MENU

(13)モネの『印象・日の出』が好きでたまらない!マルモッタン・モネ美術館でその名画を堪能!

目次

【パリ旅行記】(13)印象派の始まり、モネの『印象・日の出』を観にマルモッタン・モネ美術館へ~私がパリで最も好きになった絵画

私はエミール・ゾラの『制作』という作品をきっかけにフランスの印象派の画家に興味を持つようになった。

あわせて読みたい
ゾラ『制作』あらすじと感想~天才画家の生みの苦しみと狂気!印象派を知るならこの1冊! この物語はゾラの自伝的な小説でもあります。主人公の画家クロードと親友の小説家サンドーズの関係はまさしく印象派画家セザンヌとゾラの関係を彷彿させます。 芸術家の生みの苦しみを知れる名著です!

この物語はゾラの自伝的な小説でもある。主人公の画家クロードと親友の小説家サンドーズの関係はまさしく印象派画家セザンヌとゾラの関係を彷彿とさせる。

ポール・セザンヌ(1839-1906)Wikipediaより

セザンヌと言えば印象派の巨匠だ。なんとゾラは彼と同じ中学で、パリに出てからも互いに深い交流を持ち続けていたのだ。印象派の発展のためにゾラは美術評論を数多く書き、ゾラ自身も天才画家セザンヌから多くのことを学んでいたのだった。いわば二人は芸術界を切り開く盟友でもあったのである。

私はこうしたゾラと印象派の画家たちとのつながりから彼らの絵画に興味を持つようになった。

『大水浴図』1898 – 1905年。フィラデルフィア美術館Wikipediaより

だが、セザンヌの絵画は正直私にはかなりハードルが高かった。パッと見て「あ、いいな」と思えるほど私はこのような絵にはまだ慣れていなかったのだ。

というわけでフランス印象派について何かよい入門書はないかと探していた時に出会ったのが、木村泰司著『印象派という革命』という本だった。

あわせて読みたい
木村泰司『印象派という革命』あらすじと感想~ゾラとフランス印象派―セザンヌ、マネ、モネとの関係 前回までの記事では「日本ではなぜゾラはマイナーで、ドストエフスキーは人気なのか」を様々な面から考えてみましたが、今回はちょっと視点を変えてゾラとフランス印象派絵画についてお話ししていきます。 私はゾラに興味を持ったことで印象派絵画に興味を持つことになりました。 それとは逆に、印象派絵画に興味を持っている方がゾラの小説につながっていくということもあるかもしれません。ぜひともおすすめしたい記事です

この本は印象派が生まれてくる過程やその意義を印象派以前のフランス美術界の動きにまでさかのぼって解説してくれる。フランスが芸術の都と呼ばれるようになるまでの流れや、パリ美術界の仕組みなどなど、実にわかりやすい解説で満ちている。

何より時代ごとに代表的な絵をカラーで紹介してくれるのがありがたい。解説を読みながら絵を見ることでその特徴が一目瞭然だ。これは素晴らしい本と出会った。

この本のおかげで私は印象派の様々な絵を知ることとなった。

その中でも私が最も印象に残ったのがクロード・モネの『印象・日の出』だった。

クロード・モネ 『印象・日の出』 (1872年)Wikipediaより

私は本で観たこの絵になぜか惹きつけられた。そしてこの絵は「印象派」という名の始まりとなった記念すべき絵画でもある。

であるならばぜひこれのオリジナルを観てみたい。というわけで私はこの絵が展示されているマルモッタン・モネ美術館へと向かったのである。

マルモッタン・モネ美術館はパリの西側にあり、ブローニュの森のすぐ近くだ。以前紹介したバルザックの家とも近い。

あわせて読みたい
(6)パリ、バルザックゆかりの地巡り~ブローニュの森、バルザックの家、ペール・ラシェーズ墓地へ この記事では『ゴリオ爺さん』で有名なフランスの文豪バルザックゆかりの地を紹介していきます。 小説中で重要な意味を持つブローニュの森、そしてバルザックの家と、彼のお墓があるペール・ラシューズ墓地を順に見ていきます。 特にバルザックの家では彼愛用のステッキやコーヒーポッドも見れて大満足でした。

中は豪華な邸宅のような雰囲気で、その壁面に印象派の絵画や多数の名画が飾られている。私はモネの『印象・日の出』を目当てに来ていたのでこちらに時間を割くことができなかったが、ここにも印象派を代表する名画の数々が展示されているので見どころはたくさんあると思う。

そして階段を下りていくとあの『印象・日の出』が私の目の前に飛び込んできた。「おぉ・・・!」と思わず声が漏れてしまった。いよいよあの絵と対面できるのだ。

想像していたよりも小さめのサイズだ。もう少し近くに寄ってみよう。

う~ん、素晴らしい・・・!実物は想像以上だ!

