MENU

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』あらすじと感想~本屋大賞受賞のおすすめ小説!独ソ戦を戦う狙撃兵の少女を描いた話題作!

目次

本屋大賞受賞!逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』あらすじと感想~独ソ戦を戦う狙撃兵の少女を描いたおすすめの話題作!MGSの小島監督も絶賛!

今回ご紹介するのは2021年に早川書房より発行された逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』です。

早速この本について見ていきましょう。

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?

Amazon商品紹介ページより

TwitterなどのSNSで話題になっていたこの作品。

私がこの作品を知ったのもSNSで流れてくるタイムラインがきっかけでした。

『同志少女よ、敵を撃て』

タイトルからしてなかなか刺激的ですが、この表紙のイラストもインパクトがあります。

私も前から気になっていたのですが、なかなか手が伸びないでいました。

ですが、当ブログでも紹介してきたメタルギアシリーズの小島秀夫監督が、

多くの人に読んでほしい!ではなく、多くの人が目撃することになる間違いなしの傑作!


早川書房、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』帯

と絶賛しているのを見て、これはぜひ読んでみたいなと思いこの本を買ってみたのでした。

さて、小島監督が絶賛したこの作品はどうだったのか。

結論から言いましょう。

たしかに、「多くの人に読んでほしい!ではなく、多くの人が目撃することになる間違いなしの傑作」でした!

これは面白い!!

とにかく読ませます!

ストーリー展開や心理描写が非常に巧みで、どんどん物語に引き込まれます。読書への没入感がすごいです。

450ページを超えてくる大作ですが、あっという間に読んでしまいました。さすがに一気読みは時間の都合上できませんでしたが、中断時は早く続きを読みたくてうずうずしてしまいました。それほど魅力的なストーリー展開です。

そして何より、独ソ戦の悲惨さを丁寧に落とし込んだ物語。

この本の巻末には著者が参考にした本が一覧で掲載されています。

私は昨年、独ソ戦の歴史が書かれた本を当ブログで紹介しましたが、『同志少女よ、敵を撃て』ではその中でもアレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』やキャサリン・メリデールの『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』の影響が感じられます。

あわせて読みたい
アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』あらすじと感想~独ソ戦を体験した女性達の声に聴くー... この本はアレクシエーヴィチが独ソ戦に従軍、あるいは戦禍を被った女性にインタビューし、その記録を文章化したものになります。独ソ戦という巨大な歴史の中では個々の人間の声はかき消されてしまいます。特に、女性はその傾向が顕著でした。戦争は男のものだから女は何も語るべきではない。そんな空気が厳然として存在していました。 そんな中アレクシエーヴィチがその暗黙のタブーを破り、立ち上がります。アレクシエーヴィチはひとりひとりに当時のことをインタビューし、歴史の闇からその記憶をすくいあげていきます。
あわせて読みたい
C・メリデール『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』あらすじと感想~ソ連兵は何を信じ、なぜ戦い続け... この本では一人一人の兵士がどんな状況に置かれ、なぜ戦い続けたかが明らかにされます。 人は何にでもなりうる可能性がある。置かれた状況によっては人はいとも簡単に残虐な行為をすることができる。自分が善人だと思っていても、何をしでかすかわからない。そのことをこの本で考えさせられます。

上の二冊で語られる「どこまでも人間を悪魔化させていく戦争の現実」が『同志少女よ、敵を撃て』では深く落とし込まれています。それらをオリジナルのストーリーでここまで絶妙に語るこの作品には驚かされました。作者はこれがデビュー作だそうです。デビュー作にして自分が学んだことをここまで作品に落とし込みながら表現できる文才に羨望の思いです。

『同志少女よ、敵を撃て』は第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作です。また、2022年本屋大賞にもノミネートされていて、帯にもありましたように絶賛の言葉がずらり並んでいます。MGSの小島監督の言葉をきっかけに手に取ったこの作品でしたが、その賛辞に違わぬ傑作でした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

私はこの作品が独ソ戦を学ぶ入り口になってくれたらなと心から思います。私は以前、「私達日本人が今あえて独ソ戦を学ぶ意義ー歴史は形を変えて繰り返す・・・」という記事で次のように述べました。

