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鹿島茂『渋沢栄一』あらすじと感想~サンシモン主義と強いつながり!大河『青天を衝け』でもお馴染み!日本経済を支えた偉人のおすすめ伝記!

目次

鹿島茂『渋沢栄一』概要と感想~サンシモン主義と強いつながり!大河『青天を衝け』でもお馴染み!日本経済の父と呼ばれた偉人のおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは2013年に文藝春秋より発行された鹿島茂著『渋沢栄一』です。

早速この本について見ていきましょう。

近代日本の「資本主義」をつくりだした渋沢栄一。彼がその経済思想を学んだのは、ナポレオン3世の統べるフランスからだった。豪農の家に生まれ、尊王攘夷に燃えた彼は、一転、武士として徳川慶喜に仕えることになり、パリ万博へと派遣される。帰国後、維新政府に迎えられるが。波乱万丈の人生を描く、鹿島茂渾身の評伝。(上巻)

「どうしたら、永く儲けられるのか?」欲望を肯定しつつ、一定の歯止めをかける。―出した答えは、「論語と算盤」だった。大蔵省を退官し、五百を数える事業に関わり、近代日本経済の礎をつくった渋沢。事業から引退した後半生では、格差社会、福祉問題、諸外国との軋轢など、現代にも通じる社会問題に真っ向から立ち向かう。(下巻)

Amazon商品紹介ページより
渋沢栄一(1840-1931)Wikipediaより

渋沢栄一は幕末から明治、大正、昭和を駆け抜けた偉人です。

2021年には大河ドラマ『青天を衝け』の主人公として描かれることになりました。

この伝記の著者はフランス文学者鹿島茂先生。私は鹿島先生の大ファンです。

これまで当ブログでも鹿島先生の様々な著作を紹介させて頂きました。

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他にもたくさん当ブログでも紹介させて頂いているのですが全て上げると大変なことになってしまうのでここまでにさせて頂きますが、本作『渋沢栄一』と深いつながりがある作品が以下の『絶景、パリ万国博覧会 サン=シモンの鉄の夢』になります。

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この記事のタイトルにもありますように今作の主人公渋沢栄一もこの1867年パリ万博を訪れています。

渋沢はこのパリ滞在でナポレオン三世によるフランス第二帝政の経済理念、サンシモン主義の姿を見ることになります。そしてこの時の滞在は渋沢の経済理念に大きな影響を与えることになりました。

ナポレオン三世のフランス第二帝政とサンシモン主義については上の『絶景、パリ万国博覧会 サン=シモンの鉄の夢』や同じく鹿島茂著『怪帝ナポレオンⅢ世 第二帝政全史』に詳しく書かれていますのでぜひこれらの本もご参照ください。ものすごく面白い本です。

さて、今作『渋沢栄一』に話は戻りますが、この本もとにかく面白い!この本は経済不況に苦しむ今の日本にまさに必要な一冊だと私は思います。

この本はどんな本なのか、なぜこの本が書かれたのかということについて「まえがき」では次のように説かれています。これがまた鹿島節全開で素晴らしい文章です。少し長くなりますが重要な言葉がどんどん出てきますのでじっくり読んでいきます。

まえがき―渋沢栄一とドラッカーとサン=シモン主義と

もう五、六年前のことになるだろうか、六本木ヒルズに住む若きリッチマン、リッチウーマンを集めて座談会をやるから司会をやってくれないかという変な依頼が舞い込んできた(『オール讀物』二〇〇六年二月号)。日本中が、ミニ・バブルに沸いていた頃のことである。私は原則的に座談会や対談はどんな相手でも引き受けるので、座談会の場所に指定された六本木ヒルズ最上階のレストランに出掛けていき、若きリッチマンやリッチウーマンが自慢げに語る荒稼ぎや派手な金の使いっぷりの話に耳を傾けた。そして、座談会の後に、渋沢栄一の伝記を書き、資本主義の本質とはなにかを考えた人間の発言として聞いてほしいと前置きして、次のような内容のことを口走った。

「おおいに稼ぎ、おおいに使うのはまことに結構。ぼくはそうしたことは否定しない。ただ、君たちがこれからもっと稼いで、もっと使いたいと願うなら、どこかでモラルを尊重しなければならなくなる。モラルというものをあまりに馬鹿にしすぎると、モラルが機嫌を損ねて、思わぬ逆襲をしてくることがある。どこまでも自己利益の最大化で行こうとするとかならず破綻する。それが資本主義の与えた最大の教訓だからね」

私がこの言葉を発したとたん、それまで和気あいあいと語りあっていたリッチマン、リッチウーマンの顔色が変わり、激しい反発の言葉を浴びせられた。それは、ホリエモンや村上某が発したとされる「金儲けは悪いことなんですか?」の類いの言葉だった。もちろん、彼らは私が言おうとしていた言葉の真意がわかっていなかったのである。

私が言おうとしたのは至って単純なことだ。

資本主義というのは、自己利益の最大化を狙う人間(ケインズのいうエコノミックマン)たちが参加するバトル・ロワイヤルのようなものだが、最終的勝利者になるのは、どういうわけか、強欲一辺倒の参加者ではなく、モラルを自分の商売の本質と見なす渋沢栄一のような参加者と決まっている。理由は簡単で、その方が永続的に儲かるから。金儲けは決して悪いことではないが、自己利益の最大化だけを狙っていくと、どこかで歯車が逆回転し始め、最後は破産で終わる。世間や社会が許さないということではなく、資本主義の構造がそのようになっているから。「損して得取れ」とはよく言ったものだ、云々。

その後すぐに、ホリエモンの逮捕があり、それからさらに数年後、リーマン・ショックに端を発した世界恐慌があり、私の与えた教訓の正しさが見事に証明されるかたちになってしまった。

