MENU

本村凌二『興亡の世界史第04巻 地中海世界とローマ帝国』あらすじと感想~ハンニバルやカエサルについても詳しく知れるおすすめ参考書

目次

本村凌二『興亡の世界史第04巻 地中海世界とローマ帝国』概要と感想~ハンニバルやカエサルについても詳しく知れるおすすめ参考書

今回ご紹介するのは2007年に講談社より発行された本村凌二著『興亡の世界史第04巻 地中海世界とローマ帝国』です。

早速この本について見ていきましょう。

人類の今後を占ううえで、「人類の経験のすべてがつまっている」といわれる古代ローマ史ほど、参考になるものはない。小さな都市国家を強大化に導いた、「共和政ファシズム」の熱狂的エネルギー。猛将・ハンニバルが率いるカルタゴとの死闘。カエサルとアウグストゥスに始まる帝政。地中海はもちろん、ブリテン島から中東にいたる「世界帝国」の現出。そして、ローマ帝国が終焉を迎えた時、古代文明はどのように変貌していたのか。

Amazon商品紹介ページより(私が読んだのは単行本版ですがこの紹介は文庫版を引用しました)

この作品はタイトル通りローマ帝国の興亡の歴史の解説書になります。この本でありがたいのはローマ帝国の歴史はもちろん、ギリシャやカルタゴなど地中海諸国との関係性も網羅している点にあります。

そしてハンニバルやカエサルについての解説も豊富にあるのも嬉しいです。

ローマ帝国の長い歴史をまとめるとなるとどうしてもひとつひとつの出来事については薄くなってしまいがちです。ですがこの本ではあえてそこを割り切り、ハンニバルとカエサルという超ビックネームについて手厚く解説を加えています。私としてもカエサルとハンニバルについてもっと知りたいなと思っていたところでしたのでこれはありがたい解説でした。

もちろん、他の人物についてもわかりやすくてドラマチックな解説がなされていますのでご安心ください。この本は最初から最後まで一つの小説を読んでいるかのような面白さです。

そして上の本紹介にも出てきた「共和政ファシズム」についての解説も非常に興味深いものがありました。

『共和制』と言えば現代に生きる私たちにとっては「いいもの」というイメージが浮かんできますがその弱点がまさしくこのローマ帝国で浮かび上がっています。

国を動かす政治家たちが皆腐敗してしまったらどうなるのか。

「パンとサーカス」という国民の人気取りが上手い人物が勝つ社会はどうなっていくのか。

国を憂いて改革しようとすると失脚させられたり暗殺される社会。優秀で人より抜きんでると嫉妬され「共和制」の名の下に攻撃される議会。

共和制が完全に機能不全を起こしていたのがローマ帝国なのでした。もちろん、それがうまく機能していた時代もありましたが、その機能不全をどう克服するかという葛藤がカエサルやその後の指導者との間で行われていくことになります。

ローマ帝国の歴史を学べば様々なことが見えてきます。

本書のまえがきでも次のように述べられていました。

人類の経験のすべてがつまったローマ史

この「興亡の世界史」シリーズのなかでも、ローマ帝国はもっとも関心の深い国家であり、あるいは文明であるとまで言えるかもしれない。戦後日本を代表する知識人であった政治思想史家の丸山真男は、ある対談のなかで「ローマ帝国の歴史には人類の経験のすべてがつまっている」と語っているほどである。

紀元前八世紀半ばに生まれた小さな村落がほどなく都市国家となり、やがて近隣諸国を併合してイタリアの覇者となった。それにとどまらず、西地中海域にも東地中海域にも勢力をのばし、前二世紀半ばにはもはや地中海世界に並ぶものもない世界帝国へと変貌していたのである。いかにしてこのような興隆がありえたのだろうか。それは同時代の古代人にとっても、とてつもない驚異であったらしい。

