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富田武『シベリア抑留』あらすじと感想~ソ連による戦後の過酷な強制労働の歴史を知るのにおすすめの参考書

目次

シベリア抑留を学ぶのにおすすめ 富田武『シベリア抑留』概要と感想

今回ご紹介するのは中央公論新社より2016年に出版された富田武著『シベリア抑留』です。

早速この本について見ていきましょう。

第2次世界大戦の結果、ドイツや日本など400万人以上の将兵、数十万人の民間人が、ソ連領内や北朝鮮などのソ連管理地域に抑留され、「賠償」を名目に労働を強制された。いわゆるシベリア抑留である。これはスターリン独裁下、主に政治犯を扱った矯正労働収容所がモデルの非人道的システムであり、多くの悲劇を生む。本書はその起源から、ドイツ軍捕虜、そして日本人が被った10年に及ぶ抑留の実態を詳述、その全貌を描く。アジア・太平洋賞特別賞受賞。

Amazon商品紹介ページより

北海道に住む私にとってロシアは身近な存在です。そして私の身近にもシベリア抑留を経験した方や、戦中戦後サハリンなどから引き上げてこられた方もおられます。

しかし、シベリア抑留という悲惨な出来事があったということは知ってはいつつも、ではその実態がどのようなものだったかというと私はあまり知りませんでした。

独ソ戦を学ぶ過程で、やはり改めて日本人も苦しんだシベリア抑留について学びたいなと思いこの本を手に取ったのでした。

この本の特徴について著者は「まえがき」で次のように述べています。少し長くなりますがこの本の内容が端的に示されていますので引用します。

本書は、通念としての「シべリア抑留」をより大きな地理的広がりと歴史的文脈に位置づけ直し、多面的に議論して内容を豊かにする狙いで執筆する。重要な要素は以下の四点である。

第一に、第二次世界大戦におけるソ連の捕虜収容所は、国内の矯正労働収容所(政治犯・刑事犯対象)をモデルに、同じ内務人民委員部(のち内務省)の管轄下に設けられた。このニつの収容所は、戦中からスターリン死去に至る期間ほぼ並存していた。日本人抑留も、この巨大な「収容所群島」(ソルジェニーツィン)の一環だったのである。

第二に、同じく捕虜となったドイツと同盟国の将兵についてである。彼らはドイツ人二〇〇万余を含めて約三〇〇万人に及んだ。数が日本人より多いだけではなく、彼らのために作られた規則、システムが日本人捕虜に適用された。ドイツ人捕虜研究者は日本にいないが、二〇一五年にドイツのアンドレアス・ヒルガー博士を招いてパネルとワークショップを開いたことにより、われわれの認識が深まった。

第三に、資料が乏しく触れられることがほとんどなかった「ソ連管理地域」の南樺太・北朝鮮における民間人抑留についてである。そこではソ連国内のように鉄条網で囲まれ、監視塔を四隅に配した捕虜収容所は、ごく一部しか存在しなかった。しかし脱出が不可能または困難であり、自由が大きく制限されたという意味では、抑留に他ならなかった。

第四に、従来「シベリア抑留」として取り上げられてきたソ連・モンゴル抑留についても論ずる。ただし、従来の研究のようにソ連の政策と日本人の回想記を直結して事足れりとするのではなく、共和国・地方・州、そして収容所という中間項を分析対象に組み込み、立体的でリアルな実像を描く。そのケーススタディとして、ハバロフスク地方を取り上げ、捕虜管理、収容所運営面で対照的なモンゴル(モンゴル人民共和国)にも言及する。(中略)

ドイツ人・日本人で「戦犯」とされた捕虜の多数は、矯正労働収容所で働かされた。遡れば、スターリンによる一九三〇年代の国内弾圧、矯正労働収容所拡大は、単に独裁者の野望から生まれたものではなく、日独に挟撃される戦争の恐怖に基づいていたことも指摘される。

本書により、シべリア抑留が日本人固有の悲劇ではなく、内外数千万の人々を苦しめた「スターリン独裁下の収容所群島」の一環であったことを世界史的視野から構造的に理解してくだされば幸いである。

中央公論新社、富田武『シベリア抑留』Pⅲーⅴ

この本の大きな特徴はシベリア抑留を「ソ連と日本人」という限られた枠ではなく、世界規模で展開されたソ連の政策として見ていく点にあります。

ソ連がその国内に大量の収容所(グラーグ)を作り、そこに膨大な人数を収容し強制労働させていたことはこれまで当ブログでも「『共食いの島 スターリンの知られざるグラーグ』~人肉食が横行したソ連の悲惨な飢餓政策の実態」の記事で紹介してきました。

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シベリア抑留はその犠牲者がソ連国民ではなく、第二次世界大戦後に捕虜となったドイツ人や日本人を対象にしたものであったことをこの本では解説していきます。

そして独ソ戦の悲惨な犠牲の人的賠償として強制労働に就かせたことも語られます。

シベリア抑留は戦後日ソ関係独自の問題ではなく、それまでのソ連スターリン体制と独ソ戦の枠組みの中で生まれてきた巨大な出来事だったのです。

シベリア抑留と言うと日本人がソ連によって悲惨な目に遭わされたというイメージが浮かんできますが、ソ連の政治体制、独ソ戦の影響が大きく関わっていたことをこの本では知ることができます。

また、本の途中でいくつかコラムが挟まれ、ここでシベリア抑留をより知るためにおすすめな本が紹介されます。過酷な体験を基にした小説や回想録が紹介され、シベリア抑留をもっと知りたい方にとってありがたい情報が満載です。

シベリア抑留の全体像を掴むのにとてもおすすめな一冊です。

以上、「富田武『シベリア抑留』~ソ連による戦後の過酷な強制労働の歴史を知るのにおすすめの参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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