MENU

『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』概要と感想~仏道修行の原点や仏塔、仏像、遺骨崇拝の展開を学べる一冊!

大乗仏教の実践
目次

『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』概要と感想~仏道修行の原点や仏塔、仏像、遺骨崇拝の展開を学べる一冊!

今回ご紹介するのは2011年に春秋社より発行された『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』です。

早速この本について見ていきましょう。

大乗仏教の戒律や禅定などの実践的教義が、実際の歴史的な場においてどのように信仰・実践されてきたかという観点から、大乗仏教の実践思想としての本質に迫る。

Amazon商品紹介ページより

今作はそのタイトル通り、大乗仏教の実践面について見ていく作品となります。初期大乗仏教における実践面は未だ謎多き存在です。本書について「はしがき」では次のように述べられています。

本巻は、大乗仏教の実践について扱う。三学の中でいえば、戒と定に当たる。以前の『講座・大乗仏教』にはなかった巻であるが、それは従来、教学中心に仏教を論ずるのが基本であったために、実践という問題は必ずしも中心的なテーマとならなかったためである。近年、従来の教学中心の仏教研究への反省から、実践的な面への関心が深まり、研究成果が蓄積されてきている。本巻は、そのような成果を集成する。(中略)

すでに触れたように、複数の論文から、大乗が必ずしも部派の仏教とはっきりと断絶しているわけではなく、両者の間には共通性があり、連続的に見るべきことが、さまざまの点から明らかになった。このことは、今度は大小乗を断絶的、二項対立的に捉える見方がどこから生まれ、どのように定着したかという、新たな問題を生むことになる。小乗と対立する、いわば純大乗主義は、おそらく日本において、最澄によって確立されたのではないか、というのが、私の推測であるが、それはまた別の機会に検討したい。

春秋社『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』Pⅰ-ⅴ

このはしがきで語られるように、大乗と小乗の実践面には繋がりがあり、明確に異なる存在ではなかったことが本論集で語られます。

これまで紹介してきた『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』、『シリーズ大乗仏教 第二巻 大乗仏教の誕生』でも大乗と小乗が共存していたことが語られましたが、本作ではその実践面でも共通点が多々あることを学ぶことになります。

この論集の中で特に印象に残ったのは第四章「大乗仏教の禅定実践」の章で語られた、

一見非常に大乗的なものと思える観仏の修行も、原始仏典以来の不浄観の修行の延長線上にあったということになるだろう。

春秋社『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』P104

という言葉や、第五章「仏塔から仏像へ」の章で語られた、

以上、具体的な作例を挙げながら仏像の聖化の事例を見てきた。これらの例から窺えるのは、仏像が単なる形像ではなく、仏陀そのものとして扱われる上で、遺骨に代表される伝統的な礼拝物との結びつきが重要な役割を果たしたということである。すなわち仏像への信仰は、仏涅槃以来の舎利信仰を排する形で発展したのではない。むしろそれは伝統的な舎利や聖遺物への信仰を基盤とし、仏像をそれらと同義の礼拝対象と看做すことで定着したと考えられるだろう。

春秋社『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』P144

という言葉です。

大乗仏教では摩訶止観や浄土教の観仏三昧などの瞑想法が有名ですが、こうした大乗的な観仏修行も実はその根は原始仏典にあり、伝統教団と全く異なる修行ではなかったということ。

そして仏像崇拝に関しても、ブッダの遺骨である舎利への信仰が大きな影響を与えていたということ。これも見逃せません。原始仏教は墓を造らなかった、死者を祀ることはしなかったと言われることも多いですが、実際の所はブッダの聖遺物や高弟たちの遺骨に対する崇拝がなされていたということがこの本で説かれます。それが仏塔、仏像信仰へ繋がっていったというのは非常に興味深い指摘でした。

しかも次のような驚くべき解説もなされています。

仏陀像をはじめとする多様な仏教尊像が礼拝対象として定着したことは、それまでの仏塔を中心とした仏教徒の信仰形態に大きな変化をもたらし、尊像を用いた様々な儀礼の発達を生んだ。仏陀像に関していえば、そのような儀礼の典型として、法顕や玄奘がコータンやパータリプトラやカナウジで見たという行像を挙げることができる。法顕がパータリプトラで見た行像は、仏塔を模したニ〇基ほどの山車と共に、仏[=仏像]が都城内外を巡ったというもので、人々は美しく飾られた塔や仏像に音楽と踊りを奉納し、香華を捧げたという。玄奘が見たという、ハルシャヴァルダナ王(戒日王)がカナウジで主催した行像はさらに大規模なもので、等身大の金の仏像を安置する伽藍と仏像を沐浴させる宝壇をガンガー河の西岸に建てた後、そこから一四、五里離れたところに行宮を建て、二一日間の布施行をなした後、行像を行っている。(中略)

この行像において、仏陀像は象に乗り、王を従え、香水で沐浴し、布施を受ける仏陀そのものとして扱われている。奈良康明が指摘したように、このように仏像を仏陀そのものと看做す儀礼は、『ボーディチャルヤ・アヴァターラ』や『アヴァダーナ・シャタカ』などのサンスクリット仏典にも記されており、そこでは仏像を洗浴し、香を薫じ、身体を拭い、衣を取替え、飲食を与えるという、ヒンドゥー教の神像礼拝(プージャー)と基本的に同じ方法で仏像の供養が行われている。また、同様の記述は、『大乗造像功徳経』や『灌洗仏形像経』や『浴像功徳経』など、紀元後四世紀~八世紀頃に漢訳された、仏像供養の福徳を説く仏典にも認められるところである。涅槃経に説かれる仏塔供養から窺われるように、同様の儀礼はおそらく仏像出現以前より、仏塔や様々な舎利を用いて行われていたに違いない。しかしグプタ時代以降、仏像という具体的かつ身近な礼拝対象が定着したことにより、このようなバクティ的かつ個別的な礼拝形式が一層の発達を遂げたことは、容易に想像されるであろう。

