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ジョナサン・ビーチャー『シャルル・フーリエ伝 幻視者とその世界』あらすじと感想~フーリエのおすすめ伝記!

目次

フーリエのおすすめ伝記!ジョナサン・ビーチャー『シャルル・フーリエ伝 幻視者とその世界』概要と感想

今回ご紹介するのは2001年に作品社より発行されたジョナサン・ビーチャー著、福島知己訳『シャルル・フーリエ伝 幻視者とその世界』です。

早速この本について見ていきましょう。

「明敏な洞察」と「奇妙な思弁」が混在する稀代のユートピアン、シャルル・フーリエの生涯をあますところなく描き、その思想形成過程を詳細に浮き彫りにした本格的評伝。

Amazon商品紹介ページより

この本はフランスの空想的社会主義者の代表とされるシャルル・フーリエの伝記です。

フーリエとはいかなる人物か、前回の記事「石井洋二郎『科学から空想へ よみがえるフーリエ』ユートピアを描いた有名な空想的社会主義者フーリエとは」でもざっくりと紹介しましたが今回もプロフィールを見ていきましょう。

シャルル・フーリエ(1772-1837)Wikipediaより

ブザンソンの商人の家に生まれる。『四運動の理論』をはじめとするー連の著作で独自の「情念引力」理論を展開し、「ファランジュ」と呼ばれる農業協同体を提唱するが、概念の難解さと主張の荒唐無稽さゆえに同時代人からはほとんど無視され、不遇のまま世を去った。マルクスーエンゲルスによって「空想的社会主義者」のひとりとされ、長いあいだこのレッテルが定着していたが、20世紀になってべンヤミン、ブルトン、バルトなどが彼の著作の独創性に注目し、それぞれの観点から新たな読み直しをおこなっている。1967年には『愛の新世界』がはじめて刊行され、再評価の機運が高まるきっかけとなった。

藤原書店、石井洋二郎『科学から空想へ よみがえるフーリエ』 より

この伝記は同時代人がまったく理解できないような理想郷を想像し、独自の社会主義論を提唱したフーリエの生涯をかなり細かく見ていきます。2段組みでびっしり書かれたページが400頁超というかなりのボリュームです。

この本の特徴について訳者あとがきでは次のように書かれています。

本書のフーリエ解釈について一言しておくと、たとえばロラン・バルトやシモーヌ・ドゥブー、ルネ・シェレールらのそれのように(さらに時代をさかのぼれば、エンゲルスの『ユートピアから科学へ』のそれのように)、フーリエ研究の枠を越えて大きな影響を与えるといったものではない。むしろ穏健と言ってよい。だがまさにそれゆえに本書は、過度の読み込みや事実に即さない解釈を廃した、きわめて基本的かつわかりやすいフーリエの解説書となりえている。このことはさまざまなフーリエ像が一人歩きしている現在、とりわけ明記しておくべきだろう。(中略)

とはいえ本書の最も大きな特長は、なによりもまず、フーリエの伝記を細部に至るまで調べあげ、フーリエを取り巻く環境とその思想の形成過程との関係を漏らさず明らかにした網羅性にあるだろう。

前半生、ことに革命期のフーリエの動向については、本書で初めて明らかになったことも数多い。また、生涯にわたって、想像力を駆使して、フーリエの心情と行動と、思想の展開との関係を再構成しようと努めている。

本書には人間フーリエの数々の逸話が溢れかえらんばかりに埋め込まれているが、通俗的な伝記研究とは違って、それはけっしてフーリエの理論を伝記的逸話に還元するためではない。むしろ反対に、理論とその形成過程をより良く説明するためなのである。また理論についても項目ごとに要領よくまとめ上げたその簡便さは際立っている。

これらのために本書は、今後のフーリエ研究にとって欠かすことのできない基本文献たりえているのである。
※一部改行しました

作品社、ジョナサン・ビーチャー著、福島知己訳『シャルル・フーリエ伝 幻視者とその世界』 P431-432

この作品は通俗的に書かれたものではなく、学問的研究にもたえうるものとなっています。かといって学術的すぎて一般読者にはさっぱりわからないという類の本でもありません。

私自身、楽しみながら読むことができましたし、意外な事実に驚くことが何度もありました。特にマルクスを学ぶためにフーリエを読もうとしていた私でしたが、ドストエフスキーとの関係性には何度も驚かされました。ドストエフスキーは一時期フーリエに傾倒していた時期がありました。そしてその後彼は政治犯としてシベリアに流刑されることになってしまいます。この本では直接ドストエフスキーについての言及はありませんが、読んでいてドストエフスキーがフーリエのどこに惹かれたのかが何となく見えてくるような気がしました。

このことについては次の記事で改めて見ていきたいと思います。

さて、最後にフーリエのユートピア社会主義の最も特徴的な性質について解説されていた箇所を紹介してこの記事を終えようと思います。

フリードリヒ・エンゲルスによれば、ユートピア社会主義者の思考の最も特徴的な性質は、未来社会の「空想的な青写真」を描こうとする傾向にあった。ユートピア社会主義者はどうすれば自分の計画を実現できるか説明不能なので、その代わり、理想社会の生活がどのようなものになるか、異常なまでに詳細に述べようとする、と言うのだ。この基準に従えば、フーリエはまったくのユートピアンだったと判定されなければならない。彼は数千頁に及んで、建築についての詳述や典型的な労働スケジュールや保育園の家具のデザイン、仕事着の色彩設計、家畜の行進隊形の指定を始めとする、詳細な青写真を生み出していた。

作品社、ジョナサン・ビーチャー著、福島知己訳『シャルル・フーリエ伝 幻視者とその世界』 P 213

さすがエンゲルス。とても明快にユートピア社会主義者の特徴を語っています。これはわかりやすいですよね。

この伝記はそうしたフーリエの生涯をじっくりと見ていく作品です。ボリュームある作品でなかなか手強い1冊ではありますが、興味深い発見がきっとあると思います。ドストエフスキーファンの私としては、かなりのインパクトがある作品でした。

以上、「ジョナサン・ビーチャー『シャルル・フーリエ伝 幻視者とその世界』フーリエのおすすめ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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