第二次世界大戦というと、私は無意識に太平洋戦争を連想してしまいます。どうしても日本が戦った戦争ばかり頭に浮かんできます。アジアでの悲惨な戦闘や太平洋での玉砕、本土空襲や沖縄戦、そして原爆投下、ソ連の侵攻・・・

しかし「第二次世界大戦」という名の示す通り、この戦争は世界規模の戦争でした。そしてその主戦場はやはりヨーロッパだったのです。ですがそのことがあまり意識には上ってこない。スターリンやソ連史を学ぶ流れで独ソ戦を学んだ私は改めてそのことに驚きました。これほど巨大な戦争について知っているようでほとんど何も知らなかったという事実。

ヒトラーがポーランドに侵攻し、その後ホロコーストを行い、最後には連合軍に負けヒトラーが自殺して戦争が終結した。

中学高校の教科書ではこの歴史について詳しくは書かれません。私は高校の時に日本史を選択したので高校世界史の教科書でどこまで書かれているかはわかりませんが、少なくとも日本史の教科書では第二次世界大戦のヨーロッパ戦線についてはほとんど記述はありませんでした。

つまり、私のような日本史選択の人間には第二次世界大戦の詳しい流れを知る機会がなかなかないのです。知ろうと思えば自分で調べなければなりません。大学時代は勉強する時間があるかもしれませんが、社会人になってから改めて第二次世界大戦を学ぶとなると時間的にも体力的にもやはり厳しいですよね。

日本が戦った太平洋戦争については様々なドラマや映画、ドキュメンタリーが作られているのでメディアを通じて私たちはその流れをなんとなく知っています。

ですがこの「なんとなく知っている」というのが厄介で、これがあるが故に第二次世界大戦全体への関心が薄れてしまうのではないかと思います。もし日本が戦った太平洋戦争についてほとんど知らなかったのなら「あの戦争とは何だったのだろう」という関心が生まれてくるだろうからです。そしてその流れで第二次世界大戦全体の流れも知らざるをえなくなってきます。

ですが「なんとなく知っているが故に」、学びがそこで止まってしまうのです。ドラマや映画、ドキュメンタリーで見た太平洋戦争のイメージで止まってしまうということが起ってしまうのです。

被害者としての日本。玉砕し、原爆を投下された日本。戦争に苦しむ日本人。平和を奪われた生活・・・

私たちはどうしても自分達日本に感情移入してしまいます。日本側の目線に立ってしまいます。どんなに気を付けても日本に対して中立ではいられません。好悪何かしらの感情から逃れることができません。

だからこそ独ソ戦を学ぶ意義があるのです。

想像を絶するほどの規模の戦いとなった独ソ戦は戦争の本質をこれ以上ないほど私たちの目の前に突き付けます。そしてその戦争に対して第三者的な目線からその歴史を学ぶことができるのです。もちろん、完全に中立な眼で見ることは不可能です。しかし当事国であった日本の戦争よりもはるかに距離を保った視点で戦争を学ぶことができるのです。

なぜ戦争は起きたのか。戦争は人間をどう変えてしまうのか。虐殺はなぜ起こるのかということを学ぶのに独ソ戦は驚くべき示唆を与えてくれます。私自身、独ソ戦を学び非常に驚かされましたし、戦争に対する恐怖を感じました。これまで感じていた恐怖とはまた違った恐怖です。ドラマや映画、ドキュメンタリーで見た「被害者的な恐怖」ではなく、「戦争そのものへの恐怖」です。

