『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品』~17世紀オランダ絵画の時代背景も学べるおすすめ入門書!

光の画家フェルメールと科学革命

『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品』概要と感想~17世紀オランダ絵画の時代背景も学べるおすすめ入門書!

今回ご紹介するのは2007年に東京美術より発行された小林賴子著『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品』です。私が読んだのは2018年改訂版第3刷版です。

私はこれまでひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」でヨーロッパの音楽の歴史をたどってきました。

この伝記シリーズは作曲家の人生だけではなく時代背景まで詳しく見ていける素晴らしい作品です。そしてその中で出会ったのがメンデルスゾーンであり、そこから私はイギリスの大画家ターナーに興味を持つようになりました。

そしてこの『もっと知りたいターナー 生涯と作品』がこれまた面白く、これを読んで今度は絵画を通してヨーロッパの歴史、思想、文化を見ていきたいなと私は思ってしまいました。

正直、本を読んでいくスケジュールがかなり押していて厳しい状況なのですが、東京美術さんの絵画シリーズ「ABC アート・ビギナーズ・コレクション」は内容が濃いながらコンパクトに絵画を学んでいけるので今の私にはぴったりなような気がします。

では、早速この本について見ていきましょう。

作品が語りかけてくる静かな言葉にじっと耳を傾けてみる、本書はそんな鑑賞の仕方を提案する大型画集です。フェルメールの鍛えられた眼を通して表された世界の深淵に誘い込まれるように、作品を味わうことができます。
多数掲載された部分拡大図版によって、見過ごしがちな細部の工夫を発見することができ、また同時代の画家たちの作品と見比べることにより、画家の立ち位置や時代背景について理解が深まります。
作品に寄り添う、近寄ってみる、比較する、これらの鑑賞方法によって、芸術作品の何が時代を超えさせる力を持つのかに迫ります。

Amazon商品紹介ページより

ヨハネス・フェルメールは(1632-1675)は17世紀オランダで活躍した画家です。フェルメールといえば上の絵で有名ですよね。

この本ではそんなフェルメールの生涯と作品たちのわかりやすい解説を聞くことができます。そしてこの本で特にありがたかったのはフェルメールが活躍した17世紀オランダの時代背景も詳しく知ることができる点です。

この時代のオランダ社会は、当時芸術界の中心だったローマとはまったく異なる様相を呈していました。

その社会事情の違いがオランダ絵画に独特な発展をもたらすことになります。その流れがとても面白く、一気にこの本を読み込んでしまいました。

この記事ではそうした歴史の一部を紹介したいと思います。

グローバル時代の幕開け

フェルメールの生きた17世紀は、ヨーロッパ人が船を駆ってアジア・アメリカ・アフリカに進出し、自分たちの産物・文物を異国へもたらし、同時に、異国の産物・文物を自国へ持ち帰った時代であった。ポルトガル、スペインが先鞭をつけ、17世紀になってオランダ、イギリスなどがそれに続いた。

今から思えば、かなり単純な船と不完全な地図に命を託した危険な旅であったが、それをものともせず出かけて行ったのは、地球の形への知的好奇心と、失われた楽園発見の夢と、キリスト教布教の使命感と新たな領土獲得という野望があったからだ。こうした世界拡大の夢は、市民の私的生活を画題とするフェルメール作品にも確実に紛れ込んでいる。(中略)

フェルメールはグローバル時代の夜明けの時代を生きていた。世界に対する知見が地球規模に広がり、変革の波が世界じゅうの岸辺に押し寄せ始めていた。フェルメールはそれが日々の営みにも及んでいることを作品のなかにしっかりと描きとどめたのである。

東京美術、小林賴子『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品 改訂版』PⅧ-Ⅸ

フェルメールが生きた17世紀はグローバル時代の幕開けの時代でした。先程紹介した『天文学者』の絵には地球儀が描かれています。他にもフェルメール作品には中国の壺やペルシャのタペストリー、インドの綿織物など様々な品物が描き込まれています。

