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ジャン・バルジャンはなぜマドレーヌ市長として成功できたのか 鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』より
引き続き鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』を参考に、ミュージカル鑑賞に役立つキャラクター解説をしていきます。この本は原作のレミゼのストーリーの流れだけでなく当時の時代背景やもっともっとレミゼを楽しむための豆知識が満載です。 ミュージカルの最高の参考書にもなります。
ミュージカルでは時間の都合上、表現しきれない箇所がどうしても出てきてしまいます。そこで、より深くレミゼを知るためにこの本とユゴーの原作をたよりにしながらそれぞれのキャラクターを見ていきたいと思います。
ジャン・バルジャンはなぜマドレーヌ市長として成功できたのか
徒刑囚として19年も服役したジャン・バルジャン。
そんな荒みきっていた彼はミリエル司教と出会い、新たな人生を歩むことを誓います。
映画やミュージカルではその後ある町の様子にシーンに移ります。
そしてこのシーンの後半によい身なりをして明らかに上流階級の雰囲気をまとったジャン・バルジャンが登場します。
ジャン・バルジャンはこの時マドレーヌという名前で生活し、この工場の工場長、そして市長にまでなっていたのでした。
パリの貧困層出身だったジャン・バルジャンがなぜここまで成功することができたのか。よくよく考えれば不思議ですよね。徒刑囚だった頃とはまるで別人です。
今回の記事ではなぜジャン・バルジャンがここまでの成功を遂げることができたかをお話ししていきます。
では早速、鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』を見ていきましょう。
ファンチーヌが故郷を留守にしている間に、モントルイユ=シュル=メールはすっかり様変わりしていた。三年ほど前、どこからともなくやってきた一人の男が数百フランの金を元手に始めた黒玉ガラスの製造が大当たりして町全体を潤していたのである。
マドレーヌと名乗るその男は、男女別に工場を建てて風紀をただし、誠実さだけを条件にすべての者を雇い入れた。彼はもちろん大きな財産を築いたが、それ以上に町の福祉に気を配り、私財をなげうって病院と学校と保育園をつくった。はじめ、よそ者をうさん臭い目で見ていた町の人々も次第に警戒心を解き、やがてマドレーヌ氏は市長に任命された。マドレーヌ氏は自室に二本の銀の燭台を置き、一八二一年にディーニュの司教の死が報じられたときには喪に服したという。(中略)
ジャン・ヴァルジャンがマドレーヌ氏に変身できたのは、彼がこの町にやってきたときに、たまたま市役所に火事が起こり、火のなかに取り残された憲兵隊長の子供を彼がわが身を顧みず助け出したため、憲兵たちは彼にパスポートの呈示を求めなかったからである。
文藝春秋、鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』P80
前回の記事でもお話ししましたがファンテーヌはパリで職を失い、故郷のモントルイユ=シュル=メールに帰ろうとしていました。
その途中で彼女はテナルディエ夫妻に出会い、愛娘コゼットを託したのでした。
そして故郷にたどり着いたファンテーヌは町の変化に驚くことになります。大きな工場があり、町が繁栄していたのです。
ジャン・バルジャンが工場を建てた町とファンテーヌの故郷が同じというのもレミゼらしい必然の偶然ですよね。
上の解説にありますように、ジャン・バルジャンは小さな元手で安価な黒玉ガラスの製造法を生み出しました。これが大当たりしジャン・バルジャンは一財産を作り上げることになります。
ですがそのお金を私利私欲に使うのではなく、尊敬するミリエル司教と同じく人々の福祉のためにそのお金を使うのでした。病院や学校、保育所を作ったのはその一環です。
よそ者として胡散臭い目で見られていたジャン・バルジャンでしたが、こうした活動やその人柄から徐々に町の人々の信頼を集め市長になるよう頼まれます。最初は断っていたジャン・バルジャンでしたが、最後はしぶしぶ引き受けることになりました。
そして解説の最後にありますように、そもそもジャン・バルジャンが「マドレーヌ」という偽名を使ってこの町で生活できたのは、火事に巻き込まれた少年を身を挺して救ったからでした。
本来、自分の町や村を出る時は必ずパスポートを持っていなければなりませんでした。そのパスポートがないと他の町に行ってもまともな生活などできません。
しかし、火事から救った少年の父が憲兵隊長だったことから、よそ者であるにも関わらずパスポートの呈示を求められませんでした。これによってジャン・バルジャンはマドレーヌとして生きていくことができたのです。
そして市長としての教養ある雰囲気は以前の記事「ジャン・バルジャンの過去~なぜ彼は逮捕されたのか」で紹介しましたように、服役中に読み書きや計算を習っていたからでした。もし服役中にこれらを学んでいなければ貧困層出身のジャン・バルジャンがこうした雰囲気をまとうことは不可能だったでしょう。
また、ミリエル司教に救われてからそれこそ死に物狂いで自分を変えようと努力していたのかもしれません。いや、その努力がなければここまでの変身は遂げられなかったでしょう。それだけミリエル司教に救われたという出来事は大きなものだったのです。
さて、ここまで鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』を参考にミュージカルに役立つキャラクター紹介を進めてきましたが、今回で終了したいと思います。
マリユスやエポニーヌなど、まだまだ主要人物はたくさんいますが、彼らについてはミュージカルはミュージカルで完成されている存在なので、無理に原作から考えていく必要もないと個人的には思っています。
マリユスの出自については原作では文庫本丸々一冊分くらいかけて語られるくらいですし、テナルディエ一家の構成もミュージカルでは変更されています。あのガウローシュも原作ではテナルディエの息子ですし、この辺りも原作とミュージカルではだいぶ違います。
ミュージカル版は長大な作品を3時間という短い時間にまとめるという奇跡のような偉業を達成した作品です。原作の筋を残しつつも、どこまで削り、どのように登場人物達の個性を引き立たせるかをとことん追求しています。
これまでの記事ではそのミュージカル理解のお役立ち情報としてキャラクター紹介をしてきました。
レミゼをもっともっと知りたい方はぜひ原作も読んで頂けたらなと思います。ミュージカルと比べながら読んでみるのもものすごく楽しいです。とてもおすすめです。
以上、「ジャン・バルジャンはなぜマドレーヌ市長として成功できたのか」でした。
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