏡と顕微鏡という新たな光学器機と理論、そして肉眼を超える驚異的な観測能力が大きな引き金となって「科学革命」が起こった。その結果、天文学、物理学、生物学、解剖学、化学は大変貌を遂げる。そして〝ものの見方〟が初めて科学の中心理念とされた。画家たちもまた、凸レンズや拡大鏡、カメラ・オブスクラを用いて自然界を観察し、昆虫や植物の細密画を描き、光と影、そして色彩と色調を捕らえようとした。しかし、そこで大きな問題に行き当たる。「肉眼で見える範囲外のものを知覚することはできるのか」? 17世紀デルフトの科学者と画家たちがもたらした「見る」ことの一大転換とは。

当時の資料からフェルメールとレーウェンフックの生涯を克明にし、レンズの製造法から視覚理論の歴史、そして実際にフェルメールが各作品に用いた遠近法と光学を詳細に解説。同時代の画家や科学者たちまで網羅する。

Amazon商品紹介ページより

はじめに言わせて頂きます。

この本は最高です!私の2022年上半期ベスト3に入る作品と言っても過言ではありません。

上の本紹介にあります絶賛の言葉には心から共感します。とにかく面白い!こんなにわくわくさせてくれる本にはなかなかお目にかかれるものではありません。

フェルメールといえば上の絵のような光の粒が感じられるような独特な画風が特徴的です。

この「光」を絶妙に捉えるフェルメールの技術はいかにして習得されたのか、そしてその技術は当時の世界においていかに革命的だったのかということをこの本では見ていくことになります。

後世を生きる私たちは当たり前のようにこの絵を観てしまいますが、フェルメールが見ようとしていた世界がいかに時代の最先端をいくものだったかをこの本で知ることができます。

著者のローラ・J・スナイダーは当時の時代背景や宗教事情と絡めてフェルメールのことを語っていきます。これがすこぶる面白い!「え!?そうなんだ!!」ということがどんどん出てきます。

フェルメールをはじめとしたオランダ絵画がいかに当時の時代背景と結びついていたかがよくわかります。フェルメールがいかに巨大な革命を起こしたかには驚くしかありません。

そしてフェルメールといえばこの2作品も有名ですよね。

この学者のモデルとなったと言われているのが世界で初めて顕微鏡で微生物を発見したレーウェンフックという人物です。

アントーニ・ファン・レーウェンフック(1632-1723)Wikipediaより

なんと、驚くべきことにフェルメールとこのレーウェンフックは同じ年に同じ街で生まれているのです!

『デルフトの眺望』Wikipediaより

1632年にデルフトで生まれた2人。

そして2人は生涯のほとんどをこの街で暮らし、それぞれ偉業を成し遂げています。

レーウェンフックは顕微鏡、フェルメールはカメラ・オブスクラで、この2人は「レンズ」を通して肉眼では見えぬ世界を探究しました。

ロンドンサイエンス・ミュージアムに展示されているカメラオブスクラ  Wikipediaより

カメラ・オブスクラについては長くなってしまうのでお話はできませんが、当時としては最先端のテクノロジーを用いてフェルメールは目に見えない光の世界を探究していたのでした。それが彼の絵画に反映されているのです。

フェルメールとレーウェンフックが直接交流したという証拠は残されていませんが、デルフトという小さな街でそれぞれが街の役職に就き、さらにはかなりご近所さんだったということから、この2人は生前つながりがあっただろうと著者は述べています。

この2人の関係性もこの本ではじっくり見ています。

2人の成し遂げた偉業とはどのようなものだったのか、そしてそれはこの世界にとってどんな意味を持っていたのかということをこの本では知ることになります。これは衝撃でした。まさに「ものの見方」の革命です。

あまりに面白過ぎる・・・!この本には圧倒されっぱなしでした。

正直、『フェルメールと天才科学者を読む』という題で連続記事を書いていきたいくらい紹介したい箇所があります。ですが時間の制限上それも叶いません。

この本の面白さをぜひ皆さんにも体感して頂きたいです。フェルメールファン必読です。きっともっとフェルメールを好きになります。

またフェルメールにあまり関心がなかった方にもぜひおすすめしたいです。フェルメールってこんなにすごかったのかと驚くと思います。

そしてさらに言えば、宗教や文化に興味のある方。そのような方にもぜひおすすめしたいです!

というのも、この本では従来のキリスト教的世界観と全く異なる世界の見方をしたフェルメールとレーウェンフックが語られます。

世界は絶対神が創造したと考え、目に見えない世界など想像だにもしていなかった社会です。そんな中レーヴェンフックは顕微鏡で微生物を発見し、人間の肉眼では知りえない世界を提示しました。フェルメールも人間の視覚の仕組み、つまり光の原理を探究しました。

これはコペルニクスやガリレオ・ガリレイ、ニュートンなどとも繋がってきます。

世界が中世から近代へと移っていくその過度期の流れを知ることができる驚きの作品です。何度も言いますがこんな刺激的な作品にはなかなかお目にかかれるものではありません。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「ローラ・J・スナイダー『フェルメールと天才科学者』おすすめ名著!微生物の発見で有名なレーウェンフックとの驚きの関係とは」でした。

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フェルメールと天才科学者:17世紀オランダの「光と視覚」の革命

フェルメールと天才科学者:17世紀オランダの「光と視覚」の革命

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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