戦争がいかに人間性を破壊するか。

いかにして加害者へと人間は変わっていくのか。

人々を戦争へと駆り立てていくシステムに組み込まれてしまえばもはや抗うことができないという恐怖。

平時の倫理観がまったく崩壊してしまう極限状態。

独ソ戦の凄まじい戦禍はそれらをまざまざと私たちに見せつけます。

もちろん太平洋戦争における人々の苦しみを軽視しているわけではありません。

ですが、あえて日本から離れた独ソ戦を学ぶことで戦争とは何かという問いをより客観的に学ぶことができます。

「戦争の本質とは何か」という問いを独ソ戦を通して学ぶことで何が生まれてくるのか。

それは「日本における戦争とは何だったのか」、「今の日本はどういう状況なのか」という問いです。

日本が戦った太平洋戦争とは何だったのか。なぜ戦争は起こってしまったのか。戦争中日本は何をしたのか。

独ソ戦を学んでから改めて日本の戦争を考えてみるとこれまでとは違ったものが見えてくるのではないでしょうか。


「私達日本人が今あえて独ソ戦を学ぶ意義ー歴史は形を変えて繰り返す・・・」より

逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』は独ソ戦を学ぶ最高の入り口になるのではないでしょうか。この作品はとにかく面白い!読ませます!物語に一気に引き込まれる感覚です。それでありながら戦争の悲惨な現実や心理面をえぐっていきます。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以下の関連記事におすすめの独ソ戦の本も掲載しておりますので興味のあるかたはぜひご覧ください。

以上、「逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』あらすじと感想~本屋大賞受賞のおすすめ小説!独ソ戦を戦う狙撃兵の少女を描いた話題作!」でした。

※2022年4月6日追記

逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』が2022年本屋大賞を受賞しました!

ロシア・ウクライナ戦争に揺れる中、この本が大賞を受賞したことには計り知れない意味があると思います。

ぜひとも多くの方に手に取って頂けたらなと思います。私も強く推したい作品です!

Amazon商品ページはこちら↓

同志少女よ、敵を撃て

同志少女よ、敵を撃て

次の記事はこちら

あわせて読みたい
S・マッケイ『ドレスデン爆撃1945 空襲の惨劇から都市の再生まで』あらすじと感想~ドイツの美しき古都... 正直、私は怖いです。歴史を学べば学ぶほど恐怖を感じています。この先、私たちの生きる世界がどうなるのか、改めてこの本を読んで恐れを感じたのでありました。 原爆や大空襲を経験した日本にとってもこの本で提起されている問題は重要な意味を持っているのではないでしょうか。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
伊藤計劃『ハーモニー』あらすじと感想~「命と健康が何より大事」な高度医療社会のディストピア 伊藤計劃さんは34歳という若さで亡くなってしまいました。 伊藤計劃さんはがんの闘病をしながらデビュー作の『虐殺器官』を書き上げ、この作品も末期がんに近い状況で書き上げられました。 いのちとは何か。病とは、死とは。 それをこの作品で突き詰めていきます。 伊藤計劃さん自身の境遇を思うとこの作品の持つ重みがさらに感じられます

