(44)ガヴローシュはテナルディエの子!?パリの浮浪児について熱く語るユゴー

「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(44)ガヴローシュはテナルディエの子!?パリの浮浪児について熱く語るユゴー
第三部 マリユス 第一章 パリの微粒子的研究
さあ、いよいよ第三部へとやって来ました。
第三部のタイトルにもありますように、ここからは物語のキーパーソンの一人、マリユスについて語られていきます。
・・・が、例の如くユゴーはすんなりと彼について語ろうとしません。彼が最初に語り始めたのはパリの浮浪児についてだったのでありました。
ここまで読み進めてきた皆さんであればユゴーの脱線にはもう慣れてきたと思います。そしてこの脱線にも実は意味があるというのもピンと来ることでしょう。
そうです。ここでパリの浮浪児について語られたのはあのガヴローシュを描くための伏線であったのです。
ユゴーは主要人物の背景を掘り下げなければ気が済まないタイプの作家です。ここでもガヴローシュを登場させる前に、パリの浮浪児の実態や歴史について詳しく記していったのでありました。
この連載ではその詳細については触れませんが、ひとつだけぜひ紹介したい箇所があります。それがこちらです。
完全な浮浪児は、パリの巡査を一人残らず知っていて、巡査に会えば必ず名前と顔を一致させることができた。その特徴をこと細かに数えあげる。その習慣を研究して、一人一人一人について特別なメモをとっている。警官の心を自由に読みとる。「あいつは裏切者だよ」「あいつはとても意地悪だ」「あいつはえらいんだ」「あいつは滑稽だ」と、すらすら、よどみなく言う
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P24
ミュージカルを見た方はこれを見て「おっ!」と思うのではないでしょうか。これぞまさにバリケードでジャヴェールを見破ったガヴローシュの働きそのものであります。ユゴーはガヴローシュの登場前にすでに伏線を張っていたのです。
パリの浮浪児がこれほどの特殊能力を持っているならばジャヴェールが見破られたのも納得です。ジャヴェールのへまにも弁解の余地があったと言えるでしょう。(ただ、パリにいて長いなら浮浪児のこの能力についても知っていたはずですので、やはりジャヴェール、詰めが甘かったかと言えるかもしれません)
そして37ページまで長々とパリの浮浪児一般について語られていくのですが、ここでようやくガヴローシュが登場します。
この子は大人のズボンを変な具合にはいていたが、それは父親譲りのものではなかったし、女ものの上着を着ていたが、それも母親譲りではなかった。誰かが、恵んでぼろを着せてやったのだ。それでも、父も母もあった。しかし、父は彼のことを考えてくれず、母は少しも愛してくれなかった。父母がありながら、孤児だという、とりわけ可哀そうな子の一人である。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P37
天涯孤独の孤児というのも当然可哀そうな存在でありますが、親がいながら孤児となってしまったのがこのガヴローシュだったのでありました。
ただ、ガヴローシュ自身はあまりそのことを気にしていないようであっけらかんとしています。パリの浮浪児らしい実にたくましいメンタルの持ち主と言えましょう。
そしてガヴローシュを放ったらかしにした両親はどこにいるかと言いますと、なんと同じパリにいるというのです。
しかし、その子がどんなに放ったらかされていても、二、三カ月に一度は、「さあ、おふくろに会ってこよう」と言うことがあった。そんなとき、彼はブールヴァール通り、シルク通り、サン・マルタン城門を去って、河岸に出て、橋を渡り、場末に来て、サルぺトリエールまで行く、それからの行く先はどこだろう?ほかならぬご存じの五〇・五二番地、ゴルボー屋敷である。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P38
ゴルボー屋敷!
あのゴルボー屋敷です!ジャン・ヴァルジャンとコゼットがパリで最初に住んだあの家にガヴローシュの親が住んでいるというのです!何たる偶然!これは間違いなくこの後何かが起こることでしょう。(ゴルボー屋敷については「(30)救われたのはジャン・ヴァルジャンの方だった?コゼットの存在が彼に与えた大きな影響とは」の記事参照)
そしてその両親は2人の娘がいて、今は4人で住んでいるとのこと。この2人の娘はガヴローシュの姉に当たります。
また、母親はガヴローシュには無関心ですが娘2人はずいぶんと可愛がっているようです。
姉妹2人だけを可愛がる母親に、弟には全く無関心・・・。
何か聞き覚えのある家族構成でありますが、そのまさかです。この両親はジョンドレッドと名乗っていますが、実はテナルディエ夫妻に他なりません。
この時点ではユゴーも伏せていますが、あのテナルディエ一家があろうことかこのゴルボー屋敷に住みついていたのです。そしてそこから飛び出して浮浪児になったのがガヴローシュだったのでした。ミュージカルではガヴローシュの出自は語られませんが、実は原作ではこのような関係だったのです。
そしてこの後もガヴローシュを巡る人間関係で様々な出来事が起きるのですが、それはもう少し後のお話になります。これもミュージカルでは割愛されていますので、原作ならではの味わいになります。
ミュージカルでも屈指の人気キャラであるガヴローシュですが、原作ではテナルディエの息子だというのですから驚きです。
そして彼らの登場後、いよいよマリユスの話が始まっていくのですが、これもまたユゴーらしい一癖ある始まり方となっています。引き続き読んでいくことにしましょう。
続く
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