『もっと知りたいカラヴァッジョ 生涯と作品』~《聖マタイの召命》で有名なローマバロック芸術の大家のおすすめ入門書!

ローマ帝国の興亡とバチカン、ローマカトリック

『もっと知りたいカラヴァッジョ 生涯と作品』概要と感想~《聖マタイの召命》で有名なローマバロック芸術の大家のおすすめ入門書!

今回ご紹介するのは2009年に東京美術より発行された『カラヴァッジョ 生涯と作品』です。

私はこれまでひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」でヨーロッパの音楽の歴史をたどってきました。

この伝記シリーズは作曲家の人生だけではなく時代背景まで詳しく見ていける素晴らしい作品です。そしてその中で出会ったのがメンデルスゾーンであり、そこから私はイギリスの大画家ターナーに興味を持つようになりました。

そしてこの『もっと知りたいターナー 生涯と作品』がこれまた面白く、これを読んで今度は絵画を通してヨーロッパの歴史、思想、文化を見ていきたいなと私は思ってしまいました。

正直、本を読んでいくスケジュールがかなり押していて厳しい状況なのですが、東京美術さんの絵画シリーズ「ABC アート・ビギナーズ・コレクション」は内容が濃いながらコンパクトに絵画を学んでいけるので今の私にはぴったりなような気がします。

では、早速この本について見ていきましょう。

フェルメールもレンブラントも、彼がいなければ存在しなかった?
劇的な明暗表現と革新的リアリズムによってバロック絵画の扉を開き、その後の巨匠たちに大きな影響を与えた革命児、カラヴァッジョ(1571-1610)の鮮烈な魅力を、血と犯罪に彩られた破滅的生涯とともにたどります。

◆「カラヴァッジョ・パラドックス」の魅力
傷害や乱闘に明け暮れついには殺人者となり、逃亡の途上で野垂れ死ぬという、美術史上最も俗悪と思われる「呪われた画家」でありながら、その手から生み出された宗教画は、どんな画家の作品にもまして深い聖性を宿し、奇蹟が眼前で起きているかのような感動を呼び起こしてくれます。
◆一度見たら忘れられない絵ばかり!
その徹底した写実主義は、時に生々しすぎる死や殺害の残虐な光景を描き出し、当時から物議を醸しました。宗教画以外にも、美少年をモデルにした群像や聖人像など、一度見たら忘れられない強烈なインパクトのある絵を多数掲載しています。
◆人間関係や社会状況がわかる多彩なコラム
カラヴァッジョが引き起こした事件をまとめた「トラブル録」や、彼を支えたパトロン、友人たちのエピソードなど、豊富なコラムでこの特異な画家の人間性と、当時のイタリア美術界の状況等をかいまみることができます。

Amazon商品紹介ページより

Amazonの商品ページがものすごく丁寧に解説してくれていますが、この本を読んでやはり驚いたのはカラヴァッジョの破天荒さと彼が殺人まで犯していたという事実でした。

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)Wikipediaより

カラヴァッジョと言えばバロック美術を代表する以下の作品が非常に有名です。

『聖マタイの召命』1600年 Wikipediaより

世界で最も有名なキリスト教絵画のひとつである『聖マタイの召命』を描いたその人物が、殺人まで犯し逃亡していたというのはかなりの衝撃でした。

著者はカラヴァッジョとこの本について次のように述べています。

カラヴァッジョという画家はまだ日本ではそれほど知られていない。しかし、一度でもその絵を目にすれば、好き嫌いは分かれるかもしれないが、ぐいと引き込む力を持っている画家である。実際の作品を見る機会は、残念ながら日本ではほとんどないが、その複製図版は簡単に見ることができる。(中略)

2001年に初めて日本でカラヴァッジョの展覧会が開かれたが、これは予想に反して非常な人気を博し、日本での知名度は一気に上昇した。その後、私はそれまで行ってきた研究をまとめて、カラヴァッジョについていくつかの本を書くことができた。こうした本の評判などから、日本でも意外にカラヴァッジョの絵を愛好している人が多いのに気づいた。このたび、この「もっと知りたい」のシリーズにカラヴァッジョが入るにいたったのも、かつての状態を思い出すと隔世の感がある。印象派やフランスの美術に偏向していた日本人の美術嗜好もようやく成熟してきたということにほかならないが、カラヴァッジョの絵には、日本人をもとらえて離さない強烈な魅力があり、どんな人をも感動させうるということであろう。