それだけではなく、それほどの大いなる覇権が数世紀にわたって維持され、「ローマの平和」Pax Romanaのなかで安寧と繁栄がつづいたのである。これに比せられるかどうかは別にして、二〇世紀に生まれた社会主義国家のソ連はわずか七〇年ほどで同世紀のなかで姿を消してしまった。「自由」を標榜したローマ人は数百年間もその勢力を保持したのであるが、「平等」をかかげた社会主義国家はわずか数十年で崩壊してしまった。ここには「自由」と「平等」に思いをはせながら、人類の行く末を案じるための素材が満ちあふれていると言ってもいいだろう。いわば古代史と現代史との対話でもあるのだ。

講談社、本村凌二『興亡の世界史第04巻 地中海世界とローマ帝国』P14-15

「いわば古代史と現代史との対話でもあるのだ。」

まさに歴史を学ぶことの醍醐味がここにあるように思います。

とても面白い本でした。ローマ帝国に興味のある方にぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「本村凌二『興亡の世界史第04巻 地中海世界とローマ帝国』~ハンニバルやカエサルについても詳しく知れるおすすめ参考書」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

地中海世界とローマ帝国 (興亡の世界史)

地中海世界とローマ帝国 (興亡の世界史)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
佐藤幸三『図説 永遠の都 カエサルのローマ』あらすじと感想~フォロ・ロマーノのおすすめガイドブック! この本はとにかく写真や図版が大量に掲載されていて現地の様子をイメージするのにとても助かります。 私も現地での散策にも大助かりでした。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
ナショナルジオグラフィック『ローマ帝国 誕生・絶頂・滅亡の地図』あらすじと感想~ローマ帝国の歴史を... 古代ローマの歴史を学ぶにはまずこの本でざっくりとした流れを掴んでから他の参考書に進んでいくとスムーズだと思います。 ローマ帝国に興味があるけど何を読んだらわからないという方にぜひともおすすめしたい1冊です。