パッと見ればぼや~っとした何気ない絵に見えるかもしれない。だが違うのだ。ひとつひとつの筆のタッチが恐るべき意図を持って描かれているのが近くで観るとよくわかる。

水面に反射したオレンジの光線は近くで観るとこのように描かれていた。適当にちょんちょんちょんと線を描いているだけのように見えるかもしれない。だが少し離れて観てみるとこの線がぼやけて周囲と完全に溶け込み、グラデーションを形成する。しかも絵の具の厚みによっても見え方が異なることをモネは計算しているのではないか。写真で見ると絵は平面だが、オリジナルは立体なのだ。

このように斜めから間近で観てみるとその立体具合が特にわかる。写真ではなかなか伝わらないと思うので、オリジナルを観た時はぜひ試してみてほしい。

そしてこの美術館がさすがだなと思ったのは、この椅子の位置だ。私は様々な距離、角度からこの絵をしばらく見続けていたのだが、この椅子の位置が最も美しく見える距離なのではないかと思う。

先ほども見たように、モネのタッチが絶妙にぼやけて周囲と溶け込むその距離感。それがここだ。

『印象・日の出』には輪郭線がない。

だが、人間の視覚もまさにそのように見えているのではないだろうか。明確な線ではなく、全体としての印象を私たちは脳で統合し、世界を見ている。

視覚は光の受容によって起きる。ではその光を人間はどのように受け取っているのか。そもそも、目の前に映る世界とは何なのか。

私はかつて、こうした探究をオランダの画家フェルメールを通して知ることとなった。

あわせて読みたい
F・ステッドマン『フェルメールのカメラ 光と空間の謎を解く』あらすじと感想~写真機の先祖カメラ・オ... 今作『フェルメールのカメラ 光と空間の謎を解く』ではかなり詳しくカメラ・オブスクラについて知ることができます。図や写真も多数掲載されていますし、画家がこの機械をどのように使っていたかというのもわかりやすく説かれます。これはとてもありがたいことでした。 フェルメールが用いたこの光学機器についてより知りたい方にはぜひおすすめしたい作品となっています。

フェルメールは科学者のごとく光の作用を研究し、それを絵画に落とし込んだ。彼の作品はまさに光の芸術と呼ぶにふさわしい。

そんな彼の絵画を学んだことが思わぬところでこの『印象・日の出』と繋がった。

モネはフェルメールから200年以上後の人物であるが、光の探究という面では共通するものがあるのではないだろうか。

改めて絵の細部を見ていくと、この空や海も筆の流れが非常によく見える。この流れがあるからこそ一定の距離から見た時に絶妙な効果を上げるのだ。

クロード・モネといえば『睡蓮』や『パラソルをさす女』、『ラ・ジャポネーズ』など数々の有名な絵画があるが、私はやはりこの『印象・日の出』が一番好きだ。

この絵は本当に不思議だ。全体がぼんやりしているものの、それが心地よい。夕陽とその光の反射の描写はまさに天下一品だと思う。なぜか引き込まれる不思議な魅力がこの絵にはある。これ以上はうまく言葉にできない。

私がパリで最も好きになった絵画は間違いなくこの作品だ。

ありがたいことにこの美術館はルーブルやオルセーと違ってそれほど混雑はしない。だからゆっくりと心行くまで好きな作品に没頭できる。ぜひこの美術館もおすすめしたい。そして『印象・日の出』をじっくりと堪能していた頂ければ何よりだ。

続く

Amazon商品ページはこちら↓

印象派という革命

印象派という革命

次の記事はこちら

あわせて読みたい
(14)パリ郊外メダンのゾラの家へ~フランスの偉大な文豪が愛したセーヌの穏やかな流れと共に この記事ではパリ郊外メダンにあるゾラの家をご紹介します。 『ナナ』などの大ヒットによって資産を蓄えたゾラが長い年月をかけて完成させたのがこの邸宅になります。 フランスの文豪が愛したセーヌ河畔の静かな住宅地。 小舟を浮かべて時を過ごしたとされる美しきパリ郊外の雰囲気もこの記事では紹介していきます。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
(12)『サモトラケのニケ』が好きすぎる!その魅力と歴史、超絶技巧について解説!~ぜひおすすめした... ルーブルの至宝『サモトラケのニケ』。 この作品は1863年にエーゲ海のサモトラケ島で発見された彫刻で、「ニケ」というのは「女神」を意味する言葉です。 そしてこのニケはヘレニズム期の紀元前190年頃に制作されたと考えられています。 この彫刻は私がパリで最も強烈な印象を受けた芸術作品になりました。あまりの美しさに完全に魅了されてしまいました。 この記事ではそんなニケの魅力についてお話ししていきます。

