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美人妻と寝取られ亭主、不倫男の奇妙な三角関係 後期ドストエフスキーの名作中編小説『永遠の夫』概要とあらすじ
『永遠の夫』は1870年に発表された長編小説です。
私が読んだのは新潮社出版の千種堅訳の『永遠の夫』です。
早速この本について見ていきましょう。
妻の浮気も黙認し、守ったものは「夫の座」。
亭主であるほかに何の能もない男の悲哀を描く大文豪の異色作。
大作『白痴』と『悪霊』の間に書かれた。
妻はつぎつぎに愛人を替えていくのに、浮気ひとつできず、その妻にしがみついているしか能のない、生涯ただただ“夫”であるにすぎない“永遠の夫”の物語。ある深夜、ヴェリチャーニノフは、帽子に喪章をつけたトルソーツキーの訪問を受け、かつて関係のあった彼の妻の死を告げられる。屈辱に甘んじながら演じられる男の不可解な言動、卑屈さと根強い復讐心に揺れ動く深層心理を描いた名編。
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今作の主人公は若い伊達男ヴェリチャーニノフ。彼は女性にモテるタイプの青年で、今はちょっとした厄介な訴訟に巻き込まれ日々忙しなく過ごしていました。
そんな彼の前にある日奇妙な男が現れます。
それが「永遠の夫」トルソーツキイ。
そこから伊達男と「永遠の夫」の奇妙な物語が始まっていくのです。
さて、「永遠の夫」というと、ずっと愛していられる理想の男性像のような印象も受けてしまいますが、実はこの作品においてはまったく逆で、「永遠の夫」とは男をとっかえひっかえしている不倫妻の夫のことで、「生涯ただただ夫であることに終始し、「ちょうど太陽が輝かずにはいられないように、妻に不貞をされずにはすまない」、そういう人物のことをいいます。
「永遠の夫」トルソーツキイはお人好しでおめでたい人間で、妻を信じ切っていました。しかしその妻はそれをいいことに不倫に耽ります。
「永遠の夫」はそんな妻の不貞に気づくこともなく快活に暮らしています。
しかしその妻が若くして亡くなると、残された手紙から彼の目の前に不貞の事実が現れます。そこから彼の奇妙な行動が始まっていきます。
裏表紙にもありましたように、「屈辱に甘んじながら演ずる滑稽な言動―卑屈な忍従と根強い復讐心、かぎりない信頼と反撥に揺れ動く深層心理」がトルソーツキイを通して描かれます。
感想
私が初めてこの『永遠の夫』を読んだ時、「永遠の夫」の意味がなかなか掴めず、さらにはトルソーツキイの奇妙な行動や心理がまったく理解不能で読むのに大苦戦をしたのを覚えています。
ですが、こちらの「エミール・ゾラとドストエフスキーまとめ―「ルーゴン・マッカール叢書」を読んで」の記事でも少し触れましたように、フランスの文化を学ぶことで不倫の文化?を知ることができ、そうすると「永遠の夫」の意味がすんなりと入ってくるようになりました。
もちろん、不倫をすること自体はさすがにおおっぴらにはできませんでしたが、この当時の社会においては不倫は決して珍しいことではなかったのです。
フランスではむしろ、それをうまいことやりくりしてそれすらも社交術のひとつとして利用することすら必要とされました。
バルザックやエミール・ゾラなどのフランス文学には嫌というほどそうした男女関係が描かれています。特にゾラの『獲物の分け前』や『ごった煮』という作品ではそうした世界が余すことなく暴露されています。
もちろん、それらの知識がなくとも、この作品は名作と評価されている小説ですので十分楽しむことができることでしょう。
ドストエフスキー評伝の金字塔と言われるモチューリスキー著『評伝ドストエフスキー』でも、
エピソードはおのおの厳密な筋書きにしたがって振り分けられていて、細部はそれぞれあらかじめ綿密に計算されているかのようである。「均斉」と「節度の感覚」は凱歌をあげている。ドストエフスキーはこの作品で「自分の腕を自在に制御した」。「永遠の夫」はロシアの物語芸術の傑作ということができる。
モチューリスキー『評伝ドストエフスキー』P424
と大絶賛されています。
小説の分量も中編小説ということでドストエフスキーにしてはお手軽なページ数になっています。
何をしでかすかわからない深層心理の混沌を描くという、ドストエフスキー得意の心理描写が冴えわたった作品です。ドストエフスキー入門としては少々厳しいものがありますが、ドストエフスキーにはまり出した方にはぜひおすすめしたい作品です。
以上、「ドストエフスキー『永遠の夫』あらすじ解説~美人妻と寝取られ亭主、不倫男の奇妙な三角関係」でした。
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