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堂目卓生『アダム・スミス』あらすじと感想~「見えざる手」の誤解を解くおすすめ参考書

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堂目卓生『アダム・スミス』概要と感想~「見えざる手」の誤解を解くおすすめ参考書

今回ご紹介するのは2008年に中央公論新社より発行された堂目卓生著『アダム・スミス』です。

早速この本について見ていきましょう。

政府による市場の規制を撤廃し、競争を促進することによって経済成長率を高め、豊かで強い国を作るべきだ―「経済学の祖」アダム・スミスの『国富論』は、このようなメッセージをもつと理解されてきた。しかし、スミスは無条件にそう考えたのだろうか。本書はスミスのもうひとつの著作『道徳感情論』に示された人間観と社会観を通して『国富論』を読み直し、社会の秩序と繁栄に関するひとつの思想体系として再構築する。

Amazon商品紹介ページより
アダム・スミス(1723-1790)Wikipediaより

この作品はスコットランドの経済学者アダム・スミスの『道徳感情論』『国富論』についての参考書です。アダム・スミスといえば「見えざる手」で有名ですよね。しかしこの「見えざる手」が通俗的な理解では誤解されているというのがこの本で学ぶことができる最大のメリットです。

では、この本について「はじめに」からの文章から見ていきましょう。この本が何を語ろうとしているのかが非常にわかりやすくまとめられています。

アダム・スミス(一七二三-一七九〇)は生涯において二つの書物を著した。『道徳感情論』(一七五九)と『国富論』(一七七六)である。ニつの著作のうち、『道徳感情論』は倫理学、『国富論』に属する本だといわれている。一般に、なじみ深いのは『国富論』の中で最も有名な言葉は何かとたずねれば、多くの人が「見えざる手」と答えるにちがいない。

これまで、「見えざる手」は、利己心にもとづいた個人の利益追求行動を社会全体の経済的利益につなげるメカニズム、すなわち市場の価格調整メカニズムとして理解されてきた。そして、『国富論』の主要なメッセージは、政府による市場の規制を撤廃し、競争を促進することによって、高い成長を実現し、豊かで強い国を作るべきだということだと考えられてきた。

しかしながら、このような解釈によって作られるスミスのイメージ―自由放任主義者のイメージ―は本物だといえるだろうか。すなわち、はたしてスミスは、個人の利益追求行動が社会全体の利益を無条件にもたらすと考えていたのだろうか。スミスは急進的な規制緩和論者であったのだろうか。市場を競争の場と見なしていたのだろうか。経済成長の目的は一国全体を豊かにすることだと考えていたのだろうか。さらに根本に立ち返ってみれば、そもそも『国富論』は豊かで強い国を作るための手引書として書かれたのだろうか。実は、これらの問題を考察するための鍵が、スミスのもうひとつの著作『道徳感情論』の中に隠される。

本書は、『道徳感情論』におけるスミスの人間観と社会観を考察し、その考察の上に立って『国富論』を検討することで、これまでとは異なったスミスのイメージを示す。最近のスミス研究では、『道徳感情論』を『国富論』の思想的基礎として重視する解釈が主流になりつつある。しかしながら、ニつの著作の全体的な論理関係については、必ずしも十分明らかにされているわけではない。本書において私は、『道徳感情論』と『国富論』において展開されるスミスの議論を、社会の秩序と繁栄に関する、論理一貫したひとつの思想体系として再構築する。

さらに、再構築の過程の中で、私は、人間に対するスミスの理解の深さや洞察の鋭さ、そして、それらの現代代的意義を、読書に感じ取ってもらえるよう努めたいと思う。本書を読み終えた読者が、スミスの思想や人間性に関心をもち、『道徳感情論』や『国富論』を独力で読んでみようと思っていただければ幸いである。

中央公論新社、堂目卓生『アダム・スミス』Pⅰ-ⅲ

アダム・スミスの『国富論』は『道徳感情論』とセットで読むことでその意味するところが明らかになるというのがこの本で語られます。

『道徳感情論』は1759年に初版が出版されその後最晩年の1790年まで5回改訂されました。そして『国富論』は初版が1776年でこれも4度改訂され、最終版は1789年に出版されました。

つまり、アダム・スミスは最晩年に至るまでこの2作を並行して練り続けていたということになります。こうしたことからもこの2作が深いつながりがあることがわかってきます。

そして『道徳感情論』に説かれるスミスの思想が通俗的に語られる「見えざる手」とはずいぶん異なることが示されます。アダム・スミスが『国富論』で本当に言いたかったのは何だったのか。それをこの本でじっくりと見ていくことになります。

私は『道徳感情論』と『国富論』を先に読んでからこの参考書を読みました。『道徳感情論』は参考書がなくてもわかるくらい非常に明快で興味深い作品でしたが、『国富論』が全体として何を言わんとしているのかが難しく、その解説を求めてこの参考書を手に取りました。

この参考書はそんな私にとってはとてもありがたい1冊でした。まさしく私が知りたかった情報を教えてくれたのでした。

著者は「本書を読み終えた読者が、スミスの思想や人間性に関心をもち、『道徳感情論』や『国富論』を独力で読んでみようと思っていただければ幸いである。」と述べていますが、この参考書を先に読むのはちょっと厳しいかもしれません。これら2冊を読んだ上であらかじめ自分なりに課題とか疑問点を整理したうえで読んだ方がよりすんなり読んでいけると思います。

『道徳感情論』も『国富論』も難解な哲学書という雰囲気は全くありませんし、とても読みやすい作品です。ただ、これを独学で何の参考書もなしに両者を結びつけて総合的にアダム・スミスの思想を考えていくのは至難の業です。

そうした時にこの参考書は非常にわかりやすく、「見えざる手」についてより大きな視点で見ることができます。アダム・スミスが理想とする社会とはいかなるものか、それをこの本では知ることができます。

非常におすすめな1冊です。

以上、「堂目卓生『アダム・スミス』~「見えざる手」の誤解を解くおすすめ参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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