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『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』概要と感想~仏教のイメージが覆る?仏教学そのものの歴史を問う参考書

新アジア仏教史02
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『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』概要と感想~仏教のイメージが覆る?仏教学そのものの歴史を問う参考書

今回ご紹介するのは2010年に佼成出版社より発行された奈良康明、下田正弘編集『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』です。

早速この本について見ていきましょう。

インド仏教について経典などの文献資料を根拠としながら、1原始仏教の時代、2部派仏教の成立まで、3大乗仏教の成立、4密教の成立という四区分法にしたがって見ていきます。
教団形成からその後の分派・展開まで詳しく解説しています。
加えて、13世紀初頭のインドでほとんど姿を消した仏教が、近代になって再受容されていく過程を探ります。
また、考古学的遺品、美術品、建築物等の文献外資料については、写真を対応させながら考察しています。

出版社からのコメント

本シリーズの導入の役割をも担った巻です。仏教研究そのものにも光をあてています。 ・カラー写真などの図版を収録。ビジュアル的にブッダの世界を示す。 ・インド仏教の全体像を歴史的にとらえ、平易な言葉で解説した一冊。 ・研究成果の粋を凝らした6編のコラム。 【目次】 【第1章】 近代仏教学の形成と展開 【第2章】 原始仏教の世界 【第3章】 仏教教団の展開 【第4章】 大乗教団のなぞ 【第5章】 密教の出現と展開 【第6章】 造形と仏教 【第7章】 近代から現代へ

Amazon商品紹介ページより

今作は前回の記事で紹介した『新アジア仏教史01インドⅠ 仏教出現の背景』に続く「新アジア仏教史シリーズ」の第二巻になります。

前作『新アジア仏教史01インドⅠ 仏教出現の背景』ではそのタイトル通り仏教が生まれてくるインドの時代背景が語られましたが、今作では実際に仏教が生まれて展開していくその流れを見ていくことになります。

ですが、この本は単に仏教成立の流れを見ていくだけの本ではありません。

なんと、「仏教学」という枠組みそのものすら問うていく作品となっています。

これはどういうことかと言いますと、本書の第一章で下田正弘氏は次のように述べています。仏教を考える上で非常に重要な提言がなされている箇所ですので少し長くなりますがじっくり見ていきます。

本巻は「仏教の形成と展開」を主題とする。その第1章において、なにゆえに〈近代仏教学〉の形成と展開というテーマを取りあげるのか。その理由は単純である。本巻全体の、というよりも、本シリーズ全体の内容は、近代仏教学という学問によって明かされた成果にほかならない。本著の第2章以降の内容がスクリーンに映し出された映像であるとすれば、この第1章は、その映像ができあがるまでの過程を外から写しだす記録映像、いわゆるメーキングに当たる。本シリーズの前身にあたる「アジア仏教史」においては存在しなかったこのテーマを今回あらたに掲げたところには、仏教学の成果としての仏教理解を提供するというシリーズの意図が存在する。

本章の課題は「近代仏教学」とはなにか、あるいは簡潔に「仏教学」とはなにかを問うことにある。それはもちろん、仏教学は「いかにあるべきか」についての筆者自身の定義や趣向をつけ加える意図からではなく、仏教学の立つ現在地を確かめる目的からである。そのためには、仏教学がその名において進めてきたじっさいの営みを、関連する知的営為の歴史のなかに位置づけることが必要となる。これによって現在の仏教学の特徴が明らかになるとともに、その役割と問題点とが同時に示されることにもなるだろう。その意味で本章は仏教史を主題とする本シリーズ全体へのプロローグでもある。

「仏教学とはなにか」という問いは、「仏教」とはなにかという問いと「仏教学」とはなにかという問いの、二重の課題から成っている。後者の課題はもちろん、前者の課題に大きく依存してはいるものの、それに還元しつくされるものではない。というのも、現在の仏教学が形成されるまでには、「仏教」理解にかんする歴史の変遷と、西洋近代に「学問としての仏教学」が成立するさいの学問の環境という二つの要素が、ともに強い影響を与えているからである。きわめて単純な言いかたをするなら、「仏教」という理解が形成された歴史と、方法としての「学」が構築された歴史とはそれぞれ個別に発生し、両者が邂逅して融合し、成立したのが現在の「仏教学」である。

