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『[新装版]赤瀬川原平が読み解く全作品 フェルメールの眼』あらすじと感想~画家で芥川賞作家の著者が語るフェルメールの魅力とは

目次

『[新装版]赤瀬川原平が読み解く全作品 フェルメールの眼』概要と感想~画家で芥川賞作家の著者が語るフェルメールの魅力とは

今回ご紹介するのは2012年に講談社より発行された赤瀬川原平著『[新装版]赤瀬川原平が読み解く全作品 フェルメールの眼』です。

この作品の内容に入る前に著者のプロフィールを見ていきましょう。

赤瀬川/原平
1937年、横浜生まれ。本名、赤瀬川克彦。画家、作家、路上観察家、エッセイスト、写真家など多彩な顔をもつ。武蔵野美術学校中退後、グループ「ネオ・ダダ」を結成、読売アンデパンダン展などで活躍。63年、千円札模型作品を発表し、後に裁判となる。高松次郎、中西夏之氏とハイレッド・センターを結成。79年、尾辻克彦の筆名で発表した『肌ざわり』が中央公論新人賞。81年には『父が消えた』で芥川賞、83年には『雪野』で野間文芸新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

Amazon商品紹介ページより

ここにありますように、著者の赤瀬川原平さんは画家でありながら芥川賞受賞作家という異色の経歴の持ち主です。

そんな著者が語るフェルメール評が今作『[新装版]赤瀬川原平が読み解く全作品 フェルメールの眼』となります。

この作品の「むすび」で著者は次のように述べています。少し長くなりますがこの本の雰囲気を知るのにうってつけですのでじっくり読んでいきます。

フェルメールの絵はいつも冷静で、級密で、科学的である。描写の参考にカメラオブスキュラを使ったという事実を知らなくても、その絵を見るだけで科学的なものを感じるし、科学的方法、科学的性分のようなものを感じてしまう。

その一方で、絵の全体からは神秘的な、奇跡を見るような感銘を受ける。あり得ないものがそこにあるという感じ。

ぼくは奇跡というものをはっきりとは知らないが、その要点は、ふつうではあり得ないものがそこにあるということだろう。

昔から絵画というのは、その奇跡の疑似的な一つの方法だったと思う。現実描写、自然描写というのは、目に見えるものを本物そっくりに描き出すことで、それが本当にそっくりにいったときに、見るものはそこに奇跡に近いものを感じる。え?本当にこれを人間の手で描いたの?という驚き。ふだん自分の手の働きの限界を知っているから、よけいその実現に驚く。カメラ以前には、とくにその驚きが強くあった。何もない白い画面に、本物そっくりのものが現れる。無のところにこの世のものを創造した神の仕業の、小さな模型である。

だから画家たちはいろんな面で本物そっくりに描こうとして、人々はその画面上の天地創造に引きつけられる。写真ができるまではその力が決定的だった。

おそらくフェルメールがその頂点だったと思う。カメラはまだ世にない。でも次第に近づいてきていた。人間の目と手を超えた機械の力が、少しずつ予感されてくる。

人間の手仕事は、どうしても人間臭いものである。人間臭さというのは、何もない無機的なところでは珍重されるけど、まわりが人間だらけのところではむしろ野暮ったく感じられる。絵を描いても、できるだけそっくりに描いたつもりが、やはり描写力には限界があり、その限界から先に人間臭さが出てしまう。その人自身の手の癖、観念の癖が出てしまい、それを個性といえばいえるけど、〝奇跡〟への可能性はそこで終わる。

そういう人間の位置を超えたいという思いがあって、フェルメールはカメラオブスキュラをのぞいたのだろう。

いまから見ると、そういうフェルメールのおこないは科学への接近だけど、もう一つの気持ちとしては神秘への接近である。人間の目の限界を超えて、この世の真理と思われるニュートラルな目に至ること、それは人間の目を超えた神の目への接近である。フェルメールは無機的なレンズを通した映像、カメラオブスキュラをのぞきながら、透明な神の位置にいることを感じたはずだ。

科学の確立していない時代に、科学的なことは人間超越を可能にする神秘的なことである。

人間はいつだって人間を超えたいと思っている。科学がたんなる科学技術となってしまった今日、人間はなおも人間を超えようとして、超常的な非科学現象に憧れている。

フェルメールの絵と、現代のスーパーリアリズムを比べればよくわかる。フェルメールの絵には人間が人間のままで人間を超える緊張感があふれている。一方、現代のスーパーリアリズムには、人間を超えたはずの科学が、技術となって人間の位置に没してしまった倦怠があふれている。

