シェイクスピア『ペリクリーズ』あらすじと感想~ドラマチックなストーリー展開が魅力のシェイクスピア最初の傑作ロマンス劇!
シェイクスピア『ペリクリーズ』あらすじと感想~ドラマチックなストーリー展開が魅力のシェイクスピア最初の傑作ロマンス劇!
今回ご紹介するのは1608年に初演されたシェイクスピア『ペリクリーズ』です。私が読んだのは筑摩書房、松岡和子版です。
早速この本について見ていきましょう。
求婚しようとした王女とその父の近親相姦を見抜いてしまった時から、ペリクリーズの波瀾万丈の旅が始まった―。詩人ガワーの語りという仕掛けのなかで、次々と起こる不思議な出来事。苛酷な運命を乗りこえ、長い歳月をへて喜びに包まれる、ペリクリーズと家族の物語。イギリスで人気の高い、シェイクスピア最初のロマンス劇を新訳で。
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『ペリクリーズ』は『リア王』や『マクベス』などの重厚な悲劇作品を経てシェイクスピアが到達した「ロマンス劇」時代の幕開けとなる作品です。
このロマンス劇とはいかなるものか、巻末の解説では次のように述べられています。
シェイクスピアのロマンス劇という言い方をするが、ロマンスといっても、恋愛ものではない。神様のお告げがあったり、死んだはずの人が生きかえったりする伝奇的雰囲気に満ちた作品という意味だ。『ぺリクリーズ』を皮切りにして、『冬物語』、『シンぺリン』、『テンぺスト』の四つの作品が、普通、このジャンルに入る。シェイクスピアは、喜劇、最後の最後には、お伽噺のようなロマンス劇によって、そのキャリアを締めくくったのである。
筑摩書房、シェイクスピア、松岡和子訳『ペリクリーズ』P198
「シェイクスピアのロマンス劇という言い方をするが、ロマンスといっても、恋愛ものではない。神様のお告げがあったり、死んだはずの人が生きかえったりする伝奇的雰囲気に満ちた作品という意味だ」
なるほど、私たちが普通想像してしまう「ロマンス」とは違った雰囲気があるのがシェイクスピアの「ロマンス劇」なのですね。
このことについて訳者解説では次のようにも語られていました。
『ペリクリーズ』に始まるシェイクスピアのロマンス劇は、悪く言えば筋の運びが荒唐無稽で現実離れしている。良く言えば素朴な御伽噺ふうで、鄙びたなつかしさをそなえている。神託や魔法など超自然の要素が入るのも特徴のひとつ。
『ぺリクリーズ』は勧善懲悪の芝居でもある。今の世の中、悪いヤツほどいい目を見る傾きがある。だからこそ、私たちに必要なのはこういう素朴で真っ直ぐな物語のはず。劇冒頭のガワーの口上にもあるとおり、まさに「良きもの、古きこそ良し」である。私たちの最も強い願いは、死んだ愛する者の蘇りだろう。『ぺリクリーズ』ではその願いが叶えられる。シェイクスピアの手にかかると、荒唐無稽やご都合主義が奇跡に転じるのだ。『ぺリクリーズ』がもっと読まれ、もっとたびたび舞台にかかることを願う所以である。
筑摩書房、シェイクスピア、松岡和子訳『ペリクリーズ』P194
たしかに『ペリクリーズ』を読んでみると、松岡さんの言葉通り、綺麗な勧善懲悪です。そして主人公たちが苦難の道を歩み、もうだめかというところで見事な大団円。これは爽快です。そして口上役のガワーの語りがまたいいんですよね。物語と物語をつなぐ絶妙な語りが読者の期待感を増幅します。
そして松岡さんが「『ぺリクリーズ』がもっと読まれ、もっとたびたび舞台にかかることを願う所以である。」と述べるようにこの作品はものすごいパワーを持った作品です。実際にシェイクスピア存命時にもこの作品は大人気だったようで、巻末解説でも次のように述べられていました。
『ペリクリーズ』の初演は、一六〇八年。当時、大変な人気を博し、一六〇九年の初版本の表紙にも「最近大評判の芝居」と記されている。その人気にあやかって、一六〇八年のうちに、「最近上演された『ぺリクリーズ』の物語」と銘打った小説本―ジョージ・ウイルキンズ作『タイアの領主ぺリクリーズの苦難の冒険』まで出版されたほどだ。当時ロンドンにいたヴェネチアやフランスの大使たちも、この劇を観に劇場へ出かけている。
評判は、初演時だけにとどまらなかった。一六一〇年二月にはヨークシャーの貴族の屋敷で再演され、一六一九年五月にはフランス大使のために宮廷(ホワイトホール)で再演、そして一六三一年六月にはグローブ座で再演された記録が残っており、そのほかにも頻繁に再演されたと思われる。一六二九年になって、シェイクスピアの後輩劇作家ベン・ジョンソンが、「『ペリクリーズ』のようなかび臭い芝居」に人気が集まるのはけしからんと怒っているのも、その人気の根強さを物語るものだ。
上演のみならず、本としてもよく読まれ、一六三五年には第六版が出るほどだった。第六版まで出たシェイクスピア作品は、ほかに『リチャード三世』と『へンリー四世・第一部』があるのみだ。その上、一六六〇年の王政復古で劇場が再開されたとき、真っ先に上演されたシェイクスピア作品は、ほかならぬ、この『ぺリクリーズ』だった。当時の名優トマス・べタートンが主演して大好評を博し、翌年に再演されている。
筑摩書房、シェイクスピア、松岡和子訳『ペリクリーズ』P198-199
日本では『ペリクリーズ』はそこまで有名ではありませんが、まさかここまでの人気だったとは!
