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岩根圀和『スペイン無敵艦隊の悲劇』あらすじと感想~アルマダ海戦や海賊ドレイク、スペインの没落を知るのにおすすめ!

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岩根圀和『スペイン無敵艦隊の悲劇 イングランド遠征の果てに』概要と感想~アルマダ海戦や海賊ドレイク、イギリス海上覇権の始まりを知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2015年に彩流社より発行された岩根圀和著『スペイン無敵艦隊の悲劇 イングランド遠征の果てに』です。

早速この本について見ていきましょう。

世界史を変えた海戦の真相は、正確に伝わっていなかった…。初めてスペイン側の史料から、戦いの実像を再現する画期的な試み!フェリペ二世、メディナ・シドニア公、パルマ公、メンドサ大使等の書簡を精読のうえ、スペイン内部から(艦隊の)イングランド遠征の流れを組み立て、イギリスの資料も睨みながらスペイン艦隊の動きを追った。

Amazon商品紹介ページより
アルマダの海戦を描いた『無敵艦隊の敗北』(Defeat of the Spanish Armadaフィリップ・ジェイムズ・ド・ラウザーバーグ (en画、1797年Wikipediaより

この本は有名なスペイン無敵艦隊が敗北したアルマダ海戦の流れを詳しく追っていく作品になります。

1588年、イギリスがスペイン無敵艦隊を破り、それによってスペインは没落、イギリスの海上覇権が決定的になったこの海戦。

スペイン無敵艦隊の撃破は上の絵にありますように、有名な海賊ドレイクの活躍やイギリス艦隊の華々しい勝利として語られがちですが、実はこの海戦はそのようなシンプルな筋書きではなかったということをこの本では知ることになります。

本書のあとがきでこの本について著者は次のように述べています。

スペイン艦隊を迎え撃ったイングランドの戦いは一五八八年七月三十一日にリザード岬沖に敵艦隊が現てからカレー沖の火船攻撃を経て北海へ抜けるスぺイン艦隊を八月十三日にニューカッスルの東三十マイル(一四四キロ)で放尾した時点で終わった。二週間足らずの戦闘であった。スペイン艦隊が兵隊を三万であれ四万であれ、たとえ一〇万の兵士を満載していたとしてもイングランドの土地さえ踏ませなければ無用の長物である。イギリス艦隊の任務は敵艦隊をイングランドの沿岸から引き離し、フランドル軍との合流を阻止すればよかった。そしてその作戦は大成功を収めたのである。

しかるにスペインの戦いは五月二十八日にリスボンを出撃してからコルーニャを経てカレーから北海を抜けてアイルランドを回り、船と人員の数を半分に減らしてスペイン沿岸へ到着するまで終わらなかった。遠征する側の宿命でもあろうか、これを敗戦と呼ぶか、作戦の失敗と称するか意見は分かれるが、いずれにせよ四ケ月以上の遠征であった。十月末になっても幽霊船となって漂着してくる船があった。さらには十一月になってからもよろめくように入港してくる船があったと言う。彼我にこれだけの差があったのである。あれだけの犠牲を払いながらスペインには何も得るところはなかった。はたしてあの大遠征に意味はあったのかスペインは黙して語ろうとしない。同時代の文学である『ドン・キホーテ』にもひとことも触れられることはなかった。もっとも『ドン・キホーテ』全体がスペイン艦隊派遣に対するセルバンテスの暗黙の批判であるとする説もあるのだがいかがなものだろうか。

この後もフェリぺニ世は三回に渡ってイングランド遠征艦隊を編成しているがいずれも規模が小さく、しかも途中で嵐に遭遇して難破、多大の犠牲者を出して失敗に終わっている。次のフェリぺ三世も小規模ながら遠征艦隊の派遣を二度試みるがやはり嵐に遭遇して悲惨な結果をたどっている。いずれも第一回目のイングランド遠征ほどの意気込みも覇気も見られず、自ずと規模も縮小されたうえにイングランドへ到達する前に嵐で吹き戻され、あげくに難破して自滅している。

