角山栄『茶の世界史』~紅茶はなぜイギリスで人気になったのか。茶から見る世界覇権の歴史を学ぶのにおすすめ!

茶の世界史 スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

角山栄『茶の世界史』概要と感想~紅茶はなぜイギリスで人気になったのか。茶から見る世界覇権の歴史を学ぶのにおすすめ!

今回ご紹介するのは1980年に中央公論新社より発行された角山栄著『茶の世界史』です。私が読んだのは2022年改版4版です。

早速この本について見ていきましょう。

十六世紀に日本を訪れたヨーロッパ人は茶の湯の文化に深い憧憬を抱いた。茶に魅せられ茶を求めることから、ヨーロッパの近代史は始まる。なかでもイギリスは独特の紅茶文化を創りあげ、茶と綿布を促進剤として伸長した資本主義は、やがて東洋の門戸を叩く。突如世界市場に放り出された日本の輸出品「茶」は、商品としてはもはや敗勢明らかだった。読者がいま手に茶碗をお持ちなら、その中身は世界史を動かしたのである。

Amazon商品紹介ページより

本作はイギリスの紅茶の歴史と文化を知るのにおすすめの作品です。

しかも単にイギリスの紅茶史の変遷を見ていくのではなく、日本や中国、インド・スリランカといった世界とのつながりからその流れを見ていけるのが本書の特徴です。

本書について著者はあとがきで次のように述べています。

長い間イギリス経済史を勉強してきた私は、歴史家として茶の歴史にひどく興味をかきたてられた。民衆の日常生活のもっとも身近なものをつうじて歴史を見直す、いわゆる「社会史」「生活史」が最近西洋でも日本でも歴史家の関心を集めている。しかし茶の生活史についてはほとんど未開拓で、わからないことが多い。それだけに茶に関する文献や資料の蒐集に多くの苦労をしたが、同時に資料をひとつひとつ手繰りながら、推理小説の謎解きのような楽しみと興奮を覚えたことは確かである。

こうした作業をつうじてはっきりわかったことは、近世ヨーロッパ資本主義の形成とそのグローバルな展開に、茶が想像した以上に大きな役割を演じたということである。しかも日本人はあまり意識していないが、茶が世界史をつくってゆく過程で、日本の茶の文化が意外に重要な役割を果したこと、また将来果すであろうことを発見したのも私の驚きであった。こうして一気に書き下ろしたのが本書である。

本書は、第一部 文化としての茶―緑茶vs.紅茶、第二部 商品としての茶―世界市場における日本の茶、から成る。

第一部は、ヨーロッパ人が東洋へきてはじめて茶を知った十六世紀中頃から始まる。彼らが興味をいだいた茶とは、たんなる飲み物としての茶ではなく、茶の湯に代表される「文化」としての茶であった。茶がヨーロッパに導入された過程で、それはイギリスにおいてもっとも適合的な飲料として定着し、イギリスはそれを紅茶文化として仕立て上げた。しかし東洋の緑茶文化が芸道・精神文化へ昇華したとすれば、紅茶文化はそれとはまったく対蹠的な物質文化として形成されるとともに、茶は「文化」から資本主義的「商品」になってゆく。そうした過程をあとづけたのが第一部である。

第二部は、開港後の日本茶の命運をテーマとしている。日本の茶は、室町時代以来日本人の生活に定着した伝統的「文化」を形成してきた。それが開港によって、「文化」から世界市場のための「商品」への転換を余儀なくされた。何の準備もなくいきなり世界市場へ放り出された「商品」としての日本緑茶が、世界市場で激しい競争に直面せねばならなかった相手は、中国茶であり、インド・セイロン紅茶であった。これらに伍して日本茶は濠州、ロシア、アメリカ、カナダの各地で善戦した。しかしインド・セイロン紅茶の攻勢の前にジリジリと後退を強いられ、第一次大戦前までには敗勢いかんともしがたい状態に追い込まれていた。茶を「文化」として宣伝しようとした日本側の努力は、物質主義が支配するアメリカやカナダ市場では、これを健康飲料として売り込んできたインド・セイロン紅茶の攻勢に抗することができなかったのである。そうした過程を、主として「領事報告」を資料として描いたのが第二部である。

ところで日本茶は「商品」としての競争に敗れたとはいえ、はたして茶の「文化」までともに滅びたといえるのかどうか。茶の世界史は近代物質文明における人びとの生き方を、私たちに問うているように思えるのである。

中央公論新社、角山栄著『茶の世界史』2022年改版4版P236-238

『茶は「文化」から資本主義的「商品」になってゆく』

本書で私が最も印象に残ったのはこの言葉です。

イギリスに茶がもたらされたのは1600年代に入ってからでした。その時は中国や日本などの進んだ「文化、文明」として茶を見ていました。

しかし時代を経て産業革命が進み、力関係が逆転したイギリスはもはや東洋の茶を「高尚な文化」とは見なさなくなり、単なる商品として見るようになった。この流れは非常に興味深かったです。

元来「文化」であった茶が「商品」になり、イギリスを中心に世界の日常の飲料となったとき、飲茶から思想が脱け、美が消えた。思想や美にかわって、健康と含有ビタミン量が重視され、資本主義的商品として、生産費と流通・販売の激しい競争にさらされることになった。こうして近代化は茶から思想や芸術を奪い、茶を物質におきかえたのである。そうすることによって、茶が国際性をもつことになった。

こうして茶は「文化」から「商品」へ転化する過程をつうじて、もっとも日常的な世界の飲み物となった。

中央公論新社、角山栄著『茶の世界史』2022年改版4版P228

「思想や美にかわって、健康と含有ビタミン量が重視され、資本主義的商品として」というフレーズはものすごい破壊力ですよね。

この本を読めば1600年代においては中国、日本が国力、軍事力、文化においてイギリスがどうにもできなかった存在だったということがよくわかります。本書内でも「東洋へのコンプレックス」という言葉でそれは表されていました。そのコンプレックスがあったからこそ産業革命で国力をつけた後に「東洋を非科学的で野蛮な存在」だと見下したということを感じられました。

これは面白い本です。茶を通して世界の歴史を学べる素晴らしい一冊です。

インドやスリランカの紅茶について知りたいと思い手に取った本書ですが、これは大当たりでした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「角山栄『茶の世界史』~紅茶はなぜイギリスで人気になったのか。茶から見る世界覇権の歴史を学ぶのにおすすめ!」でした。

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