MENU

モンテフィオーリ『スターリン 青春と革命の時代』あらすじと感想~スターリンの怪物ぶりがよくわかる驚異の伝記!

目次

モンテフィオーリ『スターリン 青春と革命の時代』概要と感想~独裁者スターリンのルーツを探る

ヨシフ・スターリン(1878-1953)Wikipediaより

『スターリン 青春と革命の時代』はイギリスの歴史家サイモン・セバーグ・モンテフィオーリによって2010年に出版された作品です。

早速この本について見ていきましょう。

《「若きスターリン」の実像》
 スターリンの後半生を描いた前作『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』に続き、謎に包まれた前半生を描いた、評伝二部作の第2弾。


 一八七八年、グルジアの貧しい靴職人の家庭に生まれ育ったスターリンは、神学校在学中にマルクス主義に目覚め、聖職者になる道を捨てる。同志たちとデモやストライキなど労働運動を始め、コーカサス地方一帯で頭角を現す。また、銀行強盗や強請り、殺人や放火などで活動資金を調達するようになる。

 その後、度重なる逮捕・投獄・脱走・流刑を経験し、数多の女性関係ももった。最初の結婚では家庭を顧みず、若妻カトは息子を遺して病死。流刑地では落とし子をもうけ、後には二十歳も年下の妻ナージャをめとることとなる。

 やがてスターリンは、亡命中のレーニンに活躍が認められ、地方の活動家からロシアの活動家へと転身し、ボリシェヴィキ中央委員に選出される。しかし一九一二年、二月革命後、酷寒のシベリアに四年間も流刑される。やがて帰国したレーニンの腹心となり、一九一七年、十月革命の成功後、レーニン首班の一員となる。

 グルジア公文書の最新公開資料が、「若きスターリン」の知られざる実像を明かしてくれた。故郷コーカサス人の派閥、強盗の頭目で幼馴染のカモー、二度の結婚と派手な女性遍歴、レーニンやトロツキーとの複雑な関係など、驚愕のエピソードが満載だ。まさに独裁者誕生の源流に迫った、画期的な伝記。

Amazon商品紹介ページより

この作品はこれまで紹介してきました『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』の続編となる作品です。

あわせて読みたい
モンテフィオーリ『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』あらすじと感想~ソ連の独裁者スターリンとは何者だ... この作品の特徴は何と言っても人間スターリンの実像にこれでもかと迫ろうとする姿勢にあります。スターリンだけでなく彼の家族、周囲の廷臣に至るまで細かく描写されます。 スターリンとは何者だったのか、彼は何を考え、何をしようとしていたのか。そして彼がどのような方法で独裁者へと上り詰めたのかということが語られます。

『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』ではスターリンが権力を掌握してからの伝記となっていましたが、続編のこの作品ではスターリンの幼少期から権力奪取に至るまでの青年期を中心とした伝記となっています。

訳者あとがきでこの本についてわかりやすくまとめられていましたので少し長くなりますがそちらを引用します。

たいていのスターリン伝記は、全生涯をカバーしていても、少年期・青年期には簡単に触れ、十月革命後についての叙述が中心になっている。後半生だけの評伝もある。スターリンの名を良くも悪くも不朽にしたのは後半生だから当然のことだろう。

それに先立つスターリンの前半生だけに焦点を絞った伝記は数少ないと思うが、サイモン・セバーグ・モンテフィオーリのこの著書はまさにそういう本である。

原題は『ヤング・スターリン』(Young Stalin)で、誕生から一九一七年の十月革命直後までのスターリンを取り上げている。

けれども十月革命が起きた時、スターリンはもうすぐ三十九歳になろうとしていた。人生の半ばを過ぎていたと言える。そしてそれまでの長い「陰」の人生は、十月革命後の「表」の人生へとつながることになる。

一見、別物のようなスターリンの人生前半と後半だが、それはスムーズに一本につながっているというのが著者の立場である。

「陰」の前半生はどうして十月革命後の「表」の人生につながることができたのか。著者モンテフィオーリはスターリンの後半生を前著『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』で描いたあと、引き続き彼の前半生の秘密に取り組んだ。

これまでの伝記研究者たちは、スターリンが生まれ育ち、マルクス主義の革命家として活動を開始したグルジアの現地へ行って資料を探索することがあまりなかったようだ。

もちろん、外国人研究者の場合、ソヴィエト時代には国や共産党の公文書館に立ち入ることなど原則として許されなかったし、関係者に自由に取材することも無理だった。

しかし、ソ連崩壊後にそれが可能になっても、スターリンに不利な、そして歴史家に貴重な史料は、弾圧の嵐が何度も吹き荒れた現地ではすでに抹殺済みで、残っているはずがないという無理からぬ先入観が、研究者のフィールドワークの意欲を殺いだだろう。グルジアは伝記資料探索の場所としてとかく軽視されがちだったと著者が言っているのは、そのことに違いない。

著者はそのグルジアへ行き(一九九〇年代初期のグルジア内戦をジャーナリストとして取材したそうだから、初めてではない)、テレビにまで出て資料の提供を呼びかけ、公文書館史料の調査、関係者への取材を行なった。