関連記事

あわせて読みたい
ローマおすすめ参考書一覧~歴史、文化、宗教、芸術!ローマがもっと面白くなる名著を一挙ご紹介! ローマはあまりに奥が深い。そして知れば知るほどはまってしまう底なし沼のような存在です。私もこのローマの浪漫にすっかりとりつかれてしまいました。
あわせて読みたい
僧侶ならではのローマおすすめ観光スポット15選!王道からマニアックな教会まで美の極致を味わう この記事では私も大好きなローマのおすすめ観光スポットをご紹介していきます。 サン・ピエトロ大聖堂やコロッセオなどの有名どころだけではなく、観光客があまり訪れないマニアックな教会もこの記事ではご紹介していきます。 ローマは実に素晴らしい街です。ですがあまりに見どころが多すぎるが故の罠もあります。ぜひ当ブログの記事が皆様のお役に立てれば何よりでございます。
あわせて読みたい
(5)古代ローマの象徴コロッセオとゲーテ・アンデルセン~文人たちを魅了した浪漫溢れるその姿とは ローマ観光の定番中の定番のコロッセオでありますが、やはりここは面白い。その巨大な姿による圧倒的な視覚効果はもちろん、歴史的な背景も非常に興味深いです。 現代でこそ発掘と保全が進み今のような姿となっていますが、実は19世紀後半までのコロッセオは草の生い茂る牧歌的な姿をしていました。
あわせて読みたい
(8)ミケランジェロ・ベルニーニも絶賛したパンテオン!ローマ建築最高峰の美がここに! あのミケランジェロとベルニーニが褒め称えたパンテオン。 古代ローマ建築の頂点パンテオンはルネサンスにも絶大な影響を与えていました。 ローマ帝国の叡智の結晶たるパンテオン。西暦125年頃からずっとこの姿を保っているというのは驚異的としか言いようがありません。あのコロッセオですらもはや廃墟のような姿です。それに対してここは完全に現役のままです。ローマ帝国の技術力には唖然とするしかありません。
あわせて読みたい
映画『テルマエ・ロマエ』あらすじと感想~古代ローマを学んでから観たこの映画が想像以上に素晴らしか... 私はかつてこの映画を観たことがありました。ですが今回ローマ帝国のことを学んでから改めてこの映画を観たことで、前回とは全く違った印象を受けることになりました。 笑えるシーンが満載のこの映画ですがローマ帝国の繁栄、衰退についても丁寧に描かれていたということを改めて感じたのでありました。
あわせて読みたい
シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』あらすじと感想~カエサルの名言「ブルータス、お前もか」で有... 「賽は投げられた」、「ルビコン川を渡る」、「来た、見た、勝った」、「ブルータス、お前もか」 これらを見てピンとくる方もおられると思います。 私自身、ジュリアス・シーザーという名ではピンと来なかったのですが、この人物のローマ式の本名はと言いますと、ガイウス・ユリウス・カエサルとなります。 『ジュリアス・シーザー』は私の中でも強烈な印象を残した作品でした。あらすじや背景を知ってから読むと最高に面白い作品でした。非常におすすめです。
あわせて読みたい
シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』あらすじと感想~シーザー亡き後のローマ帝国が舞台!愛に... 今作『アントニーとクレオパトラ』は以前紹介した『ジュリアス・シーザー』の続編にあたる作品です。 この作品は『ジュリアス・シーザー』からの流れで読んでいくと、ローマ帝国の壮大な栄枯盛衰を感じられて非常に面白い作品となっています。 この作品だけを単独で読むのはかなり厳しいとは思いますが『ジュリアス・シーザー』を読んだ後にこの作品を読めばその面白さを感じることができるのではないかと思います。 ぜひ『ジュリアス・シーザー』とセットで読んで頂きたい名作です。
あわせて読みたい
エドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』あらすじと感想~ローマはなぜ滅びたのかを考察!偉人達も愛し... あれほどの繁栄を誇ったローマ帝国がなぜ崩壊していったのか。 繁栄を謳歌するローマ帝国内で何が起こっていたのか。 それらを考えるのにこの作品はうってつけです。 そして歴史の流れを追いながら現代にも通ずる教訓がこの本では語られます。これが深いのなんの・・・!
あわせて読みたい
A・エヴァリット『キケロ もうひとつのローマ史』あらすじと感想~古代ローマの哲学者キケロのおすすめ... ローマ帝国と言えばカエサルというイメージが強い中、この本では主人公キケロを中心にローマ史を見ていきます。英雄の物語ではなく、ある意味敗者と言ってもいいキケロから見た古代ローマを見ていけるこの作品は非常に興味深いものがありました。 独裁を目指したカエサル。それに対し共和制を守り、立て直そうとしたキケロ。 この本はこの2人の立場の違いがはっきりとわかる名著です!
あわせて読みたい
カエサル『ガリア戦記』あらすじと感想~ローマ帝国の英雄による不滅の傑作!弁論の達人キケロも羨むそ... ローマの雄弁家キケロが絶賛するしかなかったカエサルの『ガリア戦記』。ぜひその名著を読んでみたいと手に取ってみたのですがこれは大正解。「こんな作品が古代ローマにあったのか」と驚くことになりました。英雄カエサルは文才も超一流でした。
あわせて読みたい
石鍋真澄『教皇たちのローマ』あらすじと感想~15~17世紀のローマ美術とバチカンの時代背景がつながる... 私はこの本に衝撃を受けました。それは私の中にあった常識が覆されたかのような凄まじいショックでした。 この本ではそんな衝撃のローマ史が語られます
あわせて読みたい
P・マティザック『古代ローマの日常生活』あらすじと感想~古代ローマ人はどのように暮らしていたのか!... この本は紀元137年、ハドリアヌス帝治世下のローマの一般庶民の生活について語られた作品です。 この本では古代ローマ人の職業や暮らしが生活感たっぷりで語られます。まるで彼らの生活を覗いているかのような気分になれる作品です。 ものすごく面白い本でした。知的好奇心がこれでもかと刺激される逸品です。
あわせて読みたい
ウェルギリウス『アエネーイス』あらすじと感想~古代ローマの建国神話!ギリシアとの関係性も知れるラ... ウェルギリウスはまさしくこの作品でローマ人の誇りを生み出す建国神話を創造したのでした。 『アエネーイス』を読めば、ウェルギリウスが『イリアス』や『オデュッセイア』など、ギリシアを強烈に意識して書いているのがはっきりわかります。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次