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杉本良男『スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』あらすじと感想~上座部仏教の葬儀や現地の宗教と生活を知るのにおすすめ!

スリランカで運命論者になる
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杉本良男『スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』概要と感想~上座部仏教の葬儀や現地の宗教と生活を知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2015年に臨川書店によって発行された杉本良男著『フィールドワーク選書14 スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』です。

早速この本について見ていきましょう。

仏縁か、それとも運命なのか――
奇蹟的な出会いを繰り返し、はからずも人類学者は運命論者となる。スリランカ、インドでの30年の実地調査で足を踏み入れたのは、権謀術数うずまくイデオロギーと政治の世界だった。社会の基礎をなす言語、宗教、カースト制度を読み解きながら、南アジア地域を覆うナショナリズムの趨勢とその生活に迫る。

Amazon商品紹介ページより

この本はスリランカの宗教と現地の人々の実生活を知れる貴重な作品です。

スリランカの宗教は上座部仏教という、日本に伝わった大乗仏教とは異なる仏教です。上座部仏教そのものについてはここではお話しできませんが、インドで生まれた原始仏教の教えに近い形で信仰されているのが上座部仏教の特徴としてよく挙げられます。

そんな上座部仏教のいわゆる聖地的な存在として見られることも多いスリランカですが、現地では実際にどのようにその仏教が実践されているのか、そして現地の人々はどのように仏教教団と付き合っているのかということがこの本で語られます。

本書は書名にもありますように「フィールドワーク」を中心にした作品です。このことについて著者は「はじめに」で次のように述べています。

人類学は、「いまそこ」に暮らす生身の人間の生活のリアリティを唯一無二の「根拠」とする学問であるから、「フィールドワーク」によって、異郷の生身の身体をもつ人間と直接交流することが不可欠である。そして、人類学は、人との出会いと別れを繰り返す学問でもある。人類学は、研究者が見知らぬ土地で、見知らぬ人びととつながりを持ち、ひいては人類、人間が抱えるさまざまな問題を考えようとする学問だからである。人類学者の思考はつねに、調査地から出発し、調査地に足場をおき、調査地に帰る。そして、自分の故地に帰ってもさらに考え続けている。「フィールドワーク」とは、単に資料を蒐めるための営みなのではなく、人類学にとってのアルファでありオメガなのである。(中略)

本書の各章では、一九八一年からのスリランカでの経験を中心に、その後のインドでの調査の経験も「比較」材料として示しながら、三章九節にわたってお話することにしたい。

臨川書店、杉本良男『フィールドワーク選書14 スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』P8-10

著者は実際に現地に赴き、そこで人々と接しながら現地の宗教や生活文化そのものについて見ていきます。文献だけではわからない現地の微妙な問題や曖昧な部分まで見ていけるのが本書の魅力です。

特にスリランカにおける葬儀や結婚などの儀礼についてのお話は非常に興味深かったです。

よく「原始仏教では葬式をしないのだから日本の仏教はおかしい。そんなのは仏教ではない。タイやスリランカなどの上座仏教を見習わなければならない」という批判がネットやSNS上では出回るのですが、タイもスリランカも仏教教団が葬儀を行っています。特にこのスリランカでは年忌法要も行われており、死と仏教が強く結びついていることが明らかにされます。

「葬式仏教はだめだ」という批判がかねてからされがちではありますが、本来、「生と死」は一体のものです。死があるから生があり、生があるから死もあるのです。その「死」を通して生のあり方を問うていくというのは大切な営みです。葬儀はその「死」を通して「生」を問うていく大切な場です。葬式仏教への批判もありますが、これは人生において最も厳粛な「死」という問題に真っ向から向き合った結果でもあるのです。

スリランカでも仏教は「生と死」の問題と深く繋がっているということをフィールドワークという視点から見れたこの本はとても興味深かったです。

また、単に宗教的な側面だけでなく、政治経済面からもスリランカの宗教と実生活を知れるのもこの本のありがたい点です。「スリランカ=敬虔な仏教国」とだけ見てしまうと見誤るものが多々あります。実際にはかなり複雑な背景がそこにはあります。そうした社会の複雑さを知れるのも本書の魅力です。

これはいい本と出会いました。スリランカにもっともっと興味が湧いてきました。実際にスリランカを訪れる方にとってもこの本は非常に大きな刺激になると思います。

ぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「杉本良男『スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』~上座仏教の葬儀や現地の宗教と生活を知るのにおすすめ!」でした。

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スリランカで運命論者になる: 仏教とカーストが生きる島 (フィールドワーク選書 14)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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