しかし、当然ながら、座談会に加わったリッチマンやリッチウーマンが、あのとき、私の与えた教訓を噛み締め、その後の金儲けに役立てたということはなかっただろう。なぜなら、「損して得取れ」は、バトル・ロワイヤル的戦いに最終的に勝ち抜いた者でなければロにできない金言であるという矛盾、つまり「事後性」を含んでいるからである。

そう、アメリカウォール街の住人も日本のヒルズ族も「あとになってから」ようやくこの金言に思い至ったにちがいない。バトル・ロワイヤルの最中には決してそういうことは思いつかないのである。

この意味で、近代日本は、世界に類を見ないほどの幸運に恵まれていたといえる。

なんのことかというと、日本の資本主義は、この「損して得取れ」という思想をバトル・ロワイヤルが行われる以前にすでに体得し、血肉化していた渋沢栄一という例外的な人物によって領導され、実に効率よく高度資本主義の段階に入ることができたからである。

言い換えると、渋沢栄一と言う奇跡的な人物が現れて、弱肉強食原理による「万人の万人に対する」闘いを近代日本に回避させることができたがため、日本資本主義は一気に離陸(テイク・オフ)したのである。

このことは、近年、ふたたび注目されるようになったピーター・ドラッカーがつとに指摘していることである。

「明治という時代の特質は、古い日本が持っていた潜在的な能力をうまく引き出したことですが、それは、渋沢栄一という人物の生き方に象徴的に表されています。渋沢は、フランス語を学び、ヨーロッパに滞在し、フランスやドイツのシステムを研究しました。そうしたヨーロッパのシステムを、すでに存在していた日本のシステムに、うまく適合させたのです。

実にユニークなことだし、そのようなことを成し遂げた国や人びとはほかには存在しません」

「渋沢のもうひとつの大きな功績は、一身にして立案者と実行者を兼ねて、事業を推進したということです。

彼には思想家である側面と行動家としての側面を結合するユニークな才能がありました。ふつう、思想家というものは行動することが苦手で、行動家は思想家から考えを借りるものです。渋沢は思想家としても行動家としても一流でした。(中略)

渋沢は希有の存在であり、たいへんユニークな人物です」(ともに、『NHKスペシャル 明治 一 変革を導いた人間カ・NHK出版)

では、ここでひとつ問うてみることにしよう。

ドラッカーのいうような奇跡を日本の資本主義にもたらした渋沢栄一とはどのような人物であり、また彼はいかにして「損して得取れ」という偉大なる「思想」を「事前的」に体得することができたのかと?

私がこれから示そうとする渋沢伝は、渋沢にのみ可能となったこの「事前性」の由来を、幕臣だった渋沢がパリで出会ったサン=シモン主義という新しい光源の助けを借りて解明しようという試みである。

文藝春秋、鹿島茂『渋沢栄一』P8-11

「言い換えると、渋沢栄一と言う奇跡的な人物が現れて、弱肉強食原理による「万人の万人に対する」闘いを近代日本に回避させることができたがため、日本資本主義は一気に離陸(テイク・オフ)したのである。」

もし日本に渋沢栄一がいなかったらどんなことになっていたのか。この伝記を読めばぞっとするような事実を知ることになります。それほど渋沢栄一という存在は巨大だったのです。私もこの伝記を読んで心の底から衝撃を受けました。

なぜ日本は欧米列強の植民地にならずに済んだのか。なぜ日本だけ近代化に成功することができたのか。

そうしたこともこの本では学ぶことができます。

「私がこれから示そうとする渋沢伝は、渋沢にのみ可能となったこの「事前性」の由来を、幕臣だった渋沢がパリで出会ったサン=シモン主義という新しい光源の助けを借りて解明しようという試みである。」

また、この伝記では渋沢栄一がいかにして渋沢栄一たり得たのかということも丁寧に追っていきます。特に幼い頃から彼はどんな勉強法で学んでいたのかという箇所は非常に興味深かったです。これは現代にも通ずる問題です。どんな教育を子供たちにしていけばいいのかというのは永遠のテーマです。そのことに対する重大な示唆を与えてくれるのも本書の素晴らしい点だと思います。

そしてフランス文学者鹿島先生の専門分野であるフランス文化と渋沢栄一のつながりの箇所はもう絶品です。上にもありますように、渋沢栄一はサン=シモン主義と出会ったことでさらなる進化を遂げることになります。この辺りの流れは最高に刺激的ですのでぜひ皆さんも体感して頂きたいなと思います。

幕末から明治、大正、昭和の危機の時代の中で渋沢栄一は国を憂い、民の生活を向上せんがために必死に学び、行動しました。

私利私欲の強欲な競争ではなく、全体が潤うためのシステムの構築に尽力したのが渋沢栄一です。

現代日本はまさに危機の時代だと私は思います。こんな時代だからこそ、渋沢栄一という人物の成した軌跡を辿るのは非常に大切なことなのではないでしょうか。

今世の中にはそれこそ膨大なビジネス書や啓発書で溢れかえっています。それが一概に悪いとは決して申しません。ですが、それらを読む前にぜひこの『渋沢栄一』を手に取って頂けたらなと思います。ビジネスの手法や世渡りのテクニックも大切ですが、それ以前に人間として、ビジネスに関わる人間として大切なものがあるのではないかと私は思います。それあってこその経済であり、社会なのではないでしょうか。

この伝記はぜひぜひおすすめしたい名著です。学校の教科書になってほしいとすら思える作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「鹿島茂『渋沢栄一』~サンシモン主義と強いつながり!大河『青天を衝け』でもお馴染み!日本経済を支えた偉人のおすすめ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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