そして次の箇所が当時の時代背景を知る上で非常に興味深い解説でした。

美術マーケット

王族や貴族が不在の市民社会にあって、買い手のわからぬ美術史上に向けて制作することを余儀なくされた17世紀オランダ画家たち。しかも、画家の数、彼らの総制作点数は、ともに驚くほどに多く、生き残りの競争は熾烈を極めた。そうした中で画家たちにとって、購買者の関心を惹くテーマ・構図を模索することが最大の関心事の一つとなったであろうことは想像に難くない。手紙をめぐるテーマは、なかでも、高い需要があったようで、フェルメールをはじめとした多くの風俗画家が制作に取り組んだ。もちろん、その背景に、活字をめぐるリテラシーの深化、それを支える教育の充実といった17世紀オランダ社会の成熟度の高さがあったことを忘れてはならないだろう。

東京美術、小林賴子『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品 改訂版』 PⅪ

17世紀オランダの状況

フェルメールの生きた17世紀オランダでは、画家をめぐる状況が他のヨーロッパ諸国と大きく異なっていた。

1588年のこと、スペイン・ハプスブルグ家の支配下にあったネーデルラントの北の地域、すなわち現在のオランダに相当する部分が共和国として実質上の独立を果たした。背景には宗教的な反目があり、新生オランダ共和国は新教(プロテスタント)を奉ずることになった。それは、旧教(カトリック)と異なり、教会内を宗教画で飾ることを厭う宗教だった。また、独立にさいし陣頭指揮を執ったのはオラニエ公だったが、独立後の社会の中枢を担ったのは王侯貴族ではなく、富裕な市民階層であった。17世紀オランダの画家は、つまり、教会と王侯貴族という、当時の二つの大口注文主を期待できないなかで、経済の動向に左右されやすい美術市場に向けて制作し、自ら買い手を開拓しなければならないという状況に置かれていたのである。


東京美術、小林賴子『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品 改訂版』 P4

この2つ目の解説が特に興味深かったです。

オランダはプロテスタント国家として1588年に独立し、カトリック国とは全く異なる国家体制をスタートさせました。そして絵画のパトロンである王侯貴族や教会がいないため、オランダ独自の絵画文化が生まれてきたとされています。

これは宗教を学んできた私としても注目したいポイントでした。

カトリックは直接感情に訴えかける絵画を重んじていたのに対し、プロテスタントは「聖書のみ」を重んじ、教会内の派手な装飾をとりやめるという方向を取りました。

そのためヨーロッパでは主流の宗教画がオランダではほとんど需要がないという状態になってしまいます。

こうした宗教事情、社会事情が絵画の歴史に大きな影響を与えていたというのはとても興味深かったです。

私が大好きな『デルフト眺望』も『牛乳を注ぐ女』もたしかに宗教や神話とはまるで無縁の絵です。

クロード・ロラン『アキスとガラテイアのいる風景』1657年 Wikipediaより

以前当ブログでも紹介した17世紀イタリアで活躍したクロード・ロランも多数の風景画を描いていますが、その風景も題材は宗教や神話にあります。

宗教や神話という枠組みの中でクロードは美しい風景を描きました。

しかし、上に見たようにオランダ画家のフェルメールの絵にはそうした宗教や神話は見当たりません。

これには先ほど述べた宗教的な背景もありますし、伝統的な封建体制から抜け出した新興商人たちがこうした新しい絵を好んだというオランダ独自の理由もあります。

この本ではそんなフェルメールの作品と時代背景のつながりもわかりやすく解説してくれます。

フェルメールの生涯に沿って作品を見ていけるので彼の伝記的な面と作品がすっと入ってきます。

ひとつひとつの作品解説も詳しくなされますので自分の好きな作品をじっくり見ていけるのもありがたいところです。

この本も入門書として非常におすすめです。なかなか知る機会のないオランダの時代背景も学べてとても刺激的な一冊でした。

以上、「『もっと知りたいフェルメール 生涯と作品』概要と感想~17世紀オランダ絵画の時代背景も学べるおすすめ入門書!」でした。

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