スぺイン艦隊についてこれまでの著作や翻訳された書物は参考文献を見る限りイギリス側の資料を拠り所にしてイギリスの戦勝を讃えるものが多いと思える。スペインとイギリスが戦ったのにスぺイン側の資料が沈黙したままでは不都合であろう。スペインにも膨大な資料が保存されている。本書ではフェリぺ二世、メディナ・シドニア公、パルマ公、メンドサ大使等の書簡を精読のうえ、スペイン内部からイングランド遠征の流れを組み立て、イギリスの資料も睨みながらスペイン艦隊の動きを追っていった。

彩流社、岩根圀和『スペイン無敵艦隊の悲劇 イングランド遠征の果てに』P317-318

この作品ではアルマダ海戦が行われるその背景から詳しく知ることができます。

スペインがなぜイギリスと戦わなければならなかったのかということがわかると、この海戦の意味が非常にクリアになってきます。

当時のヨーロッパの時代背景がこの海戦に凝縮されていると言ってもいいかもしれません。

私は最近フェルメールにはまり、その過程でオランダの歴史も学ぶことになりました。フェルメールの絵が生まれてくる背景にこの海戦がものすごく大きな影響を与えているというのは非常に興味深いものがありました。

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オランダは1568年にスペインに対して宣戦布告し、独立戦争を始めました。

それに対しスペインはその動きを阻止するために軍を送りますが戦果は上がらず、莫大な戦費がかかっていました。

そこにさらにイギリスの暗躍があり、ドレイクをはじめとした海賊船にも苦しめられることになります。

スペインの主要な資金源であるアメリカ大陸からの積み荷が強奪される。これはスペインにとって悪夢のような展開です。これでは戦争も継続できません。そもそもスペイン財政は火の車。これは何としても阻止したい。

そしてついに業を煮やしたスペインはイギリスを叩こうとなったのでした。

ですが、この本を読んで驚いたのですがスペイン無敵艦隊の目的はイギリス艦隊をやっつけるところにありませんでした。

なんと、オランダ側からイギリスに上陸する軍隊を無事に送り届けるための警護が主要任務だったのです。

アルマダの海戦を描いた『無敵艦隊の敗北』(Defeat of the Spanish Armadaフィリップ・ジェイムズ・ド・ラウザーバーグ (en画、1797年Wikipediaより

上でも紹介したこの絵ですが、こういう勇ましい戦闘をしに行くために出発したわけではなかったのです。

さらにいえば、そもそもこういう激しい戦闘すら実際にはほとんど行われていません。船や乗組員のダメージのほとんどは悪天候や病気、そもそもの航海の困難によるものでした。

さらに重装備のスペイン巨艦に対し小回りの利くイギリス船。さらにイギリス側は食料などの補給も簡単にできます。

こうした様々な要因が重なりスペインはほぼ戦わずして散っていくことになります。

そもそもの任務が戦闘ではなかったものの、さすがに苦しい敗戦になりました。

この辺りのちぐはぐさもこの本では余すことなく語られます。これは非常に興味深いものがありました。

そしてこの海戦の資金を集めるための徴税官として勤務していたのがあのセルバンテスです。セルバンテスは『ドン・キホーテ』を書く前にこうした仕事をしてなんとか生活をしのいでいたのでした。そうした経験も『ドン・キホーテ』に反映されています。こうしたことを考える上でもこの作品は非常に興味深いものがありました。

ものすごく面白い本です!これはぜひぜひおすすめしたい作品です。当時のヨーロッパ事情を知る上でも大いに役に立つこと間違いなしです。

ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「岩根圀和『スペイン無敵艦隊の悲劇』アルマダ海戦や海賊ドレイク、スペインの没落を知るのにおすすめ!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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