春秋社『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』P146-147

「そこでは仏像を洗浴し、香を薫じ、身体を拭い、衣を取替え、飲食を与えるという、ヒンドゥー教の神像礼拝(プージャー)と基本的に同じ方法で仏像の供養が行われている。」

プージャー(礼拝)Wikipediaより

仏教も人々の生活レベルではヒンドゥー教の祭式と混じり合って信仰されていたというのがここからうかがえます。

文献や深遠な哲学体系だけが宗教ではありません。そこにはそこに生きる人々の宗教的実践、生活実践もあります。西欧的な文献研究のみで推し量ろうとする仏教研究に対する反省もこの本では語られます。

これ以上は専門的になりますので私の方からはお話しできませんが、興味のある方はぜひ読んで頂きたいなと思います。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「『シリーズ大乗仏教 第三巻 大乗仏教の実践』~仏道修行の原点や仏塔、仏像、遺骨崇拝の展開を学べる一冊!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

大乗仏教の実践 (シリ-ズ大乗仏教)

大乗仏教の実践 (シリ-ズ大乗仏教)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
『シリーズ大乗仏教 第四巻 智慧/世界/ことば 大乗仏典Ⅰ』概要と感想~般若経・華厳経・法華経の成立... 般若経、華厳経、法華経は日本仏教の根幹とも言える経典です。それらがどう生まれ、どう展開していったのか、それらを最新の研究に基づいて学べるのが本書になります。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
『シリーズ大乗仏教 第二巻 大乗仏教の誕生』概要と感想~大乗仏塔起源を批判したショペンの説の概略を... 本書ではこれまで当ブログでも紹介したグレゴリー・ショペンの説がわかりやすくまとめられています。現代における仏教学においてとてつもない影響をもたらしたショペンの説の概略を学べるのは非常にありがたいものがありました。

関連記事

あわせて読みたい
【現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】⑴ネパール、ルンビニーでの王子様シッダールタの誕生! 今回の記事から全25回の連載を通してゴータマ・ブッダ(お釈迦様)の生涯を現地写真と共にざっくりとお話ししていきます。 私は2024年2月から3月にかけてインドの仏跡を旅してきました。 この連載では現地ならではの体験を織り交ぜながらブッダの生涯を時代背景と共に解説していきます。
あわせて読みたい
奈良康明『〈文化〉としてのインド仏教史』概要と感想~葬式仏教批判に悩む僧侶にぜひおすすめしたい名著! 文献に書かれた教義だけが仏教なのではなく、そこに生きる人々と共に歩んできたのが仏教なのだというのがよくわかります。私自身、この本にたくさんの勇気をもらいました。仏教は現代においても必ずや生きる力に繋がるのだということを私は感じています。
あわせて読みたい
G・ショペン『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』概要と感想~定説だった大乗仏塔起源説を覆した衝撃... これまでの文献学中心の仏教学では見えてこなかった世界がショペンの新たな研究によって明らかになってきました。この本ではそんな仏教学の新展開を切り開いたショペンの刺激的なお話を聞くことができます。 正直、衝撃としか言いようがありません。
あわせて読みたい
『シリーズ大乗仏教 第一巻 大乗仏教とは何か』概要と感想~最新の研究を基に様々な視点から大乗を考察... 『シリーズ大乗仏教』は最新の研究成果が反映されているところにその特徴があります。 仏教の基本を知りたい方、入門書を読みたいという方には少し厳しい内容の本ですが、仏教の大枠を知り、さらに大乗仏教をより深く学んでいきたいという方にはぜひぜひおすすめしたい作品です。
あわせて読みたい
『新アジア仏教史03 インドⅢ 仏典からみた仏教世界』概要と感想~仏伝や経典に説かれる史実はどこまで史... 私たちはブッダの生涯をこれまで様々なところで見聞きしたことがあると思います。ですが、実はブッダの歴史的な事実というのはわかっていないことも多々あります。 それをこの本では経典や資料を用いて丁寧に見ていくことになります。特に本書前半の仏伝に関する解説は私にとっても非常に刺激的なものとなりました。
あわせて読みたい
辛島昇・奈良康明『生活の世界歴史5 インドの顔』あらすじと感想~インド人の本音と建て前。生活レベル... 本書では宗教面だけでなく、カーストや芸術、カレーをはじめとした食べ物、政治、言語、都市と農村、性愛などなどとにかく多岐にわたって「インドの生活」が説かれます。仏教が生まれ、そしてヒンドゥー教世界に吸収されていったその流れを考える上でもこの本は非常に興味深い作品でした。
あわせて読みたい
新田智通「大乗の仏の淵源」概要と感想~ブッダの神話化はなかった!?中村元の歴史的ブッダ観への批判と... 今作では浄土経典について説かれるということで浄土真宗僧侶である私にとって非常に興味深いものがありました。 特に第二章の新田智通氏による「大乗の仏の淵源」は衝撃的な内容でした。これは仏教を学ぶ全ての人に読んで頂きたい論文です。
あわせて読みたい
『シリーズ大乗仏教 第十巻 大乗仏教のアジア』概要と感想~インド仏教も葬式仏教的な遺骨崇拝や納骨、... 今作はヒンドゥー教やイスラーム、中国文化とのつながりから大乗仏教を見ていくというユニークな論集となっています。 今作もショペンの刺激的な論文を読むことができるおすすめの参考書です。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次