解明の対象である仏教と解明の方法である仏教学という、ニつの要素からなる仏教学の歴史を問うとき、まず優先すべきは「仏教とはなにか」という、解明の対象をめぐる歴史のほうである。もちろん、対象はたちまち方法に限定されてかたどられはじめ、仏教とは何かという観念の変遷は、それを解明する仏教学の歴史に回収されてしまう。だがたとえ結果としてはそうではあっても、目的と方法とを原理的に区別し、両者に優先順位を付しておくことは、目的を消失せず、なにより方法を深化させてゆくうえで欠かせない作業となる。日本に仏教が伝播して千五百年の歴史のなか、「仏教とはなにか」という問いが現在のかたちで共有されるに至ったのは、地を遠く隔てて起こった二つのできごとが、あるときに融合したことによる。その一つは、十八世紀から十九世紀のヨーロッパにおけるインド学の誕生と展開、および十九世紀の西洋における〈仏教〉Buddhismの「発見」あるいは「創出」であり、もう一つは同時期の日本、すなわち江戸時代の中・後期における、仏教にかかわる実証的学問の展開である。それぞれ独立に進められたこれら二つの知的営為は、日本近代の幕が切って落とされた明治維新を機に合流し、日本の伝統的仏教理解を大きく変貌させながら、現在われわれがいだく仏教像をつくりあげてきた。

これら二つの潮流のうち、本章ではことに西洋近代における〈仏教〉の発見と仏教学の形成とに注目する。というのも、現在の仏教学は、日本のあずかり知らないところで誕生したこの仏教像に、きわめて強い制約を受けているからである。いったい、西洋近代における〈仏教〉の発見とはなんだったのか(以下、個別に断らないが本章の全体は、下田正弘二〇〇一、ニ〇〇ニ、ニ〇〇四、ニ〇〇五、ニ〇〇六、ニ〇〇七にもとづく)。

佼成出版社、奈良康明、下田正弘編集『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』P14-16

「本章ではことに西洋近代における〈仏教〉の発見と仏教学の形成とに注目する。というのも、現在の仏教学は、日本のあずかり知らないところで誕生したこの仏教像に、きわめて強い制約を受けているからである」

これはかなり強烈な言葉ですよね。

私達が当たり前だと思って享受していた〈仏教学〉が日本の仏教思想や文化とは全く無関係に生まれたものだった。

この本を読めば〈仏教学〉というものがどんな流れで生まれてきたのか、そしてそれがどのように日本にもたらされ、適用されることになったのかがよくわかります。

日本仏教に対する批判で多いのは「原始仏教と比べればなんと日本仏教は堕落しているのか」というものなのですが、こうした批判がなぜ生まれてきたのかも考えることになります。そして同時にこの批判の問題点についても私達読者は気づくことになるでしょう。

仏教という宗教実践を伴う生活とは無関係に、文献によって研究を進めた西洋の仏教学。人々の生活実践やその地の文化を無視した文献研究の弱点の存在。

この本は改めて〈仏教学〉という学問そのものを俯瞰で見ることができる素晴らしい作品です。

ですがもちろんだからといって〈仏教学〉の価値が損なわれるということはありません。これまでの研究の蓄積があるからこそ最新の学説があるわけですし、緻密な文献研究あってこそ見えてくる世界があります。

大事なことはどちらかに傾きすぎることではなく、私個人としては僧侶として生活実践としての仏教を大切にしつつ、〈仏教学〉の知見もしっかり学ぶということなのだなとつくづく感じています。

これは刺激的な一冊でした。ぜひおすすめしたい参考書です。

以上、「『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』~仏教のイメージが覆る?仏教学そのものの歴史を問う参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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