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チェ・ゲバラの霊廟とゲバラとドン・キホーテの意外な関係~チェ・ゲバラゆかりの地、サンタクララ⑴ 僧侶上田隆弘の世界一周記―キューバ編⑦
6月7日、本日向かうはチェ・ゲバラゆかりの地サンタクララ。
バラデロからは車でおよそ3時間ほどの距離。
サンタクララ近郊に着くと、サンタクララとチェ・ゲバラの大きな看板がお出迎えしてくれる。
サンタクララはチェ・ゲバラと切っても切れない関係のある街だ。
ぼくがチェ・ゲバラについて知ったのは先の記事までで述べてきたようにキューバ危機への関心からだった。
キューバの歴史を学ぶ中で知ることになったチェ・ゲバラの存在。
理想を追い求めた革命の戦士。
世界で最も尊敬される革命家。
どうして彼はこんなにも世界中の人を惹き付けるのだろうか。
彼は何を成し遂げ、なぜ偉大な人物として尊敬されるようになっていったのだろうか。
そして彼のことを調べているうちに、ぼくはあることを知ることになる。
チェ・ゲバラの愛読書が『ドン・キホーテ』であり、彼はドン・キホーテの生き様に大きな影響を受けていたという事実だったのだ。
くしくもその時、ぼくは世界で聖書に次ぐベストセラーである『ドン・キホーテ』を読もうか読むまいか迷っていた時期だった。
何せ『ドン・キホーテ』は言わずと知れた大作。すべて読もうとなると相当な覚悟が必要な書物だ。
だが、チェ・ゲバラほどの大人物が愛読していたのならば何か巨大な秘密が隠されているに違いない。
それならばまずは読んでみよう。後のことは読んでから考えればいい。
『ドン・キホーテ』の前で足踏みしていたぼくの背中を押してくれたのはチェ・ゲバラの存在だったのだ。
そのおかげでぼくは『ドン・キホーテ』を読むことができ、ぼくも高潔なる騎士ドン・キホーテに心底惚れこむことになった。
ドン・キホーテとぼくについてはスペイン編の記事でも述べたが、ぼくの旅に大きな影響を与えていたのがドン・キホーテの偉大なる遍歴の旅だったのだ。
チェ・ゲバラはいわばぼくとドン・キホーテをつないでくれた恩人だ。
それならばぜひとも直接会ってご挨拶したい。
だからこそチェ・ゲバラのお墓があるサンタクララにぜひともお参りしたいと思い、ここまでやってきたのだ。
さて、今日の1番の目的地チェ・ゲバラ霊廟のある革命広場に到着。
チェ・ゲバラはアルゼンチンで生まれ、学生の頃に南米諸国を旅した際、困窮した人々や国に抑圧される人々の姿を見て革命家を志す。
医師として生活することもできたのにそれを捨ててまで革命に身を捧げたゲバラ。
そのゲバラの運命を変えたのが後にキューバの指導者となるカストロとの出会い。
カストロとの出会いによって彼はキューバの革命運動に参加することになったのだ。
像の裏手側には博物館がある。
ここにはゲバラが実際に使っていた武器や、着ていた衣類、直筆の手紙など貴重な資料が展示されている。博物館内部は残念ながら撮影禁止だ。
ここに展示されているのはほとんどがレプリカではなく本物。
そしてその中でもぼくが一番感動したのは『ドン・キホーテ』の作者セルバンデスの著書『格言集』の展示だった。
これはチェ・ゲバラが青年時代に実際に手に取って読んでいた実物だ。
残念ながら『ドン・キホーテ』は展示されていなかったが、チェ・ゲバラがこの本を実際に手に取って読んでいたと思うと鳥肌が止まらなかった。
チェ・ゲバラは幼少期からずっとひどい喘息に苦しめられていた。
発作で外に出られない時間が多かったためか彼は大変な読書家だったそうだ。
革命中でも読書を欠かさないほどの本の虫。
同じく本が大好きなぼくにとってチェ・ゲバラはそういう面でもシンパシーを感じる。
『格言集』の展示はぼくにとって心が震えるような体験となった。
また、この博物館に隣接してゲバラの霊廟がある。
ここにゲバラの遺骨が納められているのだ。
ゲバラは1967年南米ボリビアの革命に参加中、ボリビアの山中で政府軍に捕えられ銃殺された。チェ・ゲバラ、39歳での死だった。
遺体はしばらくは行方不明だったが1997年に遺骨が発見されハバナへ移送され、ここサンタクララに埋葬されることになった。
キューバにいたはずのゲバラがなぜボリビアで亡くなったのか。
彼はキューバだけではなく世界中で搾取と貧困に苦しむ国を救おうとキューバを飛び出したのだ。
キューバの革命における自分の役割は果たし終えた。だから私は次の旅へと向かうのだというゲバラの尽きせぬ理想。
革命家チェ・ゲバラの生き様を表したかのような死に様だった。
しかしそれは全世界にとってあまりにも惜しまれる死であった・・・
チェ・ゲバラの霊廟は明かりが落とされた洞窟のような雰囲気の空間だった。
入り口から入ると正面の奥行きは3mほど、そして右手側に向かって霊廟の空間が広がっている。
それでもこの霊廟はこじんまりしたものでおそらく15メートルあるかないかといったところだろうか。
その空間の中央壁面にチェ・ゲバラの遺骨が納められている。
ヨーロッパの教会室内墓地でよく見る、壁面に棺を埋め込んだ形のお墓。
日本のような墓石が立っている形ではなく、棺が埋め込まれた壁に碑文が刻まれ、ここにチェ・ゲバラが眠っていることを示している。
静まり返った薄暗い霊廟の中、チェ・ゲバラのお墓へと一歩一歩進んで行く。
ついにぼくはここまで来たのだ。
ぼくの旅最後の国、キューバ。
これまでいくつかのトラブルはあったもののなんとかここまで無事に旅を続けることができた。
ぼくの旅の無事とこれまでの体験や学べたことをゲバラに報告し、そしてドン・キホーテとぼくをつないでくれたことへの感謝を心に念じた。
ゲバラはぼくの大きな先達だ。ドン・キホーテの遍歴の騎士道を奉ずる偉大なる先達だ。
ぼくはゲバラのお墓の前に立ち、姿勢を正して黙祷を捧げた。
高潔な理想の実現に命を懸けたチェ・ゲバラ。
その生き様は世界中の人々に熱いものを伝えることになった。
ぼくもその一人として心からの敬意と感謝を表明したいと思う。
ぼくは時間の許す限りゲバラと向き合い、自分の心に浮かび上がってくる声に耳を傾け続けた。
そして余談ではあるが、ここを訪れた6月7日はぼくの誕生日。
まさか29歳の誕生日をチェ・ゲバラのお墓参りで迎えることになろうとはこの旅を計画するまではまったく予想もしていなかった。
きっと生涯忘れることのない誕生日となることであろう。
続く
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