清好延『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』あらすじと感想~謎の国インドと日本人との違いを知れるおすすめ本!
清好延『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』概要と感想~謎の国インドと日本人との違いを知れるおすすめ本!
今回ご紹介するのは2009年にダイヤモンド社より発行された清好延著『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』です。
早速この本について見ていきましょう。
最近、近所にインド人が増えたと思いませんか?日本人はいやでもつきあわざるを得なくなるインド人ですが、ビジネス上のつきあい方に関して実践的な指南をいたします。著者はインドビジネスの第一人者。自己責任と非暴力という大原則の下、多様性を最大の特徴とするインドと向き合う上で、必ずお役に立つ内容が満載されています。
Amazon商品紹介ページより
この本は私たちにとって「謎」としか言いようのないインド人とはどのような人たちなのかを知ることができる作品です。
インド人というと私たちにとっては様々なステレオタイプがあると思います。ターバンやカレー、歌やダンス、頭の良さ、インドのカオスなどなど、どれをとっても何かしら強烈なイメージがあるのではないでしょうか。
そんな強烈なイメージのインド人は一体どのような人たちなのか、それをインドの歴史や生活、文化、ビジネスと絡めて様々な観点から学んでいくのが本書の大筋になります。
著者はそのインドについて本書の冒頭で次のように述べています。
最近、私が強く感じることは、インドは数千年変わらぬところもあるが、5年前のインドを語る人はもはやインドの専門家とは言えないし、インドはこうであると断定する人は、インドの変化に対応出来ない、ということである。
日本では、インドはこうであるとの固定概念から、自分の頭の小箱のインドという知識を再認識する作業をやっている場合も少なくないように見える。また、インドに対する嘘の定着化(例えばインド式の九九)が行われたりしている。
多様性の国インドに関して、数多くの情報が錯綜し、本も出版されている。それらの情報は、「群盲象を撫ぜる」という観点からはすべて正しい情報なのかもしれないが、その象の全体像をつかんだ上で、象とは何かがわかるようなものにはなっていない場合が多いように思える。
インド人も日本人も同じ人間であるゆえ、人間としての共通点は無数にある。その人間がつくる国であるから共通点は多々ある。しかし、場所が異なり、歴史が異なるゆえ、文化、慣習、考え方に違いがあり、相違点も数多くある。
仏教関係の観光団の人は、どちらかというと共通点を模索して仏蹟を巡礼する。
ビジネス関係の人は、その世界観の相違と言おうか、考え方の相違に悩まされ、日夜その調整に苦慮する。
私は学生時代にインドを一周して、「この国は20年住んでみないと理解出来ない」と思い知った。ようやく在住歴が通算20年を超えた今、多少インドのことが見えてきたところである。(中略)
私の体験に基づき、感性に響くものの見方でインドを見たものが本書である。異論、反論、批評、非難、反対をいただくことを覚悟の上で、独断を敢えて公にする次第である。少しでも多くの方がインド人とつきあう際に、お役に立てていただければ、望外の幸せである。
ダイヤモンド社、清好延『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』P2-5
「最近、私が強く感じることは、インドは数千年変わらぬところもあるが、5年前のインドを語る人はもはやインドの専門家とは言えないし、インドはこうであると断定する人は、インドの変化に対応出来ない、ということである。」
う~む、これはなかなかに手厳しい見解です。私はここしばらく古代インドから遡り仏教のことを学んでいるのですが、2500年前どころか5年前ですらインドにとっては変化して通り過ぎてしまった過去なのだそうです。
たしかに変わらぬものはありつつも変化し続けるというのはインドに限らずどこの国でもそうだと思います。
「仏教関係の観光団の人は、どちらかというと共通点を模索して仏蹟を巡礼する。」
たしかに私も僧侶としてインドを考えようとするとどうしてもこのような立場になってしまいがちです。ですがよい意味でこの本はそうした固定観念を壊してくれるありがたい作品となっています。
そして本書終盤の第五章「インド人とのつきあい方」で興味深いことが語られていました。少し長くなりますが重要な指摘ですのでじっくり読んでいきたいと思います。
ビジネスをやる人間は、上流階級のインド人と渡り合わなくてはならない。
研修生がインド通になる
インドは理解しにくい国であるという認識と、これからの重要な市場であるという判断から、研修生を送り込む企業が出てきている。その研修期間は、数カ月から数年間とばらつきがあるようである。数年がかりの研修生たちは、インドの大学などに入り、インド人と共に学ぶ。その前にヒンディー語を修める者もいるようだ。
好奇心のある人間にとって、インドを知ることはたまらない魅力である。ただ、そこに落とし穴がある。
企業の社員であれば、やらねばならない仕事がある。研修生の間は、会社に対して通常の仕事の責任はない。言ってみれば、インドを知るために何をやっていても良いわけである。そこで、貧乏旅行を始めたりする。この貧乏旅行は、比較的治安の良いインドではたまらなく面白い。
ヒンディー語が話せ、ある程度インド社会のコツを習得した若い研修生にとって、バックパッカーまがいの生活は麻薬のように止められない習慣性を持つもののようだ。付き合う人々は純粋で、食べ物は美味で、お金はかからず、人情に触れながらあっという間に1年が過ぎる。こうして、すっかり〝インド通〟が出来上がる。インドのどこへ行っても対応でき、どんなことにも驚かずに対処でき、インド人とも十分意思の疎通ができる。それだけインドに慣れた状況となる。
確かに彼らは、バス旅行や2等列車の旅行で出会う人たちや、町の路上屋台の食べ物屋とのやり取りや、チャイを購う茶店でのやり取りには習熟し、快適に過ごせるであろう。
しかし、一流ホテルのパーティの人込みの中で会話をしたり、あるいは飛行機の中で隣に座ったVIPと知りあったり、役所で次官クラスの人たちとやり取りすることに習熟したのであろうか。インドでの商談や事業は、一般庶民の感覚とは離れた人口の数%のインド人たちとやるわけで、庶民の中でのインド慣れは通用しない場合のほうが多い。
研修生たちに忠告したい。一般庶民の生活環境を理解することも大切であるが、上流階級、高級官僚、金儲けを目的とする事業家たちとのやりとりに習熟することのほうが企業から派遣されている皆さんには重要であること理解してもらいたい。
ダイヤモンド社、清好延『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』P279-281
「インドでの商談や事業は、一般庶民の感覚とは離れた人口の数%のインド人たちとやるわけで、庶民の中でのインド慣れは通用しない場合のほうが多い。」
私達はバックパッカー的な旅を通してのインドを想像してしまいがちです。私達の生活とは全く異世界の不思議なインド、そのイメージが強烈にあることでしょう。そしてそのインドもインドであることにちがいないのですが、それもあくまでインドの一部。それがインドそのものではないということに私は改めて気付かされたのでした。
よくよく考えればまさにそうですよね。日本ですらその人その人の考え方や社会構造は違います。それをひとまとめにしてしまうことは大事なことを見落とすことになってしまいます。
インドには庶民もいれば上級階級もいる。そうした当たり前のことが意外と忘れられてしまうという、ある意味盲点とも言えるポイントがここで指摘されていたのでありました。インドの多様性、複雑さを改めて考えさせられました。
この本はあくまでインドでビジネスをする人のために書かれた本ではありますが、それだけではなくインドそのものに興味のある方にもとてもおすすめな作品です。謎の国インド。日本とは全く違う世界観、人間観がここにあります。異文化を学ぶという意味でも非常に興味深い作品です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
以上、「清好延『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』~謎の国インドと日本人との違いを知れるおすすめ本!」でした。
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