シェイクスピア『夏の夜の夢』あらすじと感想~恋人たちと妖精のドタバタ喜劇!メンデルスゾーンの序曲でも有名なおすすめ作品
シェイクスピア『夏の夜の夢』あらすじと感想~恋人たちと妖精が繰り広げるドタバタ喜劇!メンデルスゾーンの序曲、結婚行進曲でも有名なおすすめ作品
『夏の夜の夢』は1600年にシェイクスピアによって書かれた作品です。
私が読んだのは新潮社の福田恆存訳の『夏の夜の夢』です。
早速あらすじを見ていきましょう。
妖精の王とその后の喧嘩に巻き込まれ、さらに茶目な小妖精パックが惚れ草を誤用したために、思いがけない食い違いの生じた恋人たち。妖精と人間が展開する詩情豊かな幻想喜劇『夏の夜の夢』
Amazon商品紹介ページより
この作品は若い男女4人の恋の四角関係と、それをさらにかき回す妖精たちが織り成すドダバタ喜劇になります。
タイトル通り、この物語ではまさに夢を見ているかのような不思議な展開が繰り広げられます。
主要な登場人物たる若い4人組、ライサンダー、デメトリアス、ハーミア、ヘレナは恋の四角関係から森へと逃げ込みます。
ライサンダーとハーミアは恋の仲。
しかしデメトリアスはハーミアにぞっこん。そしてヘレナはそのデメトリアスにぞっこんという関係性です。
これだけならよくある恋愛劇なのですが、そこに妖精パックがとんでもないことをしでかします。
彼は妖精の王からデメトリアスに惚れ薬を塗って彼とヘレナが恋仲になるように命令を受けていました。しかしあろうことかパックは間違ってライサンダーに惚れ薬を塗ってしまいます。そしてその惚れ薬によってライサンダーはヘレナにぞっこんになってしまいます。
さあこうなってくるとこの4人の恋の関係はとんでもないことになってきます。
この物語はこうしたこんがらがった恋模様をユーモアたっぷりのドタバタ劇で演じられます。
どこか不思議で幻想的な空気が漂うこの作品ですが訳者の福田恆存は次のように述べています。
この作品の劇的構成は実に巧みである。(中略)それぞれ異なった肌あいの劇形式と異なった世界の登場人物をもちながら、いささかの隙もなく緊密に組合わされ、一枚の美しいタペストリーを織りなしている。しかも、そこには才気ばしった作意が微塵も感ぜられない。すべてが自然に流露しており、継ぎ目が透けて見えたり、隙間風が吹いたりしていない。妖精の振りまく「野の露」が、あたかも潤滑油のような働きをしていて、三つの異質の世界が見事に溶けあっている。しかもシェイクスピア作品中、この『夏の夜の夢』は、「夏至の夜」のように最も短いが、読後の印象は「夢」のように豊穣である。(中略)
『夏の夜の夢』は上演しておそらく失敗の少ない作品であろう。森の中をさまよう恋人達、間狂言の職人達、それだけでも結構楽しめる。
新潮社、福田恆存訳『夏の夜の夢』2016年第70刷版 P139-141
『読後の印象は「夢」のように豊穣である』
さすが福田恆存先生。格好良すぎます。
ですが、実際この作品はそんな満足感を味わえる作品です。『リア王』や『マクベス』などのように重厚なストーリー展開を追っていくというよりは、気軽に笑って楽しめる作品となっています。
私がこの作品で特に印象に残っている箇所が2つあります。
パワーワード「あたしはあなたのスパニエル」~シェイクスピアの恋の機微
そのひとつが、デメトリアスに片想いしているヘレナのセリフです。
これがなかなかパンチが効いていて面白いんです。
デメトリアス さあ、帰ってくれ、もうついて来ないでくれ。
ヘレナ あなたがあたしを引きよせるのよ、あなたの心臓は鋼のように残酷な磁石なのだもの。でも、あたしはただの鉄ではない、当然だわ、このあたしの心臓は鋼のように変らない忠実な愛情なのですもの……ええ、待っていてあげる、あなたのその引力が消えてなくなるまで、そうすれば、あたしの力も抜けおちて、あなたを慕う気持もなくなるでしょう。
デメトリアス 僕が君の気をひいたと?何かうまいことでも言ったと言うのか?それどころか、はっきり言っているじゃないか、愛してもいないし、愛することも出来ないと?
ヘレナ そう、だから、いっそう好きになるの。デメトリアス、あたしはあなたのスパ二エル犬、ぶたれればぶたれるほど、尾をふってまつわりつくの。ええ、あなたのスパニエルにしていただくわ。蹴ってちょうだい、ぶってちょうだい、知らん顔をしようと忘れてしまおうと構わない。ただ、許していただきたいの、なんの値うちもない女だけれど、せめておそばにだけは居させて。あなたのお心のうちに、それより小さな場所を求めることが出来るかしら?―あたしには、それだけで、もう十分立派な地位だけれど―飼犬なみに扱ってくれと言っているのだから。
デメトリアス 君を真底から嫌いになるようなことを言わないでくれ。正直な話、君がそばにいると、たまらなくなるのだ。
ヘレナ あたしは、あなたがそばにいないと、居ても立ってもいられなくなるの。
新潮社、福田恆存訳『夏の夜の夢』2016年第70刷版 P 38-39
「あたしはあなたのスパニエル犬」
「あなたのスパニエルにしていただくわ。蹴ってちょうだい、ぶってちょうだい」
とてつもないパワーワードをシェイクスピアはこの劇で炸裂させます。この言葉のインパクトは忘れられませんよね。
ですが、やはりシェイクピアはさすがです。男女の恋の機微を知り尽くした彼だからこそこのようなやりとりを生み出すことができるのです。さっと読めばそれで終わりの喜劇的な恋模様ですが、私達の現実生活をいかにリアルに切り取っていることか・・・!笑えるようでよくよく考えたら心にぐさっとくるやりとりですよね。
シェイクスピアの恋物語といえば『ロミオとジュリエット』が有名ですが、私はこの二人のやりとりもそれに匹敵するくらい人間の恋模様の不思議さ、奥深さを表現しているのではないかと思っています。
この箇所はこの作品中でも強烈なインパクトを放っている名シーンと言えるのではないでしょうか。
茶番すぎる茶番がものすごく面白い~シェイクスピアのメタ的視点
そしてもうひとつ。 この物語の最終盤に演じられる劇中劇です。これがまた頗る面白い!