関連記事

あわせて読みたい
私達日本人が今あえて独ソ戦を学ぶ意義ー歴史は形を変えて繰り返す・・・ 戦争がいかに人間性を破壊するか。 いかにして加害者へと人間は変わっていくのか。 人々を戦争へと駆り立てていくシステムに組み込まれてしまえばもはや抗うことができないという恐怖。 平時の倫理観がまったく崩壊してしまう極限状態。 独ソ戦の凄まじい戦禍はそれらをまざまざと私たちに見せつけます。 もちろん太平洋戦争における人々の苦しみを軽視しているわけではありません。 ですが、あえて日本から離れた独ソ戦を学ぶことで戦争とは何かという問いをより客観的に学ぶことができます。だからこそ私はあえて独ソ戦を学ぶことの大切さを感じたのでした。
あわせて読みたい
大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』あらすじと感想~独ソ戦の全体像が分かりやすく解説されたおすすめの入... この本では独ソ戦がなぜ始まったのか、そしてどのように進んで行ったかがわかりやすく解説されています。 そしてこの戦争における巨大な戦闘、モスクワ攻防戦、レニングラード包囲戦、スターリングラード攻囲戦についても解説していきます。独ソ戦の勝敗を決定づけるこれらの巨大な戦いとは一体どんなものだったのか。信じられないほどの犠牲者を出した圧倒的な戦いを私たちは知ることになります。
あわせて読みたい
『スターリングラード―運命の攻囲戦1942-1943』あらすじと感想~独ソ戦最大級の市街戦を描いた戦争ノン... モスクワ攻防戦が郊外での防衛戦であり、レニングラードの戦いは包囲戦でした。それに対しこの戦闘はスターリングラード周辺地域だけでなく大規模な市街戦となったのが特徴です。空爆と砲撃で廃墟となった街の中で互いに隠れ、騙し合い、壮絶な戦闘を繰り広げたのがこの戦いでした。スターリングラードの死者はソ連側だけで80万人を超えると言われています。 独ソ戦のあまりの規模に衝撃を受けることになった読書でした。
あわせて読みたい
A・ビーヴァー『ベルリン陥落 1945』あらすじと感想~ソ連の逆襲と敗北するナチスドイツの姿を克明に描... 著者のアントニー・ビーヴァーは前回の記事で紹介した『スターリングラード運命の攻囲戦1942‐1943』の著者でもあります。今作でも彼の筆は絶品で、ぐいぐい読まされます。ソ連の逆襲とナチスが決定的に崩壊していく過程がこの本では語られていきます。 ナチス、ソ連両軍ともに地獄のような極限状態の中、どのような行為が行われていたのか。この本で目にする内容はあまりに悲惨です。
あわせて読みたい
独ソ戦のおすすめ参考書16冊一覧~今だからこそ学びたい独ソ戦 この記事では独ソ戦を学ぶのにおすすめな参考書を紹介していきます。 独ソ戦は戦争の本質をこれ以上ないほど私たちの目の前に突き付けます。 なぜ戦争は起きたのか。戦争は人間をどう変えてしまうのか。虐殺はなぜ起こるのかということを学ぶのに独ソ戦は驚くべき示唆を与えてくれます。私自身、独ソ戦を学び非常に驚かされましたし、戦争に対する恐怖を感じました。これまで感じていた恐怖とはまた違った恐怖です。ドラマや映画、ドキュメンタリーで見た「被害者的な恐怖」ではなく、「戦争そのものへの恐怖」です。
あわせて読みたい
T・スナイダー『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』あらすじと感想~独ソ戦の実態を知... スターリンはなぜ自国民を大量に餓死させ、あるいは銃殺したのか。なぜ同じソビエト人なのに人間を人間と思わないような残虐な方法で殺すことができたのかということが私にとって非常に大きな謎でした。 その疑問に対してこの上ない回答をしてくれたのが本書でした。 訳者が「読むのはつらい」と言いたくなるほどこの本には衝撃的なことが書かれています。しかし、だからこそ歴史を学ぶためにもこの本を読む必要があるのではないかと思います。
あわせて読みたい
伊藤計劃『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』あらすじと感想~『虐殺器官』の著者によ... この作品はメタルギアと初めて出会う方でも読める作品となっています。過去のエピソードなどもうまく盛り込まれていて、その流れをわかりやすく知ることができます。私もこの作品が初めてのメタルギア体験でした。ですが、感動して泣いてしまうほどこの作品に引き込まれてしまいました。本当に素晴らしい作品です。 伊藤計劃さんの思いが詰まったこの本は私の宝物です。
あわせて読みたい
伊藤計劃『虐殺器官』あらすじと感想~ぜひおすすめしたい私の最も好きなSF小説! この作品はここ数年で私が最も愛した作品と言ってもいい小説です。 タイトルが『虐殺器官』という、およそ僧侶のブログではまず馴染まないであろうフレーズということもあり、ここまでなかなかこの作品を紹介する機会がないまま来てしまいましたが、独ソ戦、冷戦、ディストピア小説と来た今の流れならいけるであろうと、いよいよ勇んでの紹介になります。
あわせて読みたい
ナチスのホロコーストを学ぶためのおすすめ参考書一覧 この記事ではこれまで当ブログで紹介してきたホロコーストの歴史を学ぶ上で参考になる本をご紹介していきます。 それぞれのリンク先ではより詳しくその本についてお話ししていきますのでぜひそちらもご覧ください。皆さんのお役に立てましたら幸いでございます。
あわせて読みたい
おすすめSF・ディストピア小説16作品一覧~SF・ディストピアから考える現代社会 SF小説はその面白さは言うまでもありませんが、現在を生きる私たちに大きな問いを投げかけます。 楽しんで読むもよし。 今の世界をじっくり考えながら読むもよし。 色んな楽しみ方ができるのがSF小説のいいところだと思います。 この記事ではそんな私のおすすめ小説15作品をご紹介します。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次