公文書館の調査では、サアカシヴィリ・グルジア大統領じきじきのお声がかりもあって、特別の便宜をはかってもらえたようだ。それらの結果、著者は若き日のスターリンと関係があった多くの人たちの回想録・資料(当然、グルジア語だろう)が公文書館に空しく埋もれているのを発見した。

スターリンの最初の妻カトの百九歳の縁者にも会った(二〇〇五年)。一般の人からの資料提供もあった。スターリンの母ケケが晩年の一九三五年に口述した回想録からの引用など、公表されるのは、あるいは利用されるのは本書が初めてだと著者が自慢しているものも少なくない。

本書におけるスターリンのグルジア・コーカサス時代の叙述が類書に比べて格段に詳しいのは、この本が前半生だけに的を絞っているためだけでないことは明らかである。

白水社、サイモン・セバーグ・モンテフィオーリ、松本幸重訳『スターリン 青春と革命の時代』P629-630

上のあとがきにありますように、この本ではソ連崩壊に伴って新しく発見された資料による記述がたくさん出てきます。

これまで歴史の闇に隠されていた事実が次々とこの本では明らかにされます。

それらの資料が発見されたのがモスクワから遠く離れたグルジア(ジョージア)だったというのもそうした資料が抹殺されずに済んだ大きな理由かもしれません。

いずれにせよ、ソ連時代には表に出せなかった資料がソ連崩壊後続々と出て来ていてその研究が今進みつつあるというのがこの本からうかがえます。(※2022年9月に私はスターリンの故郷ジョージアのゴリにあるスターリン博物館を訪れました。その時の体験を以下の記事でお話ししています。ぜひご参照ください)

あわせて読みたい
(21)スターリンの生まれ故郷ジョージアのゴリへ~スターリン博物館で旧ソ連の雰囲気を感じる 私がジョージアにやって来たのはトルストイを学ぶためであることを前回の記事でお話ししました。 ですが、せっかくジョージアに来たのならどうしても行きたい場所がありました。 それがスターリンの生まれ故郷ゴリという町です。 この記事ではスターリンの若き時代やスターリン博物館を訪れた私の体験をお話ししていきます。

前作の『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』も刺激的でかなり面白い書物でしたが、続編のこちらはさらに面白いです。独裁者スターリンのルーツを見ていくのは非常に興味深いものでした。

若きスターリンがどのようにしてそこまでの智慧才覚、カリスマ、権謀術数の策を得ていったのか、それがこの本で語られます。

彼の生まれや、育った環境は現代日本に暮らす私たちには想像を絶するものでした。暴力やテロ、密告、秘密警察が跋扈する混沌とした世界で、自分の力を頼りに生き抜かねばならない。海千山千の強者たちが互いに覇を競い合っている世界で若きスターリンは生きていたのです。

こんな過酷な状況でよく敵と渡り合い、自分の組織を作り上げたなと読んでいて驚くばかりです。ものすごく衝撃的な本です。

スターリンの化け物ぶりがよくわかります。運だけで独裁者になったのではありません。彼は驚くべき経験を経てカリスマへと成長していったのです。その過程を学ぶことは世界の歴史や戦争とは何かを学ぶ上で非常に重要な示唆を与えてくれるものであると思います。

次の記事からまた「スターリン伝を読む」の続きとしてこの本を読んでいきたいと思います。

以上、「『スターリン 青春と革命の時代』―独裁者スターリンのルーツを探る」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

スターリン: 青春と革命の時代

スターリン: 青春と革命の時代

次の記事はこちら

あわせて読みたい
(6)スターリンの波乱万丈の青年期~驚くべき力を秘めたカリスマとしての姿がここに スターリンは若い時から圧倒的な力を持っていました。育ちのいいエリート政治家ではなく、アンダーグラウンドで名の知れたギャングのトップという存在でした。こうした闇の世界でも生き残ることができる強さが混沌としたロシア革命期においてレーニンから信頼を受ける大きな要因となったのでした。

「スターリン伝を読む」記事一覧はこちらです。全部で14記事あります。

あわせて読みたい
ソ連の独裁者スターリンとは~その人物像と思想、生涯を学ぶ「スターリン伝を読む」記事一覧 レーニンに引き続きスターリンも学んできましたが、この二人の圧倒的なスケールには驚かされるばかりでした。 スターリンがこれほどまでの規模で粛清をしていたということすら知りませんでした。 そして、レーニン・スターリンというカリスマ2人によってソ連が形作られ、その後の世界を形成していった流れをここで知ることができました。