4人の四角関係が大団円を迎え、幸せな二組のカップルの婚礼の余興として演じられたのがこの劇なのですが、この茶番すぎる茶番がシュールすぎてものすごく笑えます。
私はこれをカフェで読んでいたのでしたが、思わずくすっと笑ってしまい、そこからニヤニヤが止まらなくなり不審者のようになってしまいました。外で読むのは要注意です。
私はこの茶番劇が最高に好きです。石垣役の男に幸あれ!こんな面白い石の壁は見たことがありません。この作品を読んだことのない方には私が何を言っているかさっぱりわからないでしょうが、読めばわかります。シェイクスピアはきっと腹を抱えてこの劇を作ったのではないでしょうか。
『夏の夜の夢』という劇の中で演じられる茶番劇。その観客はこの劇の登場人物たちです。そしてさらにそれを見ているのが私達読者です。
こういうメタ的な視点で茶番を茶番として徹底的に茶化していくシェイクスピアの想像力には驚くしかありません。これはぜひ体感して頂きたいです。読めばわかります。ばかばかしすぎてもはや清々しいほどです!これは面白いです!ぜひぜひおすすめしたいです!
『夏の夜の夢』とドイツの作曲家メンデルスゾーン
そして最後にこの作品についてもうひとつだけお話ししたいことがあります。
それが『夏の夜の夢』とドイツの作曲家メンデルスゾーンについての関係です。
以前当ブログでも紹介した19世紀の偉大な作曲家メンデルスゾーンはこの作品を子供の頃から愛していました。彼は16歳の時には兄弟や友人たちとこの作品を演じて遊んだり、17歳の時にはなんと、『夏の夜の夢』の序曲を完成させてしまいました。
17歳の段階でこの曲を完成させるメンデルスゾーンの圧倒的な才能には驚くしかありません。モーツァルトに匹敵する才能と称賛されるのも納得です。
そしてこの動画のコメント欄を見て驚いたのですが、この曲はドラえもんの映画にも使用されていたとのことです。たしかによくよく思い返してみればそんな気がしてきました。これには驚きでした。
メンデルスゾーンはその後も『夏の夜の夢』に愛着を持ち続け、1841年から1843年にかけて本格的にこの作品の付帯音楽の制作に取り掛かりました。
そして完成した曲の中でも特に有名なのがこちらです。
「結婚式といえばこの曲!」という誰もが知るこのメロディーはメンデルスゾーンが『夏の夜の夢』のために作ったものだったのです。先程紹介した茶番劇が行われる結婚式ですね。私もこの事実を知った時は本当に驚きました。
私はメンデルスゾーンが大好きです。彼については当ブログでも様々な記事で紹介していますのでぜひそちらもご覧になって頂けたらなと思います。意外な発見が満載できっと驚くと思います。文学好きな方には特に見て頂きたいです。文学世界とメンデルスゾーンがどれほど繋がっているかに衝撃を受けると思います。
大好きなメンデルスゾーンが愛した作品ということで、私も『夏の夜の夢』がもっともっと好きになりました。
※2022年9月21日追記
この『結婚行進曲』はロシアの文豪ドストエフスキーもお気に入りだったそうです。ドストエフスキーは妻アンナ夫人と共に西欧旅行中、ドレスデンでこの曲を好んで聴いていたとのことです。
ドストエフスキーというとその作風から厳めしいイメージがあるかもしれませんが、実はかなりのロマンチストで奥様にデレデレだったという一面があります。
ドストエフスキーが奥様とニコニコしながらこの曲を聴いている姿を想像するとこちらも微笑んでしまいます。
おわりに
『夏の夜の夢』は『ハムレット』や『オセロー』、『ヴェニスの商人』などの有名どころの作品と比べて、たしかに影の薄い作品かもしれませんが、私は大好きな作品です。いや、メンデルスゾーンにはまっている今、この作品が一番好きとすら言えるかもしれません。とにかく笑える愛すべき作品です。「スパニエル」、「石垣」がもう愛しくてたまりません。心がふっと軽くなる夢のような楽しい劇です。
シェイクスピア作品でこんなに笑える劇と出会えるなんて思ってもいませんでした。
ぜひぜひおすすめしたい作品です!
以上、「シェイクスピア『夏の夜の夢』あらすじと感想~恋人たちと妖精のドタバタ喜劇!メンデルスゾーンの序曲でも有名なおすすめ作品」でした。
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