宮下規久朗『カラヴァッジョ巡礼』~イタリア現地観光に便利なおすすめガイドブック!

ローマ帝国の興亡とバチカン、ローマカトリック

宮下規久朗『カラヴァッジョ巡礼』概要と感想~イタリア現地観光に便利なおすすめガイドブック!

今回ご紹介するのは新潮社より2010年に発行された宮下規久朗著『カラヴァッジョ巡礼』です。

早速この本について見ていきましょう。

17世紀初頭のローマで、一世を風靡したバロック絵画の巨匠カラヴァッジョ。斬新な明暗法を駆使した写実的かつ幻視的な作品は常に賛否両論を巻き起こし、さらには生来の激しい気性から殺人を犯し、逃亡生活を余儀なくされる。聖なる画家にして非道な犯罪者。その光と闇に包まれた生涯を辿りつつ、現地に遺された作品を追って旅する。

Amazon商品紹介ページより

この本はこれまでも当ブログで紹介してきました宮下規久朗さんによるカラヴァッジョ巡礼のガイドブックになります。

この本はイタリア各地にあるカラヴァッジョの作品をその地域ごとにまとめて紹介してくれる作品です。

地図でそれぞれの所蔵教会や美術館の位置もわかりやすく示してくれているので現地で巡礼をする際に役立つこと間違いなしです。

著者はこの本について「はじめに」で次のように述べています。この本の雰囲気を感じることができる素晴らしい文章ですので少し長くなりますがじっくり読んでいきます。

カラヴァッジョは、400年前に死んだイタリアの画家である。その足跡は、イタリアを北から南に縦走している。彼は、イタリアの北のはずれ、ロンバルディアの重くたちこめた雪の下に生まれて画家となり、永遠の都口ーマによって名声を得、殺人者となってローマを逃れ、陽光の降り注ぐ南の大都市ナポリに姿を現し、地中海の孤島マルタに渡り、シチリア島の主要都市を駆け抜け、再びナポリに帰り、ローマを目指して北上する途上、小さな港で野垂れ死んだ。

罪を重ね、奈落に転がり落ちるようにその境遇が暗く厳しいものになるにつれ、その居場所は光と海に包まれて明るくなっていった。そして彼の絵は、まばゆい南国の光を貪欲に吸いこんでは、ますます漆黒の闇を強めていったのである。

彼は、ローマはもとより、あわただしい逃避行の途上であちこちに、まるで生きる証のように大小の絵を遺していった。幸いにして今もその多くを現地で見ることができる。この画家の暗い意識の坑道に下り、彼を突き動かした凶暴な衝動や情熱のありかを探ることは容易ではないが、光と闇のせめぎ合う作品群は今なお私たちに多くを語りかけてやまず、神を忘れた現代人に、生と死、救済と断罪、希望と絶望との相克と止揚のありさまを示してくれる。

少年時代にこの画家の魅力にとりつかれた私は、20歳を越えた頃から幾度となくイタリアを訪れ、カラヴァッジョの絵を求めてさまよい歩き、ときには一日中呆然と絵の前でしゃがみこんでいた。彼の絵は今や私の人生の一部となっており、そのことは、これまで何度も拙い筆で記述してきた。

本書は、イタリア各地のカラヴァッジョ作品をたどり、その絵の語る声を聞いてまわる巡礼の旅である。執筆にあたり、いくつかのことを心がけた。まず、絵の置かれた環境や雰囲気を重視することである。カラヴァッジョに限らず、美術の真の体験は、印刷物や映像を通じてではなく、現地で作品の前に立つことによって初めて得られるものであり、絵そのものだけでなく、周囲の壁面や床、光の具合、ひんやりと乾いた空気、微臭さや雑憧とともに体感するものだからである。

こうした環境とも関係するが、カラヴァッジョとゆかりのある他の画家の絵も多く採り上げた。カラヴァッジョの画面だけを注視するのではなく、カラヴァッジョが実際に見たであろう、またカラヴァッジョの影響のもとに生まれたであろう作品は、この画家の力強さを相対化し、その内実をあきらかにしてくれるはずだ。それらの多くは無名の画家の手によるものであっても、カラヴァッジョの足跡の近くに独自の光を放って潜んでいる、カラヴァッジョを巡る旅に欠かせない脇役といってもよい。

また、実際に見て歩くことを考え、各作品は年代順ではなく、場所別に登場する。

本書が、読者がカラヴァッジョ巡礼におもむくときのささやかな杖となり、枕となれば、これに優る喜びはない。
※一部改行しました

新潮社、宮下規久朗『カラヴァッジョ巡礼』P4

「カラヴァッジョに限らず、美術の真の体験は、印刷物や映像を通じてではなく、現地で作品の前に立つことによって初めて得られるものであり、絵そのものだけでなく、周囲の壁面や床、光の具合、ひんやりと乾いた空気、微臭さや雑憧とともに体感するものだからである。」

これはまさに巡礼の醍醐味ですよね。

この本を読んでいるとそうした巡礼の厳かな雰囲気も伝わって来るようです。私もカラヴァッジョ巡礼をしたくてうずうずしてきました。きっと本で見るより何倍何十倍も凄まじいインパクトを受けるのではないのでしょうか。

実は私も2019年にローマを訪れたのですがその時は全日程をバチカンに費やしたのでローマ市内の散策はほとんどできませんでした。

時間的に余裕がなかったのはたしかにそうだったのですが、もしあの時にカラヴァッジョのことをもっと知っていたならば無理してでも巡礼に出ていたでしょう。今となっては悔やまれます。

幸い、近々ローマを再訪する予定ではいるのでその時は気合を入れて巡礼に臨もうと思います。

さて、これまで当ブログでも『フェルメール巡礼』『ゲーテ街道を行く』と新潮社さんの「とんぼの本」シリーズにはお世話になってきましたが今回も間違いない作品です。

ぜひぜひおすすめしたい作品となっています。皆さんも手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「宮下規久朗『カラヴァッジョ巡礼』イタリア現地観光に便利なおすすめガイドブック!」でした。

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