ぼくはフェルメールの絵の静かな緊張が好きだ。人間を超えるものとして科学があった時代の、科学による神秘体験が描かれている。それが、ぼくらがフェルメールの絵を見るときの、フェルメールのリアリズムの嬉しさである。それはかけがえのないものである。

人間は同じ体験をすることはできない。その体験を想像して理解することはできても、そこまでだ。いまの科学技術の時代に、ぼくらはどんな〝フェルメールをする〟ことができるのだろうか。

講談社、赤瀬川原平『[新装版]赤瀬川原平が読み解く全作品 フェルメールの眼』P108-109

いかがでしょうか。ものすごく格好いい文章ですよね。しかもフェルメールの魅力がこんなに劇的に語られていることに私は衝撃を受けました。画家の視点と、芥川賞を受賞した言葉の力・・・!いやぁすごい!憧れてしまいます。

そしてこの本の中で一番印象に残った絵画紹介は何と言っても『デルフトの眺望』です。私がフェルメールにはまるきっかけとなったのがこの絵なのですが、なんと、赤瀬川さんもこの絵がフェルメールとの最初の出会いだったそうです。この作品についての語りが本当に素晴らしかったのでぜひ紹介したいと思います。

『デルフトの眺望』Wikipediaより

濃密な空気感

フェルメールの存在を、はじめて知ったのは高校生のとき、この「デルフトの眺望」が最初だった。絵の上で一歩先を行く先輩格の友人たちがこの絵は凄いといっている。ぼくも負けじとこの絵を見たが、風景がしっかり描かれていてうまいとは思ったものの、でも凄いとまではまだ思えなかった。

「この手前の点景人物の二人が凄いね。これでぐっと絵がしまっている。この人物がいなかったら緊張感がなくなるよ」

といって、その友人は指先で人物を隠した。そうすると、たしかに絵から何か肝腎なものが抜けたようになるのだ。

なるほど、そういうことがあるのかと思って、この「デルフトの眺望」へのぼくの目がぐっと見開かれた。

たしかにこの絵の中でのこの人物の力は素晴らしい。碁盤の上で、その勝負を決定づける位置に、ピタリとニつの碁石が置かれたみたいだ。

そんなところからこの絵の中に入っていくと、描かれている要素の一つ一つが、濃厚に感じられてくる。

ぼくは頭の中で、絵をパノラマ画面のような、横長の絵だとずっと思い込んでいた。今回あらためて見てみると、むしろ正方形に近いので驚いている。

気がつくと空のスぺースがずいぶん取ってあるのだ。それがはじめて見たときには意識を通り過ぎて、記憶から消されて、でも無意識経由でぼくの感動を裏打ちしていたのだろう。

あらためて見て、頭上の雲の不安がこの風景画の陰のテーマなんだということがわかる。近景から中景の、川面や建物がどんよりとした陰の中に沈んでいる。でも遠景に一部日の当たった屋根などが見えていて、それが手前のどんよりとした空気の感じを際立たせている。デルフト、つまりオランダの天気は、日本でいうと北陸とか山陰の、急に空が曇って時として雹が降ってくるような、そういうものじゃないだろうか。

そうやってこの場所の空気が緻密に感じられてくると、この川辺にいる人物たちの話し声が、その空気のレンズ効果もあって、すぐ耳のそばで聞こえるような気がするのだ。


講談社、赤瀬川原平『[新装版]赤瀬川原平が読み解く全作品 フェルメールの眼』P48-50

漠然と見るだけでは気づくことができない絶妙なポイントをこの解説で知ることができますよね。

私もこの作品について改めて考えさせられました。

そして他にも「牛乳を注ぐ女」の解説も秀逸です。

「牛乳を注ぐ女」Wikipediaより

ここでは長くなってしまうので紹介できませんが、ぜひ読んで頂きたい名文です。この作品の魅力が凝縮された素晴らしい解説です。これを読めば「牛乳を注ぐ女」のすごさにきっと驚くことでしょう。ぜひぜひおすすめです。

この本はフェルメールの全作品をこうした解説付きで見ていける素晴らしい作品です。

作品によっては著者の好みもかなり反映されている面もありますが、それも味です。そうした著者の言葉に対して自分がどう思うのかというのも重要な問題だと思います。

この本はぜひおすすめしたいフェルメールガイドブックです。

以上、「『[新装版]赤瀬川原平が読み解く全作品 フェルメールの眼』画家で芥川賞作家の著者が語るフェルメールの魅力とは」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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