かく言う私も今シェイクスピア作品を読んでいる中でこうしてこの作品と出会ったわけですが、『ペリクリーズ』という作品は私にとってもノーマークでした。
シェイクスピアといえば『ハムレット』や『リア王』、『ロミオとジュリエット』など、やはり有名どころに知名度は敵いません。
ですがそれらを抑えてさらに人気だったのがペリクリーズだったというのですからこれはものすごいことですよね。
そして私はこの作品を読む前にある記事を読むことになりました。
それがこちらです。
【追記】2022年3月には、演技講座発表公演としてシェイクスピア『ペリクリーズ』にも取り組みました!
— 弦巻楽団 (@tsurugaku) December 30, 2022
翻訳家の松岡和子さんをゲストに招いたアフタートークも行い、それはそれは大変貴重な時間となりました。
▼トークの内容はこちらでご覧いただけます。https://t.co/M5rYRSxPLO https://t.co/SN50H084S9 pic.twitter.com/jGKaEZEUcA
私の大好きな札幌の劇団、弦巻楽団。
この劇団と出会ったのは2018年の『ユー・キャント・ハリー・ラブ』という舞台を観た時のことでした。
私はこの作品に大はまりしてしまい、以来何度も弦巻楽団の舞台に足を運ぶようになりました。
そしてこの劇団は「演技講座発表公演」としてシェイクスピアの劇などを定期的に公演しています。私も札幌在住時『ハムレット』を観に行きました。
これがまた素晴らしくて、シェイクスピアのことがもっともっと好きになったのでありました。「シェイクスピアってこんなに面白いんだ」と素直に思えた体験でした。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、そんな弦巻楽団が昨年に公演したのが『ペリクリーズ』だったのです。そしてそのアフタートークで訳者の松岡和子さんがゲストとして迎えられたのでありました。
その対談がものすごく面白くて、私は早く『ペリクリーズ』を読みたくて仕方なくなってしまいました。
その対談が収められているのが上のツイート内の記事です。ぜひ読んでみて下さい。『ペリクリーズ』という作品がいかに興味深い作品なのかがよくわかります。
日程の都合で弦巻楽団の『ペリクリーズ』を観れなかったのがあまりに悔やまれます。今年3月には『ヴェニスの商人』が公演されるそうなのでぜひ観に行きたいなと思います。
『ペリクリーズ』を読んでみて、私はこの作品の見事さに衝撃を受けました。何度鳥肌が立ったかわかりません。
『ハムレット』や『リア王』はあまりに有名であるが故に、そのクオリティーは読む前から予想することができました。しかし『ペリクリーズ』はそうした心の準備がありませんでした。上の対談を経て、「この作品はどうやらすごいらしいぞ」という期待感のみです。
この期待感。よくも悪くもこうした期待感は読後の印象に大きく作用します。
ではこの『ペリクリーズ』はどうだったのか。
これがもう最高の読書体験となりました。今や『ペリクリーズ』は私のシェイクスピアランキングでも上位に来る作品となりました。
この記事の前半にも書きましたが、ガワーの口上があまりに見事。物語と物語を繋ぐ彼の語りが絶妙な効果を与えています。ストーリーそのものも主役たちが苦しみ苦しみ、もうだめかという時に大団円というカタルシス。
『ペリクリーズ』は悲劇時代を経たシェイクスピアが初めて書いたロマンス劇です。『リア王』や『ハムレット』など、救いのない重い悲劇作品を書き続けてきたシェイクスピアがこんなハッピーエンドの作品を書くのかと改めて驚くしかありません。
ある意味、悲劇作品によって培われた世界最強の「どん底の描写」はそのままに、勧善懲悪の最高に爽快な大団円が待ってるのですから面白くないわけがありません。「どん底」を極めたシェイクスピアならではの新たな伝家の宝刀がここに誕生したのです。これは強い!悲劇のどん底が深ければ深いほど復活の大団円は喜ばしいものになります。シェイクスピアは作家人生の晩年でとんでもない武器を手にすることになったのでした。
『ペリクリーズ』は私にとっても強烈な印象を残した作品になりました。これは面白いです。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
以上、「シェイクスピア『ペリクリーズ』あらすじと感想~ドラマチックなストーリー展開が魅力のシェイクスピア最初の傑作ロマンス劇!」でした。
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