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ひのまどか『プロコフィエフ―音楽は誰のために?』あらすじと感想~ソ連の天才音楽家の苦悩と生涯を知るのにおすすめの伝記!

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ひのまどか『プロコフィエフ―音楽は誰のために?』あらすじと感想~ソ連の天才音楽家の苦悩と生涯を知るのにおすすめの伝記!

今回ご紹介するのは2000年にリブリオ出版より出版されたひのまどか著『プロコフィエフ―音楽はだれのために?』です。

この作品は「作曲家の物語シリーズ」のひとつで、このシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどか著『スメタナ』がきっかけでした。

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クラシック音楽には疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみたい」と思い、こうしてこのシリーズ を手に取ることにしたのでありました。

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この「作曲家の物語シリーズ」については巻末に以下のように述べられています。

児童書では初めての音楽家による全巻現地取材

読みながら生の音楽に触れたくなる本。現地取材をした人でなければ書けない重みが伝わってくる。しばらくは、これを越える音楽家の伝記は出てこないのではなかろうか。最近の子ども向き伝記出版では出色である等々……子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています。

リブリオ出版、ひのまどか『プロコフィエフ―音楽は誰のために?』

一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。

ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっています。まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。

さて、今作の主人公はロシア・ソ連の作曲家セルゲイ・プロコフィエフです。

セルゲイ・セルゲーヴィチ・プロコフィエフ(1891-1953)Wikipediaより

プロコフィエフはロシア帝政末期のロシアに生まれ、その後第一次世界大戦、ロシア革命によるソ連の成立、第二次世界大戦、冷戦のはじまりという激動のロシアを生き抜いた作曲家です。

プロコフィエフという名を私はこの伝記を読んで初めて知りました。ですが、彼の代表曲『ロメオとジュリエット』を聴いた時私は驚いてしまいました。誰しもが聴いたことがあるこの曲こそ、プロコフィエフの作だったのです。

チャイコフスキーやショスタコーヴィチに比べると日本では知名度は低いかもしれませんが、プロコフィエフは20世紀を代表する作曲家として知られています。

若い頃から圧倒的な才能と凄まじい集中力とエネルギーで頭角を現していたプロコフィエフ。

しかし第一次世界大戦の勃発と1917年のロシア革命により彼のソ連での音楽家の道は閉ざされてしまいます。

そのため彼は単身アメリカに渡り苦しい時を過ごしますが、やがて彼は成功しソ連に凱旋することになります。

世界で名声を博す音楽家となったプロコフィエフの存在は、世界にソ連の実力をアピールしたい国家首脳部にとっても歓迎すべきことでした。

久々に帰ったソ連での歓待ぶりに喜ぶプロコフィエフでしたが、実はその裏でソ連では恐るべき事態が進行していたのでした。

社会主義国家建設の熱狂の裏で、ソビエトにはぶきみな動きがあった。それが国民の目にはっきりと映ったのが、一九三四年十二月一日の共産党中央委員キーロフの暗殺と、つづく反共産党分子の排除である。党中央委員会はそれを「粛静」と呼んだ。キーロフはスターリンに対立する派閥の中心人物だった。暗殺犯は捕まったが、犯行にスターリンの意志が働いていると、国民は皆心の内で思っていた。しかしスターリンを疑ったり非難することは、自殺行為である。そういう人間は「反革命分子」「人民の敵」として片端から排除されてしまう。一般市民だけではなく、党員でも、党に疑われたら最後、処刑されたり、強制収容所送りになったりした。

粛静は年を追うごとに激しさを増し、レーニン時代の指導者はすべて姿を消した。

スターリンの独裁と恐怖政治は社会のあらゆる分野に浸透し、軍人であろうが医者であろうが商人であろうが、安全な人間はひとりもいなかった。いったい何十万人、何百万人の「人民の敵」が殺され、強制収容所に送られたのか、それさえ不明なのだ。

国民の間には相互の不信感が増し、相手から告発される前に告発してしまうという、自衛のための告発が日常化した。

だが、パリとモスクワを往復していたプロコフィエフは、こうした動きにまったく気付かなかった。(中略)

彼は物事すべてを、音楽を中心にしてしか判断できなかった。それゆえ、粛清の嵐が最も激しく吹き荒れている只中に、何も知らず王者の気分で帰国したのだった。

リブリオ出版、ひのまどか『プロコフィエフ―音楽は誰のために?』 P130-132

ここで語られるようにソ連の恐怖政治がすでに始まっていたのです。

ソ連の恐怖政治については当ブログでもこれまでお伝えしてきました。

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しかも上の引用の最後で語られていたように、プロコフィエフはその事実に全く気付くことができませんでした。

これは上のリンクにありますフランスのノーベル賞作家ジイドもそうでしたし、ソ連を代表する作家ゴーリキーも同じでした。

ソ連は表向きは理想的な国家を装っていました。その外面的な姿にプロコフィエフもジイドも惑わされてしまったのです。

ソ連内部にいたゴーリキーでさえ最後の最後になってようやく自分が騙されていたことに気づいたほどでした。

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であるならばずっと外国にいて、しかも音楽に没頭していたプロコフィエフにはその実態に気づくことは非常に困難なことでした。