関連記事

あわせて読みたい
J・ロバーツ『スターリンの図書室』あらすじと感想~読書という視点から見る斬新なスターリン伝。彼はド... なぜスターリンは独裁者となれたのか、その背景となったものは何だったのか、それを「読書」という観点から見ていく本書は非常に刺激的です。「読書」というある意味独裁者と結びつきにくいマイナーな切り口から攻めていく著者の勇気には驚くしかありません。
あわせて読みたい
モンテフィオーリ『ロマノフ朝史1613-1918』あらすじと感想~ロシアロマノフ王朝の歴史を学ぶのに最高の... 私にとってはモンテフィオーリは絶大な信頼を寄せうる歴史家なのですが、今作も安定のモンテフィオーリクオリティーでした。「素晴らしい」の一言です。 ロマノフ王朝の始まりからいかにしてロシアが拡大し、力を増していったのかをドラマチックにテンポよく学ぶことができます。 それぞれの皇帝ごとに章立ても進んでいくので時代の流れもとてもわかりやすいです。
あわせて読みたい
マルクス主義者ではない私がなぜマルクスを学ぶのか~宗教的現象としてのマルクスを考える マルクスは宗教を批判しました。 宗教を批判するマルクスの言葉に1人の宗教者として私は何と答えるのか。 これは私にとって大きな課題です。 私はマルクス主義者ではありません。 ですが、 世界中の人をこれだけ動かす魔力がマルクスにはあった。それは事実だと思います。 ではその魔力の源泉は何なのか。 なぜマルクス思想はこんなにも多くの人を惹きつけたのか。 そもそもマルクスとは何者なのか、どんな時代背景の下彼は生きていたのか。 そうしたことを学ぶことは宗教をもっと知ること、いや、人間そのものを知る大きな手掛かりになると私は思います。
あわせて読みたい
モンテフィオーリ『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』あらすじと感想~ソ連の独裁者スターリンとは何者だ... この作品の特徴は何と言っても人間スターリンの実像にこれでもかと迫ろうとする姿勢にあります。スターリンだけでなく彼の家族、周囲の廷臣に至るまで細かく描写されます。 スターリンとは何者だったのか、彼は何を考え、何をしようとしていたのか。そして彼がどのような方法で独裁者へと上り詰めたのかということが語られます。
あわせて読みたい
(1)スターリンとは何者なのか~今私たちがスターリンを学ぶ意義とは  スターリン自身が「私だってスターリンじゃない」と述べた。 これは非常に重要な言葉だと思います。 スターリンはソ連の独裁者だとされてきました。しかしそのスターリン自身もソヴィエトというシステムを動かす一つの歯車に過ぎなかったのではないか。スターリンが全てを動かしているようで実はそのスターリン自身もシステムに動かされていたのではないかという視点は非常に興味深いものでした。 独裁者とは何かを考える上でこの箇所は非常に重要であると思います。
あわせて読みたい
『スターリン伝』から見たゴーリキー~ソ連のプロパガンダ作家としてのゴーリキー 今回は『スターリン伝』という佐藤清郎氏の伝記とは違う視点からゴーリキーを見ていきました。ある一人の生涯を見ていくにも、違う視点から見ていくとまったく違った人物像が現れてくることがあります。 こうした違いを比べてみることで、よりその人の人柄や当時の時代背景なども知ることができるので私はなるべく様々な視点から人物を見るようにしています。
あわせて読みたい
V・セベスチェン『レーニン 権力と愛』あらすじと感想~ロシア革命とはどのような革命だったのかを知る... この本ではソ連によって神格化されたレーニン像とは違った姿のレーニンを知ることができます。 なぜロシアで革命は起こったのか、どうやってレーニンは権力を掌握していったのかということがとてもわかりやすく、刺激的に描かれています。筆者の語りがあまりに見事で小説のように読めてしまいます。 ロシア革命やレーニンを超えて、人類の歴史や人間そのものを知るのに最高の参考書です。
あわせて読みたい
(1)なぜ今レーニンを学ぶべきなのか~ソ連の巨大な歴史のうねりから私たちは何を学ぶのか ソ連の崩壊により資本主義が勝利し、資本主義こそが正解であるように思えましたが、その資本主義にもひずみが目立ち始めてきました。経済だけでなく政治的にも混乱し、この状況はかつてレーニンが革命を起こそうとしていた時代に通ずるものがあると著者は述べます。だからこそ今レーニンを学ぶ意義があるのです。 血塗られた歴史を繰り返さないためにも。
あわせて読みたい
メリグーノフ『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)』あらすじと感想~レーニン時代の... ソ連時代に一体何が起きていたのか、それを知るために私はこの本を読んだのですが、想像をはるかに超えた悲惨さでした。人間はここまで残酷に、暴力的になれるのかとおののくばかりでした。 私は2019年にアウシュヴィッツを訪れました。その時も人間の残虐さをまざまざと感じました。ですがそれに匹敵する規模の虐殺がレーニン・スターリン時代には行われていたということを改めて知ることになりました。
あわせて読みたい
高本茂『忘れられた革命―1917年』あらすじと感想~ロシア革命とは何だったのか。著者の苦悩が綴られ... この本の特徴は、かつて著者自身がロシア革命の理念に感銘を受け、マルクス思想に傾倒したものの、やがて時を経るにつれてソ連の実態がわかり、今ではそれに対して苦悩の念を抱いているという立場で書かれている点です。 最初からマルクス主義に対して批判をしていたのではなく、長い間それに傾倒していたからこそ語れる苦悩がこの本からは漂ってきます。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次