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佐々木閑『大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか』あらすじと感想~日本仏教のそもそもを考える上でも重要な一冊!

大乗仏教 佐々木閑
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佐々木閑『大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか』概要と感想~日本仏教のそもそもを考える上でも重要な一冊!

今回ご紹介するのは2019年にNHK出版より発行された佐々木閑著『大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか』です。

早速この本について見ていきましょう。

仏教学の第一人者が、「対話」から大乗仏教の本質に迫る!
般若経、法華経、華厳経、浄土教、密教……。「自己鍛錬」を目的にした釈迦の仏教は、いつ、どこで、なぜ、どのようにして、「衆生救済」を目的とする大乗仏教へと変わったか? そして、その教えはどこへ向かおうとしているのか?別冊NHK100分de名著「集中講義 大乗仏教」を大幅改訂し、大乗仏教一五〇〇年の常識を覆す「大乗起信論問題」の顚末を新たに書き下ろした、究極の仏教概説書。

Amazon商品紹介ページより

佐々木閑先生の書籍についてはこれまで当ブログでも『仏教誕生』、『出家とはなにか』などの著作を紹介してきましたが、本書『大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか』もとてもわかりやすい仏教書となっています。

『仏教誕生』ではタイトル通り、ブッダが生きた時代にどのように仏教が生まれたのかが解説され、『出家とはなにか』ではインドのブッダ教団における出家の意義、戒律の意味などが説かれました。

そして本書『大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか』ではいよいよ私たち日本仏教と直結する大乗仏教について語られます。

本書について著者は「はじめに」で次のように述べています。

本書は「大乗仏教」がテーマです。この企画はもともと、私が勤める花園大学の授業を聴講している、一人の社会人学生との対話がきっかけでした。彼は会社勤めをしている三十代の男性ですが、授業のあとに私の研究室に来て、次のような質問をしたのです。

「日本の仏教には、どうしてたくさんの宗派があるのですか?」

これに対して私が「それぞれに、信奉しているお経が違うからですよ」と答えたところ、「どうして違ったお経がたくさんあるのですか?」と尋ねてきます。

そこで私が「お経は中国から入ったのですが、そのほとんどが、もとはインドで作られたものです。インドでいろいろな種類のお経が作られて、それが中国へ伝わり、日本にも伝わってきたので、中国にも日本にもたくさんの宗派ができたのです」と言うと、「ではなぜ、インドでいろいろな種類のお経が作られたのですか?」と、質問が止まりません。「ああ、これは一度、釈迦の教えから始めて、仏教成立史全体を概観する必要があるなあ」と思い、それから月に一度、計六回にわたって、彼を相手に個人講義をすることにしました。

始めてみると、これが意外におもしろくて、大学の講義の場合は数十名の学生の前で一方的に私が話すかたちですが、一対一の対話になると、こちらの意表を突くような質問が出て、話がどんどん展開します。毎回、適度な緊張感の中で、本質に迫る対話ができて、思いのほか満足しました。

そこでNHK出版から仏教をテーマにした企画の相談をされた際、是非ともこの時の状景を本にしてみたいと考えました。二人の対話の呼吸をできるだけ忠実に活字化するという、かなり難しい作業でしたが、なんとか『別冊NHK100分de名著 集中講義 大乗仏教』というムックにして、ニ〇一七年四月に出版することができました。中身は、釈迦の教えを基礎に据えたうえで、様々な大乗の教えを個別に読み解いていくという、あまり例のない解説書になりました。

そのムックは、幸いにも読者の反響が大きく、細部をもっと詳しく知りたいというご意見や、たくさんのご質問をいただきました。大乗仏教という言葉は知っているし、自分たちの住む日本が大乗仏教国であることも知っている。しかし、その大乗仏教というのがいったいどのような教えなのかは、さっぱりわからなかった。それが、このムック本を読むことで、その概略が理解できたという、ありがたい感想も多くの方から頂戴しました。

今回、そのムックを新書化するにあたり、そういったご意見も参考にしながら、新たな質疑応答と図版を加えて、ムックでは少々急ぎすぎた部分を整理し直し、さらには新しい章(講)を書き下ろして、日本仏教の流れもよりわかりやすく解説しました。「大乗仏教の意味を正しく知りたい」と願う人たちのお役に立てば幸甚です。

NHK出版、佐々木閑『大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか』P3-5

「大乗仏教という言葉は知っているし、自分たちの住む日本が大乗仏教国であることも知っている。しかし、その大乗仏教というのがいったいどのような教えなのかは、さっぱりわからなかった。」

これは一般読者だけでなく、実は僧侶自身も同じ思いの方が多いのではないでしょうか。

と言いますのも、僧侶である私たちも仏教の基本を学ぶのでありますがやはり自分の宗派の教義の勉強が中心となってしまいます。もちろん、大乗仏教とは何かや日本の主だった宗派の特徴などは習っていますが、その成立過程や経典、教義の細かい所まではなかなか立ち入れないというのが正直なところです。

そういう面でも本書はどの宗派の僧侶にとっても非常に意義のある解説書となっています。

本書に説かれていることは仏教学研究の立場からのもので、特定の宗派を持ち上げるようには書かれていません。そして私たち日本仏教側にとってはこれまでの通説や信じていたこととは異なることが説かれますので、正直耳が痛い面もあります。しかし、そうした事実から目を背けることはできません。そうした研究成果が出ている以上、私達も耳が痛くてもそれを受け入れ、その上で私達がどう仏教を考えていくのか、僧侶として生きていくのかということが試されています。

一般読者はもちろん、僧侶である私たちにこそこの本はぜひおすすめしたい本です。

以上、「佐々木閑『大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか』~日本仏教のそもそもを考える上でも重要な一冊!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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