豪華な邸宅を与えられ、何不自由ない生活を保障され、彼の音楽は成功に次ぐ成功。そんな状況の中彼の音楽人生は絶頂を迎えていくかに思われました。

しかし第二次世界大戦やその後始まった冷戦構造によって恐怖政治はますます強くなり、ついにプロコフィエフの前にもその姿が現れることになります。

プロコフィエフは不当に告発され、彼の音楽活動は事実上ストップさせられることになりました。彼の名作たちも上演禁止になり、新たな音楽活動も制限されてしまいます。密告や監視の網の中についに彼もからめとられてしまったのでした。

こうしたソ連の恐怖政治の雰囲気をこの伝記では知ることができます。そしてそんな状況の中いかにして天才作曲家プロコフィエフは音楽と向き合っていたのかを目の当たりにすることになります。

ソ連抑圧時代を音楽家の視点から描き出したひのまどかさんの筆には驚くしかありません。ただ単に歴史的な事実を並べるだけではなく、物語として鮮明にその過酷な人生が語られています。人物と共に時代背景まで知ることができる「伝記の利点」がこれ以上ないというほど輝いています。ひのまどかさんの著作には読む度に驚かされます。もう頭が上がりません。

最後にプロコフィエフについて著者による巻末のあとがきを見ていきたいと思います。

《ピーターと狼》は日本でもとても有名だ。普段オーケストラに関心のないかたでも、音楽と物語が一緒になったこの曲をどこかで一度は聴かれているだろう。日本だけではなく、ヨーロッパでも、アメリカでも《ピーターと狼》はクラシック音楽入門の絶好の教材になっている。

では、それを作曲したのは誰?となると、ほとんどの方は御存知ない。プロコフィエフというロシア人名が覚えにくいこともあるし、《ピーターと狼》以外の曲が余り知られていないという事情にもよるだろう。

私自身は、昔からバレエ音楽《ロミオとジュリエット》に惚れ込んでいた。シェイクスピアのこの名作を音楽にした作曲家はたくさんいるが、プロコフィエフほど劇的に、ダイナミックに、しかも登場人物の人物の性格や各シーンを見事に描きだした人はいない。音楽は悲劇を予感させる荘重な幕開けに始まり、敵対する二つの名家の若者たちの荒々しい喧嘩、集団の決闘、幾つもの死、その中に芽生えたロミオとジュリエットの宿命の恋、両家の和解への二人の必死の努力、秘密の結婚を経て、悲痛な死に終わる。ここでプロコフィエフが書いた、剣が火花を散らしてぶつかり合う決闘シーンや、若者が大人をからかうコミカルな仮面舞踏会のシーン、痛いほど切なく胸に迫る愛のシーンなど、どの一曲をとっても大変な傑作だ。このバレエ音楽にプロコフィエフの魅力の総てが結集している、と言っても過言ではない。

優しい教育者の顔がのぞく《ピーターと狼》と、若者の情熱と無鉄砲さに満ちた《ロミオとジュリエット》。こんなにも傾向のちがう音楽を同時に易々と書き上げたプロコフィエフは大天才だ。どんな人だったのだろう?と長い間思っていたが、同時に秘密に包まれたソビエトの作曲家のことを調べるのは不可能だと諦めてもいた。しかし一九九一年のソ連邦崩壊後、事情が急激にかわってきた。九五年に別の取材でロシアに行った時には、何人もの人から「もう何でも話せるし、何でも調べられます」といわれた。そして今回の取材になった訳だが、新しいたくさんの情報が得られたことは予想以上で、改めてロシアの変貌ぶりに目を見張った。

今、プロコフィエフの波乱に満ちた生涯を追った後、強く感銘を受けたことが二つある。

一つは、ディアギレフやエイゼンシュタインを核にした芸術家集団の結束のすばらしさである。正しく文化とはこういう所から生まれてくるのだと、その熱気を想像するだに胸が躍る。

もう一つは、天才の創造力のたくましさだ。プロコフィエフの創造力は、国家権力に痛めつけられた後も、少しも損なわれることはなかった。国家が崩壊し、独裁者が消えた後に残ったのは、彼の音楽の方だ。彼は約一四〇曲の作品を生みだしたが、前述の二作品以外の曲もこれからどんどん演奏されていくだろう。


リブリオ出版、ひのまどか『プロコフィエフ―音楽は誰のために?』 P 241-242

この伝記も非常におすすめです。

私個人にとっても、これまで学んできたことと音楽の世界が繋がった貴重な読書になりました。

読めば読むほど世界が広がる。それがひのまどかさんの伝記シリーズの素晴らしいところだと思います。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以下に当ブログで紹介してきたソ連の記事を掲載しておりますので、ぜひそちらの記事もご覧いただけますと幸いです。ソ連崩壊から30年以上経ち、その過酷な歴史が現代を生きる私達には遠い過去と化してしまっている現実があります。世界情勢が不安定な今だからこそ、こうした歴史を学ぶことは非常に重要なことであると思います。ぜひ以下の記事もご覧ください。きっと驚くような事実を目にすることでしょう。

以上、「ひのまどか『プロコフィエフ―音楽は誰のために?』ソ連の天才音楽家の苦悩と生涯を知るのにおすすめの伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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