P・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』~信じられない惨劇がアフリカで起きていた・・・

ボスニア紛争とルワンダ虐殺の悲劇に学ぶ~冷戦後の国際紛争

P・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』概要と感想~信じられない惨劇がアフリカで起きていた・・・

今回ご紹介するのは2011年にWAVE出版より発行されたフィリップ・ゴーレイヴィッチ著、柳下毅一郎訳 『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』 です。

早速この本について見ていきましょう。

1994年、アフリカの真ん中で100万人が殺された。だが、世界の人々は少しも気にしなかった。20世紀指折りの恐怖の顛末を告発する! 今こそ知るべき隠された真実。※本書は2003年6月発行『ジェノサイドの丘』上下巻を新装版化したものです。

Amazon商品紹介ページより

まずはじめに申し上げます。この本はあまりに衝撃的で、私は心底参ってしまいました・・・

ボスニア紛争やスレブレニツァの虐殺を学ぶ流れで手に取ったこの本でしたが、あまりの悲惨さに言葉を失ってしまいました・・・

一体この本はどんな本なのか。

訳者のあとがきを見ていきましょう。

あなたはルワンダという国の名前を聞いたことがあるだろうか?それが世界地図のどこにあるかご存じだろうか?

ぼくは知らなかった。わずか十年前にその国がかつて見たことがないような苛烈な大虐殺を経験し、国が崩壊に追いこまれたことも知らなかった。ジェノサイド=民族虐殺は周到に準備されており、加害者たちだけでなく被害者たちまでもが起こるのを待ちかまえていたというのも知らなかった。国連をはじめとする国際社会はみなジェノサイドが起きていると知りながら、介入したくないために百万人を見殺しにしたことも知らなかった。(中略)

本書はアフリカの小国で起きた民族虐殺についてのルポルタージュである。一九九四年四月六日、ルワンダの首都キガリで、独裁者ハビャリマナ大統領と隣国ブルンディのヌタリャミラ大統領が乗った飛行機が撃墜された。休戦中だった反政府勢力RPFと政府軍との戦いが再燃し、混乱の中で多数派フツ族は少数派ツチ族を虐殺した。その数は八十万人、ルワンダ人口のほぼ一割に当たる。世間で流通している話はこんなところだ。だが、これはルワンダ虐殺の恐怖を百分の一も伝えていない。そもそも人口八百万人の国で八十万人が殺されるというのはどういうことなのか。虐殺がはじまる前、殺人者と犠牲者は隣りあって暮らしていた。フツ族とツチ族の結婚も当たり前のことだった。にもかかわらず、ある日殺害がはじまると、殺人者たちは山刀と釘を埋め込んだバットを手に、隣人を、親戚を、商売相手を殺していったのである。あまりにも多くの人が、あまりにも簡単に殺人者となることを選んだ。それはとても恐ろしいことである。


WAVE出版、フィリップ・ゴーレイヴィッチ著、柳下毅一郎訳 『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』 P483-484

たった数か月足らずで少数民族であるツチ族80万人が虐殺された。

しかもその虐殺の方法があまりに残虐でした。銃による殺害ではなく、上の解説にもありますように山刀(マチェーテ)で切り刻むという、極めて原始的な方法での殺害でした。

マチェーテ Wikipediaより

しかもこの本を読めばわかりますが、単に殺害するだけでなくゆっくりと苦しめて殺すため、あえて急所を狙わず、手足を切断したり脚の腱を切ったまま放置し、犠牲者が苦しむ様を虐殺者は楽しんでいました。

そしてさらに恐ろしいことに、こうした虐殺を行ったのが一部の人間なのではなくフツ族の大多数が殺害に加わり、ほぼすべての人が何らかの形で虐殺に関わるという異常な状況でした。

この本ではそんな悲惨な虐殺がなぜ起こったのか、そしてどのような経緯で行われていったのかが語られます。

また、この本で特徴的なのはタイトルにもありますように、これまで世界で無視され続けていたルワンダの悲劇の実態を告発する点にあります。平和維持のために介入していたはずの国連はなぜ虐殺を止められなかったのでしょうか。そしてさらに衝撃的なのは、国連を含め世界各国は虐殺をしていたフツ族側に支援物資を送っていたという事実すらあったこと・・・これには絶句しました・・・

読んでいて本当に心が痛みます・・・というより、具合が悪くなってきます。それほどショッキングで恐ろしい事実が語られます。

最後に、このあとがきで書かれていた印象に残った箇所を紹介します。

海のはるかかなた、アフリカの最奥部で起きた虐殺など日本人には関係ない。そう言い切ってしまうのはとても簡単なことである。しょせん彼らは歴史のはじまる前から殺しあいを続けている蛮族たちなのだし、自分がなにかをしたからってそれが変えられるわけではない。それにまた、そう言ってしまえば自分の財布もいたまない。自分の身に危難が及ぶことはない。シニカルにも聞こえるが、この保守化した世界にあってはそんなのは別に当たり前のことである。だが、本当にそれでいいんだろうか?もうほんの少しだけ想像カを伸ばすのがそんなに大変なことなんだろうか?殺人はごくたやすいことだった。ただ政治家から憎悪を吹き込まれ、ひとふりのマチェーテをわたされるだけで誰でも殺人者になれてしまう。その恐ろしさを我が身のこととして考える想像力があってもいいのではなかろうか。

本書は虐殺の四年後、九八年に出版された。虐殺それ自体と同じくらい、その余波の中で生きていかなければならないルワンダ人たちの苦しみにも焦点が当てられている。虐殺の余波はそうたやすくは終わらないからである。そして本書が終わったあとも戦いは続いている。


WAVE出版、フィリップ・ゴーレイヴィッチ著、柳下毅一郎訳 『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』 P 485-486

自分がなにかをしたからってそれが変えられるわけではない

これは戦争や紛争のことを学んでいる時にいつも私が悩む所です。いくら本を読んで考えたところで「お前は何もしてないし、ただ傍観しているだけじゃないか」と自分が嫌になります。

皆さんは上の引用を読んでどう感じますか?

人それぞれ様々な思いがあると思います。ただ、この本はものすごく重いものを私達に突き付けます。もしかしたらあなたの価値観を変えてしまうかもしれません。それほどショッキングな内容です。

この本は出版社さんもかなり力を入れて出版された本だと思われます。

というのも、この写真を見て下さい。

わかりますでしょうか?本のページが赤く染められているのです。しかも単に真っ赤にしているのではなく、よく見てみると染みのようなムラがあるのです。そうです、まさに血で染まったかのような色・・・

正直、こんな本は初めて見ました。出版社さんの並々ならぬ思いが伝わってきます。

衝撃の一冊です。ぜひおすすめしたいです。

以上、「P・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』信じられない惨劇がアフリカで起きていた・・・」でした。

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