アンソニー・ベイリー『フェルメール デルフトの眺望』~時代背景と生涯を詳しく知れるおすすめ伝記!

光の画家フェルメールと科学革命

アンソニー・ベイリー『フェルメール デルフトの眺望』概要と感想~時代背景と生涯を詳しく知れるおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは2002年に白水社より発行されたアンソニー・ベイリー著、木下哲夫訳『フェルメール デルフトの眺望』です。

早速この本について見ていきましょう。

デルフトを舞台に、レンブラントら同時代の画家、大家族の群像を織り上げ、神話に包まれた巨匠に肉薄する。「キャンヴァスに向かう画家を間近に見る思い」と絶賛された評伝の決定版!
【編集者よりひとこと】
フェルメールが生きた17世紀は、日本でいえば江戸時代前期。当時は菱川師宣に代表される、風流な寛文美人図が盛りを迎えていました。感覚的にいえば、そんな昔の人なのか! というところですが、本書では、フェルメールはまるで目の前にいるかのように感じられます。

内容(「BOOK」データベースより)
デルフトの街を舞台に、レンブラントら同時代の多くの画家との関係、妻や義母、子だくさんの一家の生活を再現、巨匠の真の姿と名画の秘密に肉薄する。評伝の決定版。

内容(「MARC」データベースより)
神話に包まれた巨匠フェルメールの実像に、レンブラントら同時代の画家や大家族の群像を織り上げて肉薄する。「キャンヴァスに向かう画家を間近に見る思い」と絶賛された評伝。

Amazon商品紹介ページより

この作品は上の商品紹介にもありますように、フェルメールの生涯を詳しく知るのにとてもおすすめな伝記となっています。

『「キャンヴァスに向かう画家を間近に見る思い」と絶賛された評伝』と絶賛されるように、17世紀オランダの時代背景と共にフェルメール周辺の出来事がかなり詳しく語られていきます。しかもそれが読みやすく面白く書かれていますので、フェルメールをもっと知りたいという方にうってつけの伝記となっています。

今回の記事ではこの本の中でも特に印象に残った箇所を一つだけ紹介します。

他の参考書でも17世紀オランダの黄金時代の終焉をもたらした1672年のフランスの侵略のことが書かれていましたが、なぜオランダが衰退したのかという点で興味深い考察がここで語られます。

しかし一六七〇年代に入ると、果てしなくつづくかと思われた共和国の幸運に終止符が打たれる。仕事から身を退き、投資を頼りに暮らすひとが増えたのも、その一因だった。

一六六二年に撒かれたあるビラは、小さな商店の旦那や酒場のおやじ、靴屋までが上流階級と見紛う贅沢な服装をすると不平を鳴らしている。昔ながらの冴えない黒の衣服は廃れ、ビロードや絹の美装がもて囃された。富裕な中産階級の男たちは髪粉をつけた鬘を被った。フェルコリエの描いた肖像画の中で、アントニー・ファン・レーウェンフックのつけていたのが、それである。

アムステルダム市の孤児院に務める修道女たちでさえ、糊の利いた純白の制帽と厳めしい黒の長衣を捨て、肩もあらわなガウンに巻き毛の姿で肖像画のモデルとなった。

愛国心に富むひとびとは、オランダ人の若者の立ち居ふるまいが女性的になったことに注目し、若者を堕落させ、男色に目覚めさせた咎をフランスの外交官に着せ、非難を浴びせた。

フランスのファッションが侵入しはじめると、それはルイ十四世の愛人マンテノン夫人肝入りの陰謀で、フランス人はオランダ人をまず骨抜きにしたうえで、好きなように料理するつもりだろうという説も流れた。

もっともただ、オランダ経済が発展してひとびとの懐にふんだんに金が流れこみ、多くのひとびとがそれを使ったという見方も成り立つ。きらびやかな飾りのついた鏡、革製の壁掛け、贅沢な銀器、意匠を凝らした家具等が飛ぶように売れた。その中には当然フランスからの輸入品もふくまれていた。
※一部改行しました

白水社、アンソニー・ベイリー、木下哲夫訳『フェルメール デルフトの眺望』P248-249

オランダは17世紀初頭にできた東インド会社の繁栄もあり、圧倒的な経済力を誇っていました。ですが国民はカルヴァン主義的な気風が強く、質素倹約、勤勉な生活を送っていたそうです。

商売人が多かったオランダならではのそうした風土が経済発展を促し、オランダの黄金時代を作っていったという側面があります。

そしてそんな黄金時代の終焉をもたらしたのがフランスの侵略で、この戦争の影響でオランダ経済は力を失い、国力が衰えていったというのがよく語られる歴史なのですが、著者はそこから一歩踏み込んだ考察を加えます。それが上の引用でした。

たしかに直接の引き金はフランスの侵略でしたが、その前にすでにオランダの地盤は崩れかかっていたのです。

豊かになるにつれてかつての美徳が失われ、贅沢で安楽な暮らしになれていった。

そして特に気になったのは最初の「仕事から身を退き、投資を頼りに暮らすひとが増えたのも、その一因だった。」という箇所です。

これを読んで私は、「あれ?これって今の日本の流れじゃ・・・」と思ってしまいました。

投資が悪いとは言いませんが、かつての質素倹約、勤勉、進取の理念が失われて贅沢な暮らしにばかり目が行くようになると、国の経済基盤がいつの間にか弱体化していく。そして何かひとつでも大きな災厄があればそれがとどめとなり、国家として衰退が決定的になる・・・

これは17世紀オランダの出来事ですが、現代日本もまったく他人事ではありません。

オランダの黄金期は17世紀です。先程も申しましたように、オランダは東インド会社を筆頭に海外貿易で圧倒的な財を築きました。そしてその豊富な資金力によってオランダ国民は繁栄を謳歌しました。

いかがでしょうか。これは戦後日本と似てはいないでしょうか。

戦後日本も貿易で圧倒的な財を築き、繁栄を謳歌しました。

ですが、オランダは1世紀ももたずに衰退していました。今の日本もバブルが崩壊してから衰退していく一方です。

私はこの箇所を読んでいて背筋が寒くなるようなものを感じました。

フェルメールもこうした繁栄と衰退の両方を生き、その中で作品を描いていました。

画家も時代背景を離れて生きることはできない。そのことをこの本で改めて感じることになりました。

フェルメールの生きた時代をかなり詳しく知れる作品です。ぜひぜひおすすめしたい伝記となっています。

以上、「アンソニー・ベイリー『フェルメール デルフトの眺望』時代背景と生涯を詳しく知れるおすすめ伝記!」でした。

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