関連記事

あわせて読みたい
(19)フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』のオリジナルは想像をはるかに超えた傑作だった マウリッツハイス美術館にはもうひとつ、フェルメールファン必見の名画があります。 それがあの『真珠の耳飾りの少女』です。 実は私はこの絵にそこまでの期待をしていませんでした。私は『デルフト』が一番好きなのであって、この絵には元々あまり興味がなかったのです。 ですが、そうした私の思いはこの日を境にがらっと変わりました。こんなにすごい絵だったとは!
あわせて読みたい
『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』~文豪の運命を変えた妻との一世一代の... この旅行記は2022年に私が「親鸞とドストエフスキー」をテーマにヨーロッパを旅した際の記録になります。 ドイツ、スイス、イタリア、チェコとドストエフスキー夫妻は旅をしました。その旅路を私も追体験し、彼の人生を変えることになった運命の旅に思いを馳せることになりました。私の渾身の旅行記です。ぜひご一読ください。
あわせて読みたい
【ローマ旅行記】『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』~古代ローマと美の殿堂ロ... 私もローマの魅力にすっかりとりつかれた一人です。この旅行記ではローマの素晴らしき芸術たちの魅力を余すことなくご紹介していきます。 「ドストエフスキーとローマ」と言うと固く感じられるかもしれませんが全くそんなことはないのでご安心ください。これはローマの美しさに惚れ込んでしまった私のローマへの愛を込めた旅行記です。気軽に読んで頂ければ幸いです。
あわせて読みたい
上田隆弘『秋に記す夏の印象~パリ・ジョージアの旅』記事一覧~トルストイとドストエフスキーに学ぶ旅 2022年8月中旬から九月の中旬までおよそ1か月、私はジョージアを中心にヨーロッパを旅してきました。 フランス、ベルギー、オランダ、ジョージア・アルメニアを訪れた今回の旅。 その最大の目的はトルストイとドストエフスキーを学ぶためにジョージア北部のコーカサス山脈を見に行くことでした。 この記事では全31記事を一覧にして紹介していきます。『秋に記す夏の印象』の目次として使って頂けましたら幸いです。
あわせて読みたい
(8)パリのゾラ『ルーゴン・マッカール叢書』ゆかりの地を一挙紹介~フランス第二帝政のパリが舞台 今回の記事では私が尊敬する作家エミール・ゾラの代表作『ルーゴン・マッカール叢書』ゆかりの地を紹介していきます。 『ルーゴン・マッカール叢書』はとにかく面白いです。そしてこの作品群ほど私たちの生きる現代社会の仕組みを暴き出したものはないのではないかと私は思います。 ぜひエミール・ゾラという天才の傑作を一冊でもいいのでまずは手に取ってみてはいかがでしょうか。そしてその強烈な一撃にぜひショックを受けてみて下さい。
あわせて読みたい
フェルメールおすすめ解説書一覧~光の画家フェルメールの素晴らしき絵画世界を堪能するために フェルメールといえば『真珠の首飾りの少女』や『牛乳を注ぐ女』で有名な17世紀オランダの画家ですよね。 今回の記事ではこれまで当ブログで紹介してきたフェルメールのおすすめ解説書をまとめてご紹介していきます。 どれも自信を持っておすすめできる非常に面白い本ばかりです。皆様のフェルメール鑑賞のお役に少しでも立てましたなら何よりでございます。
あわせて読みたい
ローラ・J・スナイダー『フェルメールと天才科学者』あらすじと感想~顕微鏡で有名なレーウェンフックと... この本は最高です!私の2022年上半期ベスト3に入る作品と言っても過言ではありません。 とにかく面白い!こんなにわくわくさせてくれる本にはなかなかお目にかかれるものではありません。 著者は当時の時代背景や宗教事情と絡めてフェルメールのことを語っていきます。これがすこぶる面白い!「え!?そうなんだ!!」ということがどんどん出てきます!ぜひぜひおすすめしたい傑作です!

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次