本書は、初めてカラヴァッジョの世界にふれる人のための入門書である。それと同時に、すでにカラヴァッジョの絵を実際に見てきた人や、カラヴァッジョについてある程度の知識のある人にとっても、見ごたえと読みごたえのある本にした。画家の生涯をたどりながらほとんどの作品と周辺の情報を紹介し、その魅力をあますところなく伝えようとしている。より詳しい情報については、別の拙著を参照していただければ幸いである。

本書を手にしてカラヴァッジョについて興味を持った方は、ぜひ実際にイタリアなどにカラヴァッジョ作品を見に行ってほしい。美術館にあるカラヴァッジョは、周囲の絵とはまったく異なった雰囲気を発しているし、カラヴァッジョ作品が置かれた教会では、今まさに奇蹟が目の前で起きているような感を受けることができるだろう。そのときこそ、時空を超えた芸術の力を体感できると同時に、神の存在さえ感じることができるかもしれない。意外なことに、美術史上最も現実的で俗っぽいと思われるカラヴァッジョの作品は、どんな宗教画にもまして神聖さを感じさせてくれる。それこそが、カラヴァッジョ芸術の神髄であるといってよい。優れた芸術はすべからく宗教と等しいものなのだ。


東京美術、宮下規久朗『もっと知りたいカラヴァッジョ 生涯と作品』P2-3

ここで著者が語るように、この本は入門書でありながらかなり読み応えのある解説がずらりと並んでいます。しかもカラヴァッジョの生涯の流れに沿って作品の解説がなされていくので時系列的にも非常にわかりやすいです。

紹介したい箇所が山ほどあるのですが、この本の中で最も印象に残った箇所をここで紹介したいと思います。

奇跡の近代的解釈

サン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂の作品で脚光を浴びたカラヴァッジョは、すぐにサンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂チェラージ礼拝堂の作品の注文を受ける。この礼拝堂の装飾は、アンニーバレ・カラッチが手がけて中断したものであった。カラヴァッジョはカラッチによる正面の祭壇画《聖母被昇天》(29頁)に影響され、人物の比重の大きい構図を生み出した。ローマの二大守護聖人の殉教と回心を扱った《聖ぺテロの磔刑》(38頁)と《聖パウロの回心》である。後者は最初に描いたヴァージョンがなぜか設置されず、描き直され、「キリスト教美術史上、最も革新的」といわれる第二作が設置されている。

パリサイ人としてキリスト教徒迫害の急先鋒だったサウロ(パウロ)は、ダマスカスに向かう途中、突然神の声を聞いて地に倒れる。

ミケランジェロやタッデオ・ズッカリの作品では、天から神が姿を見せ、人々が驚き慌てる情景となっている。カラヴァッジョも、第一作ではそのような図像に従っている。しかし第二作では、神の姿も人々の動揺もなく、目を閉じ、両手を広げて地に倒れるパウロがいるだけであり、馬も馬丁もそれに気づいていない。すべてはパウロの脳内で起こっているのだ。奇蹟というものが個人的な体験にすぎないという近代的解釈が初めて提示されたといえよう。


東京美術、宮下規久朗『もっと知りたいカラヴァッジョ 生涯と作品』 P36-37

上の絵が描かれたのは1600年から1601年にかけてです。

この絵によってキリスト教絵画において初めて近代的解釈が提示されたというのは非常に大きな意味があると思います。

従来の絵は以下の絵のように、パウロの回心を表す絵には光と神も共に描かれるのが通常でした。

タッデオ・ズッカリ作『聖パウロの回心』1560年 本書より

ですが先に紹介したカラヴァッジョの作品にはそのような光や神の描写もありません。上の解説を読んだ上でこれらの絵を見比べてみるとその違いやそこに込められた意味にはただただ驚くしかありません。

この絵画が描かれた1600年の段階でこうしたキリスト教の近代的解釈が公然と世に出てきたことの意味は計り知れないものがあると思われます。その後のヨーロッパ世界に与えた影響を考えるにもこの絵は非常に興味深いものがありました。

カラヴァッジョの生涯や作品の特徴を学ぶ入門書としてこの本は非常におすすめです。当時の時代背景まで学べるこの本は私にとっても非常にありがたいものがありました。

以上、「『もっと知りたいカラヴァッジョ 生涯と作品』概要と感想~《聖マタイの召命》で有名なバロック芸術の大家のおすすめ入門書!」でした。

次の記事はこちら

前の記事はこちら

関連記事

HOME