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モチューリスキー『評伝ドストエフスキー』あらすじと感想~圧倒的な情報量を誇るドストエフスキー評伝の金字塔!

評伝ドストエフスキー
目次

モチューリスキー『評伝ドストエフスキー』概要と感想~圧倒的な情報量を誇るドストエフスキー評伝の金字塔!

フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

本日は筑摩書房出版の松下裕・松下恭子訳、コンスタンチン・モチューリスキー『評伝ドストエフスキー』をご紹介します。

モチューリスキーは1892年南ロシアのオデッサに生まれました。

その後亡命し文学史家、文芸評論家として活躍しパリ・ソルボンヌ大学ロシア文学部の教授を務めました。

『評伝ドストエフスキー』は1947年にロシア語で出版され、瞬く間に多くの国で翻訳され「あらゆる言語で書かれたドストエフスキー文献のうちもっともすぐれた研究書」と呼ばれるようになりました。

アマゾンの商品ページにも次のように紹介されています。

「 ドストエフスキー評伝の金字塔。あらゆる言語で書かれたドストエフスキー文献のなかで、最もすぐれた書。作家論、作品論の白眉。面白さの点で、今なおこれをしのぐものはない。 」

Amazon商品紹介ページより

このように多方面から高い評価を受けている作品であります。

では、早速この評伝の特徴を見ていきましょう。

モチューリスキーは自身の精神的危機を経て、ロシア正教と深いかかわりを持つようになり、一時は修道院に入ろうとしたほどであったそうです。以下、解説より引用します。

この大部な評伝は、こういう経歴の正教徒の文芸学者による作品だから、ドストエフスキーを世界の最も偉大な宗教的・哲学的思索者のひとり、「世界文学の偉大なキリスト教作家のひとり」(むすび」)としてとらえているところに基本的な特色がある。

著者は、「このロシアの作家の歴史的使命は、ヒューマニズムの破綻の主張とその宗教的虚偽の暴露にあつた。彼のすべての長篇小説類は、神を欠いた人間愛の誘惑との闘いに捧げられている」(二十一「一八七六、七七年の『作家の日記』)と言っている。

しかも、ドストエフスキーのようには、「だれひとりとして、これほど果敢に神と格闘した者はいなかったし、これほど大胆不敵に世界秩序の正当性について神に問いかけた者はいなかった。また、たぶんこれほど主を愛した者もいなかった」(十四「外国生活」)と結論している。
※一部改行しました

筑摩書房出版、松下裕・松下恭子訳、コンスタンチン・モチューリスキー『評伝ドストエフスキー』P733

ロシア正教の教義と実践に詳しいモチューリスキーによる詳細な作品解説がこの評伝の最大の特徴です。

そして見てください。この圧倒的なボリューム感!

文庫本と比べれば一目瞭然です。新潮文庫版の『罪と罰』もなかなかの分量ですがそれですら薄く感じさせます。

これだけ大きなサイズで中身はなんと、754ページ!

まさにドストエフスキー評伝の金字塔と呼ぶにふさわしい堂々たる威容です。

なぜこれほどのボリュームなのかと言いますと、ドストエフスキーの生涯に沿って全ての作品について解説しているからであります。

つまりこの1冊で伝記と作品解説の両方がなされているということになります。

ひとつひとつの作品がドストエフスキーの人生とどのようなかかわりがあるか、これ以上ないというほど詳細かつわかりやすく解説されています。

・・・とはいえ、内容はかなり専門的です。入門書としては厳しいかもしれません。

と言いますのも私は一度この本を読むのに挫折しています。その時はドストエフスキー全集を読み始めていた時期で、まだドストエフスキー作品のあらすじすらつかめていない状態でした。

その状態でこの評伝の詳細な解説や専門的な内容を読んでもなかなかピンと来なかったのです。

そのうちこの圧倒的なボリュームと濃厚な中身に徐々に頭のエネルギーが削られていき、もうだめだと挫折してしまったのでした。

しかし多くの伝記や参考書を読み、2周目のドストエフスキー全集に入ったときにはこの評伝から受けるイメージは一変していました。

一度作品を読み、ざっくりとでもその内容が頭に入った状態でこの本を読むと、驚くほど新鮮な発見を与えてくれます。

自分が一度目に小説作品を読んだ時には気付かなかったことがこれでもかと出てきます。おかげで2周目に小説を読むときには前とは全く違ったもののように見えるようになりました。

特に『罪と罰』『白痴』の解説はものすごいです。

ドストエフスキーはこんなにもこの作品に複雑な意味を与え芸術的技巧を凝らしていたのかと驚くばかりでした。小説のひとつひとつの文章の存在感が圧倒的に増してきます。読んでいて「うわ!これか!」と鳥肌が立つようでした。

とにかく驚きです。ものすごいです。

というわけでこの評伝はドストエフスキーを研究する際にはものすごくおすすめです。

今現在も私はこの評伝を小説を読む前の参考書として用いています。さすがに最初から最後まで一気に通し読みすることはありませんが、読みたい作品の解説部分を読むようにしています。

そうすると全体としては分厚すぎるこの本も、一作品ずつの解説としては数十ページで収まり、ちょうどよい分量になります。

ただ、今はもう絶版になっていてなかなか手に入りにくくなっています。値段もかなり高騰しています。私が中古で買った時の2倍以上にもなっています。(最近どの本も値上がりしているような気がします。本の需要が増えているのでしょうか)

入手のしにくさが難点ではありますが、この本は間違いなく名著です。ドストエフスキー研究の最高峰と言えるのではないでしょうか。

以上、モチューリスキー『評伝ドストエフスキー』でした。

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ドストエフスキーとキリスト教のおすすめ解説書一覧~ドストエフスキーに興味のある方にぜひ知って頂きたいことが満載です

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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