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エルサレム・ホロコースト記念館(ヤド・ヴァシェム)を訪ねて イスラエル編⑭

ホロコースト記念館
目次

悲惨な記録を目に焼き付ける・・・ホロコースト記念館(ヤド・ヴァシェム)を訪ねて 僧侶上田隆弘の世界一周記イスラエル編⑭

エルサレム旧市街からトラムで郊外へ向かう。

これから訪れるのはヤド・ヴァシェムと呼ばれるホロコースト記念館だ。

ここエルサレムに来る前は、このヤド・ヴァシェムに行く予定はなかった。

だが、ここエルサレムで様々なことを目にする内に、やはり訪れるべきなのではないかという気持ちが強くなってきた。

それに、イスラエルの次の目的地はポーランドのクラクフ。

そう、アウシュビッツを見に行くのだ。

であるのならばやはりここは行くべきであろう。

ちょうど午後から時間が空いたので、ぼくはその時間を利用してトラムに乗り込んだのである。

ヤド・ヴァシェムはトラムの終着点の駅で降り、そこから10分ほど歩いた場所にある。地図や案内がないため若干わかりにくい。

入り口に到着。多くの人がここを訪れている。

記念館の中は三角形状の通路になっていた。

壁も床も打ちっぱなしのコンクリートだ。

そのコンクリートはまるで人間性を排除したかのような無機質さを感じさせる。

室内の空気もひんやりしている。

だからこそ、人間の温かみというものを逆に連想させられてしまう。

皮肉なことだが、ぼくがこれから目にするものはそれとはまったく逆なものである。

本来温かみのある人間が無機質な冷たい人間へと変わっていく様を、ぼくはこれから学びにいくのだ。

一番最初の展示場はナチスドイツに関わるものであった。

ホロコーストといえば、ナチスドイツのヒトラーによって行われたとぼく達はよく聞かされる。

だが、ヒトラー一人の狂気によってホロコーストは起こされたのではない。

ヒトラーは国民によって選挙で選ばれ、それを熱狂的に支持する国民がいたからこそ、このようなことができたのだ。

このブースではドイツ国民がヒトラーに熱狂していく過程やその様子を展示している。

ホロコーストはヒトラー一人の狂気ではなく、国民全体の総意、つまり普通の人間の「正気の集合体」がホロコーストを引き起こしたことを示している。

虐殺を指導した幹部や、実際に自らの手で大量のユダヤ人を殺めたドイツ兵も、普通の人間だった。

収容所から家族へ手紙を書き、「愛しているよ」という言葉を家族に送っていた普通の人間だったのだ。

家に帰ればよき父親として生活していた人間が、「仕事」として人を殺めていく。

ぼく達が同じような状況になったとき、同じことをしないとどうして言い切れるだろうか。

ぼく達一人一人がそうなりかねないものを抱えている。

状況が変われば人は何でもしてしまいうる。

「仕事だから仕方がない」

この言葉で片づけてしまいかねないものをぼく達は持っているのだ。

その恐ろしさをヤド・ヴァシェムは問うてくる。

さて、『歎異抄』という書物を皆さんはご存じだろうか。

親鸞聖人「熊皮御影 」Wikipediaより

『歎異抄』は親鸞聖人の言葉を弟子唯円が書き記した書物だ。

『歎異抄』は明治以降、日本で最も読まれた書物の一つと言われている。

その『歎異抄』の中に次のような言葉がある。

「さるべき業縁のもよほさば、いかなるふるまいもするべし」

私達人間はその時の縁によって、いかなる振る舞いもしてしまう存在なのだ。

いいことをしている時も、悪いことをしている時も、それはすべてご縁のなさしめるものである。

あなたはいかなるものにもなりうるのだ。

「自分はいい人間だ。決して悪いことなどしない」となぜあなたは言い切れるのだろうか。

親鸞聖人はその言葉の文脈でこのようなことを述べているのである。

ぼくは大学の教室で、あるいはお寺での説法で何度となくこの言葉を聞いてきた。

だが、ここに来て、それが現実のものであり、そしてその悲劇的な狂気が実際に行われてしまった証拠を目の当たりにしている。

改めて親鸞聖人の述べた言葉の重みに頭が下がる思いだった。

きっと親鸞聖人が生きた平安末期から鎌倉時代も、生きるために、愛する者を守るために、人が人を騙し、奪い、殺し合う世の中だったのだろう。

そしてそれを目の当たりにしていた親鸞聖人だからこそ、そのような言葉が自然とこぼれ出てきたのではないだろうか。

続く

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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