MENU

J・モンタギュー『億万長者サッカークラブ』あらすじと感想~ロシアのオリガルヒ・アブラモビッチ氏とチェルシーについて知るのにおすすめ

目次

J・モンタギュー『億万長者サッカークラブ』概要と感想~ロシアのオリガルヒ・アブラモビッチ氏とチェルシーについて知るのにおすすめ

今回ご紹介するのは2018年に株式会社カンゼンより発行されたジェームズ・モンタギュー著、田邊雅之訳の『億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム』です。

早速この本について見ていきましょう。

世界中で起こっているサッカーバブルの全貌を解き明かす。
サッカー界を「異様」とさせた億万長者たちの正体を、英国人ジャーナリストが徹底取材!

チェルシー、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティなど、
プレミアリーグを中心に金満オーナーが君臨している。
彼らの存在は、中国の国家的政策も相まって、昨今の移籍金の高騰などを引き起こし、サッカー界を大きく変えてしまった。

本書は、そんな得体の知れない億万長者たちを論じている。
母国を訪れ、足跡をたどり、彼らの素性・背景を解き明かす――。

精力的な取材に基づき、億万長者オーナーたちの政治・経済・社会的な背景、
そしてクラブを手中に収めていく経緯・影響、今後予想されるシナリオ、ワールドカップの招致疑惑についても言及している。

スポーツビジネスの現状、サッカーバブルの全貌を分析した決定版である。

—————————————————————————–
<序章より一部抜粋>

本著「億万長者サッカークラブ」は、サッカー界の内部事情を論じた本ではない。

だが、その話題には当然のように触れている。
また本書は、いわゆる「サッカービジネス」も論じていないものの、サッカービジネスを動かす、新たな支配者たちを論じている。

サッカー界を動かす、スーパーリッチなオーナーたち。一体、これらの人物は何者なのだろうか。

彼らはどこで、そしていかにして巨万の富を築き上げ、20万ポンドもの週給を、サッカー選手にポンと支払えるようになったのか。

さらには最も根本的で、謎に包まれたテーマがある。
そもそも彼らはなぜ、その巨万の富を、サッカー界につぎ込もうなどと思ったのか?

Amazon商品紹介ページより

ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに知ることになったロシアのオリガルヒ(新興財閥)。(※オリガルヒについてはM・I・ゴールドマン『強奪されたロシア経済』に詳しく説かれているのでおすすめです)

その中でも最近ニュースで取り上げられているのが名門サッカークラブチェルシーのオーナー、アブラモビッチ氏です。

経済制裁によってアブラモビッチ氏の資産が凍結され、それに伴いチェルシーの運営が立ち行かなくなるというニュースには私も衝撃を受けました。

この本はそんなアブラモビッチ氏とは何者なのか、そしてなぜチェルシーのオーナーとなったのかを知ることができる作品です。

上の本紹介で、

『本著「億万長者サッカークラブ」は、サッカー界の内部事情を論じた本ではない。』

「彼らはどこで、そしていかにして巨万の富を築き上げ、20万ポンドもの週給を、サッカー選手にポンと支払えるようになったのか。さらには最も根本的で、謎に包まれたテーマがある。そもそも彼らはなぜ、その巨万の富を、サッカー界につぎ込もうなどと思ったのか?』

と述べられますように、この本はサッカーそのものを解説するというより、その背景にうごめく経済の仕組みについて探究していきます。

アブラモビッチ氏がチェルシーを買収したのは何のためだったのかというのは非常に興味深いものがありました。プーチン政権のロシアの実態を知る上でも非常に重要なものであるように思えました。

そしてこの本ではアブラモビッチ氏だけでなく、ウクライナ、アメリカ、中国、タイ、中東など様々な国の億万長者が出てきます。

特にウクライナのオリガルヒ・アフメトフ氏についての章は驚きでした。ウクライナもロシアと同じようにソ連崩壊と共にオリガルヒが台頭し、想像を絶する格差が生まれていたのでした。

また、アメリカの実業家グレイザー氏のスポーツビジネスの手法も読んでいて唖然としてしまいました。グレイザー氏はマンチェスターユナイテッドを買収した人物ですが、その手法がとにかく悪質です・・・

ですが、これはグレイザー氏のマンチェスターユナイテッドに限らず、現代のスポーツ業界のビッグビジネスではよく取られている手法なのでありました。

巨大な資産を持つ人間が国家や地方の財源を利用し、自分の資産をリスクにさらさず莫大な利益を得る。

これはロシアだけでなく、自由競争を謳う西側陣営でも平気で行われていたのでありました。よーいドンのスタートラインが一般の人とはとんでもなく違うのです。100メートル競走なら資本家のスタートラインはゴール手前1メートルといったところでしょうか。こんな不公平なビジネスが横行しているのが現代の実態だというのがよくわかりました。

私はサッカーが好きです。ですが、ビッグマネーで支配されている現代サッカーには賛同できません。このままでは様々な弊害がさらに大きくなり、悪循環になっていくような気がします。これはサッカーに限らず、あらゆるスポーツもそうですし、それこそオリンピックに関しては特に思います。スポーツもビジネスですし、ある程度は仕方ないとは思いますがやはり行き過ぎはよくないと思います。

ロシア・ウクライナ戦争について知るために手に取ったこの作品でしたが、また新たな視点から両国を知れて非常に刺激的でした。

ロシア・ウクライナ情勢だけでなく、スポーツに関心がある方にもぜひおすすめしたい作品です。

以上、「J・モンタギュー『億万長者サッカークラブ』ロシアのオリガルヒ・アブラモビッチ氏とチェルシーについて知るのにおすすめ」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム

億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム

次の記事はこちら

あわせて読みたい
長束恭行『東欧サッカークロニクル』あらすじと感想~ユーゴ紛争の火種ともなった「5.13」事件も知れる... この本はサッカーを通して東欧の国々の歴史や文化を見ていく作品です。 特に一番最初に紹介されるクロアチアではユーゴスラビア紛争のきっかけとなったとも言われる1990年の「5.13」暴動事件について詳しく語られます。 著者は東欧を揺るがしたこの事件について詳しく検証していき、さらにはこの地で荒れ狂っていた民族対立の構図を取材していきます。サッカーを通して見えてくる民族対立の背景は非常に興味深いものがありました。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
A・クルコフ『ウクライナ日記』あらすじと感想~2014年マイダン革命とクリミア編入、東部紛争の経緯を知... 著者のクルコフはマイダン革命が起きた広場のすぐ近くに住んでおり、この革命の流れを最も近くで見ていたひとりです。そんな作家による混乱の日々の記録が本作品になります。 日記体で書かれているので当時の状況がかなりリアルに感じられます。 この本に書かれているのは現在のロシア・ウクライナ戦争に直接繋がる出来事です。この戦争をより知るためにもこの作品はぜひおすすめしたいです。

関連記事

あわせて読みたい
J・クラブツリー『ビリオネア・インド』あらすじと感想~インド版オリガルヒの存在!腐敗、縁故主義のイ... この本で語られるインドの腐敗は凄まじいです。「これからの世界はインドが牽引する」とメディアなど様々な場所で語られていますがそんな単純にことが進むだろうかと疑問になるほどです。インドの発展がどうなるかというのは全くわかりません。一寸先は闇とはまさにこのこと。このカオスな国の行く末がどうなるか全く想像がつきません。
あわせて読みたい
J・モンタギュー『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』あらすじと感想~ウクライナ情勢を違った視点... 「本書は良質なドキュメンタリーがお好きな方、あるいはサッカーはもとより、スポーツと政治・経済のつながり、さらには文化論に興味がある方にはたまらない一冊だと思う。(訳者あとがきより)」 私もまさにそう思います。 過激なサポーター達の姿を通して社会のなぜ、歴史のなぜを問うていくこの作品は非常に刺激的でした。かなり驚くようなこともたくさん書かれています。ぜひぜひおすすめしたい作品です!
あわせて読みたい
M・I・ゴールドマン『強奪されたロシア経済』あらすじと感想~オリガルヒはいかにして生まれたのか。ソ... 『強奪されたロシア経済』という、なんとも過激なタイトルではありますが、この本は陰謀論のようなものではありません。 この本はロシア経済の専門家による作品になります。この本を読んでいると、タイトルの意味がものすごくわかります。まさしく「強奪されたロシア経済」としか言いようのないロシア事情を知ることになります。かなりショッキングです。
あわせて読みたい
真野森作『ルポ プーチンの戦争』あらすじと感想~現地取材から見えてくるウクライナ情勢とは ウクライナはなぜこんなことになってしまったのか。 それは2014年に至るまでの複雑な背景もありますし、そこから今にかけての事態の進展もあります。 この本を読んで改めて私はこの戦争が起きるまで何にも知らなかったんだなとつくづく痛感しました。 2014年から今に至るまでのウクライナの現地の様子を知るのにこの本は最適だと思います。これまでロシア・ウクライナ問題に関する様々な本を当ブログで紹介してきましたが、その中でも最もおすすめしたい作品のひとつです。
あわせて読みたい
M・ラリュエル『ファシズムとロシア』あらすじと感想~ファシスト、非ナチ化という言説はなぜ繰り返され... 私がこの本を読もうと思ったのは、プーチン大統領がウクライナに対して「非ナチ化のために我々は戦っている」という旨の発言があったからでした。正直、その言葉を初めて聞いたときは全く意味がわかりませんでした。なぜプーチンにとってウクライナと戦うことが非ナチ化なのか、私にはどうしてもわからなかったのです。 というわけで手に取ったこの本でしたが、これがなかなか興味深く、「なるほど」と思えることが満載の一冊でした。
あわせて読みたい
P・ポマランツェフ『プーチンのユートピア』あらすじと感想~メディアを掌握し、情報統制するプーチン政... この本も衝撃的でした。 プーチン政権がいかにメディアを掌握し、国民に対して情報を統制しているかがよくわかります。 著者はテレビプロデューサーとして実際にロシアのメディア業界を体感し、その実態をこの本で記しています。 ロシアのテレビ業界に働く人々の雰囲気や、プーチンから厳しく監視されているメディア業界の緊張感がこの本で感じられます。まさにプロパガンダの最前線。よくこんな本を出せたなと驚くばかりです。
あわせて読みたい
石川陽平『帝国自滅 プーチンVS新興財閥』あらすじと感想~プーチン大統領はいかにしてオリガルヒと戦っ... ソ連崩壊後の混乱を経て台頭してきたオリガルヒ。 これまで見てきた本でもありましたように、ロシア国民は彼らの横暴に怒りを募らせていました。 そしてそんなオリガルヒと戦うプーチンという構図。これが国民の支持を得た大きな要因の一つでした。 しかし、その実態はどのようなものだったのか、その副作用は何だったのかということがこの本では語られます。 クリミア併合や今回のウクライナ侵攻にも繋がっていくプーチンとオリガルヒの関係を知るのにおすすめな作品です。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次